春節へのカウントダウン:団欒と希望が紡ぐ祝祭の幕開け
日本の正月が明けると、中国では、春節(旧正月)が間もなく訪れます。これは中国人にとって一年で最も大切な祝日であり、再会、団欒、そして希望を意味します。
春節は1日だけを指すわけではありません。この国民の祝日は合計8日間続きます。まず、半月前に始まる「春運」(※1 春运)と呼ばれる民族大移動によって、春節の幕が開けます。私が住む上海は中国でも最も経済が発達した都市のひとつであり、常住人口2400万人のうち40%が移住者です。これにより、春節の間、上海への出入りの旅客数は大幅に増加します。2024年の春節の間、帰郷や観光を含め、上海からの総旅客数は4,354万人に達しました。
春節の1か月ほど前から、地下鉄ではスーツケースを引いて各主要鉄道駅に向かう人々の姿が目立つようになります。駅や空港は人でごった返し、徐々に道路を走る車や歩行者、地下鉄の利用客の数が減り始めます。オフィスワーカーたちは気が緩み、厄介な仕事は暗黙の了解で春節後に先延ばしすることが増えます。建設現場はすでに静まり返り、宅配便や物流も受付を停止し始めます。
一方で、古くからの上海人たちが好む百貨店や、南京路にある老舗の食品店は、上海語を話すおじさんやおばさんたちで賑わいます。こうした日常の一つ一つから、春節らしい雰囲気が漂い始めるのです。
年越しの伝説と儀式:春節に込められた願いと伝統
私たちは大晦日を「过年(年越し)」と呼びます。伝説によると、古代に「年(ニエン)」という怪物がいて、大晦日の夜になると現れ、家畜を食べたり人々を傷つけたりしたそうです。人々は、この怪物が赤色、火の光、大きな音を怖がることを発見しました。そのため、赤い対聯(掛け軸)を貼ったり、爆竹を鳴らしたり、赤い服を着たりして「年」という怪物を追い払い、翌年の無事を願うようになりました。これらの風習は徐々に伝統となり、今日に至っています。
「年越し(过年)」は単なる祝日ではなく、一大行事です。この大切な行事のためには、しっかりとした儀式の感覚(※2 儀式感)が欠かせません。
まず、赤い対聯(掛け軸)、「福」の字、年宵花(年越し用の花)を準備し、家の中を赤く彩って、華やかでおめでたい雰囲気を演出する必要があります。次に、大掃除を行い、窓を拭いたり、洗濯物を干したりして、家を清潔で明るく整えます。また、新しい服を買い、年越しのための食材や正月用品を揃えることも大切です。
今では生活水準が向上し、食べ物や衣類に困ることは少なくなりましたが、それでも年越しには新しい服を着て、縁起が良いとされているお菓子を家に飾ることは、習慣であり伝統となっています。
家族が紡ぐ春節の味:年夜飯の伝統と幸せの記憶
春節前夜、大晦日の夜のことを「除夜」(※3 除夕)と呼び、その日の夕食は一年で最も重要な家族団欒の食事です。私たちはこれを「年夜飯」(※4 年夜饭)と呼びます。
子供の頃を思い出すと、大勢の家族が集まるため、普段はしまってある円卓を出してきて、使い切りの透明なビニール製テーブルクロスを敷いて準備しました。テレビは朝から晩までつけっぱなしで、大人たちはおしゃべりしながら夕食の準備に追われ、子供たちはあちこち駆け回って笑い声を響かせていました。
上海の家庭での「年夜飯」には定番の料理があります。冷菜では、ポテトサラダ、ネギ油をかけたクラゲ、燻製魚、干し鰻などが並び、温菜では、エビの炒め物、タケノコと豚肉の煮込みなどが出されます。そして、必ず魚(yú)が一品用意され、これには「年年有余(毎年、余裕があるの意味)」(※5 年年有余)という縁起の良い意味が込められています。最後に「全家福」という一品が登場します。金色の卵餃子(卵を皮にした餃子)や肉団子、春雨、黄芽菜(白菜の一種)、青菜と冬筍を煮込んだもので、「苦しみから抜け出す」ことを象徴しています。また、デザートには、幸福と甘さを象徴する八宝飯、春巻、酒醸(発酵米)入りの小さな団子が欠かせません。これらの料理が山盛りになり、テーブルをいっぱいに埋め尽くします。
かつてはこれらの食材はすべて手作りでした。卵餃子の皮は、長い柄の小さな丸いスプーンで少量の卵液をすくい、ガスコンロの上で一枚一枚慎重に焼きます。八宝飯は、もち米を水でふやかして炊き、豆沙(あんこ)と色とりどりの砂糖漬けを加えて蒸します。干し鰻は、一週間前から下ごしらえと乾燥作業を始める必要があり、どれも手間と時間がかかります。
現在では手作りする人はほとんどいなくなり、市販の卵餃子の皮はどれも均一に薄く仕上がっていますが、手作りの厚みや卵の香ばしさは失われています。振り返ると、丹精込めて作られたすべての料理には、他に代えがたい幸福の味が詰まっていました。
爆竹の音から静寂へ:変わりゆく春節の風
年夜飯は、テレビで放送される春節聯歓晩会「春晩」(※6 春晚)を見ながら、窓の外から聞こえる爆竹の「パンパン」という音をBGMにして、2~3時間かけて楽しむのが一般的でした。夕食が終わると、バルコニーに出て近所の人たちが打ち上げる花火や爆竹を眺めたり、大人に連れられて外で花火を楽しんだりしました。花火は好きでしたが、自分に降りかかってくるのではないかと、いつも少し怖かったのを覚えています。
大晦日の夜は、大人が子供たちに夜通し起きていることを許してくれる特別な夜です。家族みんなで「春晩」を見ながら夜中の12時を迎えます。窓の外では爆竹の音が最も盛んになり、スマートフォンの通知音も絶え間なく鳴り響きます。
2016年以降、上海の中心部では花火や爆竹の使用が禁止されるようになりました。(※7 烟花爆竹禁令) それ以来、爆竹の音は消え、夜空には赤や緑の光の反射も見られなくなり上海の大晦日の夜は静かで少し寂しい雰囲気になりました。人々はまだ爆竹が許されている郊外に車で出向き、そこで伝統的な春節の賑やかさを味わうことが増えました。
正月初日(旧暦1月1日)になると、人々は新年の挨拶回りをし、紅包(ホンパオ※7红包)を受け取り、寺院でお参りをします。春節期間中、普段は騒がしい上海も、道路がひっそりとして、まるで人口が半分になったかのように静まり返ります。しかし、上海人はこの貴重な静けさを楽しんでいるようです。
変わりゆく春節の風景:伝統と現代の融合
「最近は年越しの雰囲気が薄れてきた」と言う人もいますが、中国の伝統的な民俗文化の継承が広まるにつれて、若い世代がこうした古くから伝わる習慣を理解し、好きになり、体験するための時間を費やそうとする動きが見られるようになっています。
「年夜飯」は、昔自ら腕を振るっていた年配の家族が高齢になり、若い世代は忙しくて準備の時間も体力もないため、近頃では多くの家庭がホテルやレストランでの会食を選ぶようになりました。準備の手間もなく、食事後の片付けもする必要もありませんが、やはり家での食事のような自由で温かい雰囲気は欠けてしまいます。そのため、若い世代の中には、自ら時間をかけて家族のために一卓の「年夜飯」を準備することに喜びを見出す人も増えてきました。伝統的な料理が少し減り、代わりに流行の料理が加わることもありますが、その準備の過程で感じる心は変わりません。
また、多くのレストランでは「年夜飯セット」を販売しています。これは、調理が簡単な半調理済みの料理で、自宅で仕上げるだけで完成するものです。これに自分の好きな料理を加えることで、レストランにはない家庭ならではの温もりのある雰囲気を楽しめるため、多くの家庭に選ばれています。
春節には、人々は今でも贈り物を持って親戚や友人を訪ねます。贈り物は実用性よりも心を込めた工夫が重視されるようになり、美しく包装された高級フルーツや流行っている赤ワインなどが人気です。また、多くの人が旅行で年を越すことを選ぶようになり、電話やメッセージアプリを通じた遠方からの新年の挨拶も、親しみのある方法として浸透しています。
ショッピングモールでは、灯籠鑑賞や獅子舞の見物、灯籠作り、対聯や「福」の字を書く体験、窓飾りを切り絵で作るなど、さまざまな伝統的な体験イベントが開催され、特に小さな子どもがいる家庭に大人気となっています。
日常への帰還:元宵節が告げる春節の終わり
正月十五日の元宵節(※9 元宵节)が過ぎると、人々はようやく「またひとつの春節が終わった」と実感します。
地下鉄は再び混み合い、配達員たちが街中で忙しそうに働く姿が戻り、休業していた小さなお店も次々と営業を再開します。人々は再び日常の忙しさに戻り、新しい一年、より良い一年のために歩み始めます。
祝您新年快乐!
春節関連の中国語表現
1. 春运 (chūn yùn)
• 意味: 春節期間中の大規模な人の移動現象
• 日本語訳: 春運(帰省ラッシュ)
2. 仪式感 (yí shì gǎn)
• 意味: 特定の出来事や場面に対する重視や称賛を表現する行動。一連の形式や所作を通じて示される敬意。
• 日本語訳: 儀式感とは、出来事や場面への敬意を形式や態度で表現すること。
3. 除夕 (chú xī)
• 意味: 春節前夜、大晦日
• 日本語訳: 除夜
4. 年夜饭 (nián yè fàn)
• 意味: 春節前夜の家族団欒の食事
• 日本語訳: 年越しの晩餐
5.年年有余 (nián nián yǒu yú)
• 意味: 毎年余裕があり、豊かさが続くことを願う表現。「余(余る)」(yú )と「鱼(魚)」(yú)の発音が同じため、魚のモチーフと共に使われることが多い。
• 日本語訳: 毎年豊かさがある
6. 春晚 (chūn wǎn)
• 意味: 春節聯歓晩会(中国中央テレビの春節特別番組)
• 日本語訳: 春晩(日本の紅白歌合戦のような番組)
7.烟花爆竹禁令 (yān huā bào zhú jìn lìng)
• 意味: 花火・爆竹禁止令。空気汚染や騒音公害の低減、火災リスク防止を目的に2016年から上海の外環状道路内で禁止。
• 日本語訳: 花火や爆竹の禁止令
8. 红包 (hóng bāo)
• 意味: お年玉や祝い事で贈られる赤い封筒
• 日本語訳: 紅包(お年玉)
9. 元宵节: (yuán xiāo jié)
• 意味: 正月十五日、春節の締めくくりとなる行事
• 日本語訳: 元宵節。2025年の元宵節は、2月12日。
これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!