上海人は「精明」?
上海の人に対する評価として、「精明」(※1)という言葉があります。「抜け目がない」、「計算高い」とか「冷たい」といった、少し否定的に響く言葉です。しかし、上海で長く暮らしていると、こうした言葉が実際に伝えたいことは、実は「距離感」のことなのだとわかってきます。
「距離感」とは、人との関わりにおいて、ある一定の距離を保つということです。親密すぎることもなく、かといって疎遠すぎることもない、そうしたほどよい距離感が、上海の人たちの日常的な習慣なのです。

物理的な距離にも同じことが言えます。例えば、列に並ぶときには、前後の人との間に少なくとも一人分の距離を空けます。前の人にぴったりとくっつくようなことはありませんし、もし後ろの人があまりに近くに寄ってくると、何だか落ち着かない気持ちになってしまいます。
さらに、人と人との付き合いにおける距離感は、より繊細であり、またより深く感じられます。
中国では特に人情が重視され、「礼には礼をもって返す」ことが尊ばれています。上海の人々にとっても、これは基本的なマナーであり礼儀ですが、上海の人たちは比較的、他者との交際において独立性を保つことを好みます。必要以上の社交にエネルギーを費やすことはなく、一方的に相手の面倒をみることもなければ、常に相手から世話を焼かれ続けるのも気が引けてしまいます。中国国内で「割り勘(AA制)」が広まったのは、実は上海が最初だと言われています。食事の席で支払いを奪い合うのは、人間関係の深さを測ったり面子を示したりするひとつの指標になるかもしれませんが、職場の同僚や友人たちとの食事の後で、それぞれが自分の分を支払うスタイルは、シンプルで効率的で公平であり、精神的な負担もありません。このほうが、上海人のライフスタイルにより合っているのです。
ルールや筋道を重視する上海人
物事を進める際、上海でも全く人脈や人情に頼らないわけではありません。ただ、医療や教育、就職などの日常的で重要な事柄において、他の地域に比べ、他人の手を借りたり、人情の貸し借りをしたりしなくても、自分の力だけで完結させることが比較的容易です。(※2相辅相成)
これもまた、「距離感」がもたらすメリットの一つです。それはつまり、何事にもルールや筋道を重んじるということです。
上海が国際的な都市へと発展してきた背景には、こうした公平さや効率性を尊ぶ価値観があります。何をするにも明確な規則や制度が存在し、手続きの効率化とより良質なサービスを目指して、常に改善が行われています。手続きの時間や場所、必要書類、処理にかかる期間など、標準化されたプロセスはネット上ですぐに調べられます。個人の日常生活でも仕事においても、すべて根拠があり、筋道が通っているのです。
上海人は必要以上に相手に踏み込まない

友人同士の付き合い方も、上海の人は、より現実的です。自分から軽々しく約束をすることはなく、相手に何かを無理強いすることも好みません。上海の飲酒文化もそれに伴って、非常に控えめです。「咪(ミー)」という、少しずつ口に含んで飲むことを表す専用の動詞があるほどで、北方の人々のように豪快にぐいぐい飲むのとは対照的に、「細く長く楽しむ」スタイルです。たとえお酒を勧める場合でも、紳士的で礼儀正しく振る舞います。(※3彬彬有礼)
「距離感」のもう一つの表れは、上海の人がプライバシーの保護を非常に重視することです。
上海は中国の中でも、「週休二日制」(※4双休日)が最もよく実施されている都市のひとつであり、大半の企業が土日を完全に休みとしています。人々は「自分のやるべきことをきちんとやる」ことを大切にし、勤務時間中は一生懸命働き、週末は家庭や個人の時間を心ゆくまで楽しみたいと考えています。そのため、休日に仕事で邪魔されたくないと感じる人が多く、仕事と家庭の時間や空間をはっきり分ける傾向があります。職場でもお互いに家庭や私生活について細かく尋ねることはなく、ましてや給与を直接聞くようなことはありません。自分の個人情報を守る意識が強く、他人の面倒ごとにもできる限り干渉しないようにします。そのため、時に「自分には関係ない」(※5 事不关己)という態度にも見えるかもしれません。

このため、初めて上海で生活や仕事を始めた人の中には、この街は繁栄しているものの、どこか冷たいと感じる方も多いかもしれません。
実際には、上海の人々はこのような「距離感」のある付き合い方に慣れているだけなのです。彼らは、あまりにも親しく振る舞うことで、相手に迷惑をかけたり、自分自身が困る状況になるのを避けようとしているのです。
時には、職場の同僚や友人が「踏み込みすぎる」ことを恐れて、過度な質問を控えているだけの場合もあります。ですから、もし何か困ったことや手助けが必要な場合は、遠慮なく自分から声をかけてみてください。きっと皆、できる範囲で手を貸してくれるはずです。街を歩けば親切な「おじさん、おばさん」もたくさんいて、道を尋ねただけでその温かさを実感することができるでしょう。
スピーディーな生活リズムに由来する「目には見えない一本の線」
上海の人たちが持つ「距離感」は、もしかしたら昔から続くスピーディな生活リズムに由来するのかもしれません。この適度な距離を保つという考え方は、一人ひとりを尊重し、誰もが自分のことに集中できるように独立した空間と心の余裕を与えるものです。他人のことに関心は持ちますが、余計な口出しはしない――そうすることで、より自由を感じられ、お互いに心地よい関係が築けるのです。これこそが、上海の人々が人付き合いの中で自然と守っている、「目には見えない一本の線」なのです。
〈気になる中国語〉
1. 精明(jīng míng)
意味:頭がよく、細かく損得勘定をすること。ときに、個人の利益ばかり考えているという否定的な意味も含まれる。
日本語訳:「抜け目がない」「計算高い」
2. 相辅相成(xiāng fǔ xiāng chéng)
意味:2つの物事が互いに助け合い、補完し合うこと。
日本語訳:「相互補完」「相乗効果」
3. 彬彬有礼(bīn bīn yǒu lǐ)
意味:上品で礼儀正しいさま。
日本語訳:「紳士的で礼儀正しい」「上品で丁寧な」
4. 双休日(shuāng xiū rì)
意味:1995年から中国全国で実施されている週休二日制(土日休みの制度)。
日本語訳:「週休二日」
5. 事不关己(shì bù guān jǐ)
意味:「事不关己,高高挂起」という形でよく使われ、「自分とは関係がないことには関わらず、放っておく」という態度を表す。
日本語訳:「我関せず」「自分には関係ない」
これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!
