未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

中国のAI発展の現状と未来 ―グローバル競争での台頭 その2 2025.04.23 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

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技術の進歩と産業応用

 中国における人工知能(AI)分野の技術進歩は目覚ましく、特に顔認識、音声認識、機械翻訳といった分野では、すでに世界をリードする水準に達しています。

 IDCの報告によると、2023年の中国におけるコンピュータビジョン市場の規模は101.1億元(人民元)に達し、商湯科技(SenseTime)、海康威視(Hikvision)、创新奇智(Innovusion)などの企業が、顔認識技術の分野で優れた成果を挙げています。

 音声と意味解析の市場においては、2023年に百度(Baidu)インテリジェントクラウドが初めて市場シェア1位を獲得し、科大訊飛(iFLYTEK)やアリババクラウド(Alibaba Cloud)がそれに続いています。特に、科大訊飛の翻訳機は83言語のリアルタイム翻訳に対応しており、翻訳の遅延は0.5秒未満とされています。

 産業応用の面では、AI技術はすでにセキュリティ、金融、医療、交通といった各分野に深く浸透しています。

 セキュリティ分野では、AIによる顔認識技術が公共の安全監視に広く活用されており、たとえば海康威視のスマートカメラは全国の多数の都市で導入され、警察の事件解決率の向上に貢献しています。

 金融分野では、アントグループ(蚂蚁集团)のAIリスク管理システムが不正取引をリアルタイムで検出し、不良債権率の低下を実現しています。

 医療分野では、テンセント(Tencent)が提供するAI診断支援システム「テンセント觅影(Miying)」が、テンセントクラウドを基盤として開発されており、公式サイトによれば、膨大な言語データを学習して構築された総合診療AIモデルは、96%以上の高いトリアージ(初期診断)正確率を実現しています。

 交通分野では、自動運転サービス「萝卜快跑(Luobo Kuaipao)」がすでに中国国内11都市で乗客向けの試験運行を開始しており、超大都市を完全にカバーしています。2025年1月時点で、同サービスによる累計乗車数は900万回を超え、世界最大の自動運転移動サービスプロバイダーとしての地位を確立しています。

 このように、百度(Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)、ファーウェイ(Huawei)、科大訊飛(iFLYTEK)などの大手企業がAIの産業化を継続的に推進しており、多様な発展モデルが形成されつつあります。


人材育成と研究開発体制

 中国では、AI人材の育成と研究開発への投資が著しく拡大しています。国際的なシンクタンクのデータによると、中国の大学が輩出する優秀な人工知能研究者の数は、世界全体の約50%を占めており、世界第1位となっています。2025年には、中国国内の大学でAI専攻を設置している学科は合計で516校に達する見込みです。

 最新のCSRankings(コンピュータサイエンス分野の大学ランキング)によれば、人工知能分野において、中国の大学は以下のように高い評価を受けています。

清華大学-世界第4位

上海交通大学-世界第12位

北京大学―世界第15位

浙江大学-世界第23位

 また、海外人材の中国回帰という傾向も明確になってきています。LinkedInのデータによると、2022年に中国へ帰国し、AI分野で活動を開始した海外人材の数は前年比で40%増加しており、主にアメリカやヨーロッパのトップ大学出身者が中心となっています。たとえば、元マイクロソフトアジア研究院の院長である沈向洋氏は帰国後、清華大学に参加し、AIの先端研究を推進しています。

 一方で、人材の供給と需要のギャップも課題となっています。AI分野における中国の人材数は世界的に見ても最多である一方で、依然として高度人材の供給が不足しており、2030年までにAI人材の不足数は400万人に達すると予測されています。

 このような背景のもと、企業は大学との連携を強化し、産学連携による研究体制の構築を進めています。たとえば、「アリババ–浙江大学前沿技術共同研究室」のような大学と企業が協力する実験室が設立されており、AI人材の育成を一層加速させています。


中国におけるAI発展の強み

 中国のAI分野における急速な発展は、豊富なデータ資源や広大な市場規模など、複数の優位性に支えられています。これらの要素が相まって、中国は世界のAI分野における重要なプレーヤーとなり、一部の細分市場ではすでにリーダー的地位を築いています。

1.豊富なデータ資源

 AIの発展において、データは欠かせない要素です。中国はこの点で、自然な強みを有しています。世界最多のインターネットユーザーを抱える中国では、10億人以上のネットユーザーが日々、膨大なテキスト、画像、音声、動画などのデータを生成しています。こうした高品質かつ多様なデータは、AIモデルの学習にとって非常に貴重なリソースとなっています。

 たとえば、Weibo(微博)やWeChat(微信)、Douyin(抖音)といったソーシャルプラットフォームは、大量のユーザー行動データを生み出しています。また、医療システムでは、詳細な臨床記録や医療画像データが蓄積されており、ECプラットフォームでは消費行動に関する豊富なデータが収集されています。これらのデータは量が多いだけでなく、構造の多様性もあり、AIアルゴリズムの最適化やモデルの精度向上に大きく寄与しています。

 さらに、中国では法令遵守の前提のもとでデータ流通の効率が比較的高く、企業が業界横断的なデータ活用やAIモデルの応用を進めやすい環境が整っています。これにより、AIモデルの汎化能力の向上にもつながっています。

2.広大な市場規模

 中国には、巨大な産業基盤と活発な消費市場が存在しており、AI技術の実装にとって広大な舞台が提供されています。スマート製造、スマートシティ、金融リスク管理、オンライン教育といった各分野において、AIはすでに深く浸透しており、伝統産業のデジタル変革を力強く後押ししています。

 たとえば:

 スマート製造分野では、海爾(Haier)や格力(Gree)といった製造企業がAIを導入し、生産工程の最適化を進めています。

 医療分野では、アリババ健康(阿里健康)やテンセント觅影(Miying)などのプラットフォームが、AIによる診断支援を中国のトップレベルの病院(「三甲医院」)に導入しています。

 小売分野では、盒馬鮮生(Hema Fresh)や京東(JD.com)などが、AIによる在庫管理の最適化や顧客プロファイリングを実施しています。

 スマートシティ構築においては、百度(Baidu)や華為(Huawei)が交通管理システムを支援しており、信号機の最適な制御や事故の自動検知などの機能を実現しています。

 欧米のAI企業が基礎研究を重視する傾向があるのに対し、中国の企業は技術の実用化(現場への導入)により大きな重点を置いている点も、大きな特徴と言えるでしょう。

次回は、中国のAI産業が直面している課題・問題点、生活の中での活用などについてレポートします。

by ヨシミ

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