【第2回】海外進出では商品を“文化翻訳”せよ 2025.06.12
海外進出を検討する際、多くの企業は「外国語を話せる人材がいない」という理由から、人材採用を出発点に据えがちであるが、これは大きな誤りである。
海外市場で最初に現金を生み出すのは、営業トークでも広告でもなく、市場の課題を解決する「商品」そのものである。
すなわち、商品はキャッシュの源泉、信用の起点といえる。
現地の顧客は「日本製だから」というブランドだけでは財布の紐を緩めない。
価値が対価、すなわち現金へと転化する瞬間、つまり商品を設計して初めて人材採用・物流・ファイナンスといった下流工程が動き出すのである。
海外進出の商品づくりで必要なのは「文化翻訳」
文化翻訳という言葉をご存じだろうか。文化翻訳とは、単なる言葉の翻訳ではなく、その言葉に込められた文化的な背景、価値観、習慣、歴史などを考慮し、異なる文化圏の人々にその真意を伝えることを指す。
海外で売る商品を企画・設計する際、この文化翻訳という考えは必要に重要である。
【例】
層 | 具体例 | 適合ポイント | 価値転化効果 |
---|---|---|---|
表層:規格・安全 | ・100 V→120 V ・UL/CE/FCC認証 ・食品成分規制 | 法規順守・安全性 | 入場券:棚に並ぶ最低条件 |
中層:行動・作法 | ・電話機キー30°傾斜 ・受話器コード1.5倍 ・左利き対応工具 | 使用姿勢・導線 | 利便性:ユーザーストレス減 → リピート率↑ |
深層:価値観・文化 | ・判子の真朱色トナー ・金色パネル ・サステナ素材 | 象徴色・宗教・サブカル | プレミアム:感情的差別化 → 売価増、粗利増 |
規格対応は「入場券」にすぎない
電圧変更やUL・CE取得だけでも
- 金型改修/基板再設計に数百万円
- 試験所費用・書類翻訳に数十万円
- リードタイムは最短3~4 か月
相応の時間と資金が要る。しかしこれは棚に置かれる最低条件つまり入場券。
行動と価値観を翻訳して初めて“選ばれる理由”が生まれ、投資が回収フェーズへ入る。
使い方を写し取る「行動翻訳」
「行動」を写し取るだけで商品は別物になる。筆者が体験した米国オフィスでは、電話をする時、リクライニングチェアに背中を預け、受話器を肩に挟んで通話する同僚が多くいた。その場合、水平テンキーでは使い勝手が悪い。
そこで、30°傾斜キー+1.5倍の長いコードを試作しユーザーテストへ投入、1年で販売台数が大幅に伸長した。
色・匂い・物語を添える「価値観翻訳」
中国の役所では、公文書に押印する公印の色が真朱色でなければ正式書類と認められない。
私の会社が売っていたコピー機の赤は朱色というより紅色に近く、公印の朱色から遠い赤となってしまっていた。
この色差が原因で入札は失格となった。
トナーの配合を調整して真朱色に合わせた結果、翌年の再入札では受注を獲得できた。
三層翻訳が粗利と回収期間を変える
コストは表層が最もかかるが、粗利・回収効果は深層が圧倒的に高い。
投資効率の良い順=行動→価値観→規格で取り組むことが、中小企業の勝ち筋である。
対応範囲 | 追加コスト | 売価プレミア | 投資回収期間 |
---|---|---|---|
表層のみ | 中 | 低 | ±0 |
表+中層 | 中 | 中 | △(短縮) |
三層全部 | 低~中 | 高 | ◎(半減) |
米国オフィスでは、従業員がリクライニングチェアに背中を預け、受話器を肩に挟んだまま片手でダイヤル操作を行う。
その姿勢では水平テンキーの数字が視野角の外にずれ、ミスタッチが頻発した。
そこで “30° 傾斜キー+長さ1.5 倍コード” の試作機を投入し、現場でユーザーテストを実施。
販売台数は翌年、大幅に伸長した。カギを握ったのは 現場での違和感を具体化し、商品企画に落とし込んだ点である。
中国の役所は“真朱色”の公印でないと正式書類と認めない。
日本仕様トナーでは朱みが足りず入札失格。
色度調整で“真朱色”に近い朱色を実現し、翌年は受注への繋げることができた。
色は言語より雄弁という痛い教訓である。
- 主力商品の三層翻訳チェックシートを作成(各層10項目)。
- 表層・中層・深層についてブレストして思いつくアイデアを書き出す。
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