未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

不動産依存の価値観からの脱却 その3 2025.07.02 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

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未来への展望

 この20年間、不動産は中国の家庭にとって、最も安心できる「心の拠り所」でした。

 たとえ仕事がうまくいかなくても、収入が高くなくても、子どもの成績が芳しくなくても「家の値段さえ着実に上がっていれば、なんとかなる。」多くの家庭がそう考えてきました。「家さえ値上がりしていれば、多少手元が苦しくても、多少借金が多くても大丈夫。」こうした信念が、数えきれない家庭の消費判断や生活選択を支えてきたのです。そして、それは一世代全体の「お金」に対する価値観にも影響を与えてきました。

 

 しかし、いまやその「安心の拠り所」は効力を失いつつあります。

 不動産価格はもはや以前のように安定して右肩上がりではなく、調整や下落すら見られるようになりました。

 この変化により、多くの家庭は初めて、「資産の要」として頼りにしていた不動産が、むしろリスクになり得ることに気づかされました。

 売りに出しても何か月も反応がない、下落によってローン残高が物件の価値を上回る——精神的な負担は一気に増大し、「家は持っていれば必ず儲かる」という信仰も崩れ始めています。それに伴い、家庭の資産ポートフォリオ全体の見直しが求められているのです。

 

 もっとも、「家がもはや唯一の資産の拠り所ではない」からといって、生活まで不安定になる必要はありません。

 人間は変化に適応し、新たなバランスを見つける力を持っています。 すでに多くの家庭が、資産運用の考え方を変え、「すべてを不動産に賭ける」発想から抜け出しつつあります。

 たとえば、低リスクで安定した運用先に資金を分散させるという選択肢が広がっています。利率はそれほど高くなくても、元本が保証され、安定した利回りが期待できる銀行の定期預金、国家の信用を背景にした安全性の高い「貯蓄型国債」、資産保全の手段として再び注目を集めている「金(ゴールド)」などです。こうした方法では、不動産高騰時代のような華やかなリターンは望めませんが、複雑で先行き不透明な今の市場環境では、「堅実さ」こそが最大の価値といえるでしょう。

 さらに、資産運用の見直しに加え、「収入源の多様化」を図る家庭も増えてきました。

 かつては「安定した本業があれば安心」と考える人が多数派でしたが、いまや「1つの収入源だけで、すべてのリスクに備えるのは現実的でない」と感じる人が増えています。副業、趣味のマネタイズ、スキルの習得といった「新しい収入の柱づくり」が進んでいます。ネットショップやSNS運用、フリーランスのライティングや撮影、資格取得やスキルアップなど、それは家計を支えるだけでなく、自己成長や環境適応力を高めるきっかけにもなっています。

 その一方で、消費に対する考え方も静かに変化しています。

 「無駄な出費を抑える」という感覚が、多くの家庭にとって共通の意識となっています。買い物ではコスパを重視し、スーパーやECサイトで価格を比較する習慣が定着し、旅行では「SNS映え」より「体験の質」を優先、衣類は「量より質」、実用性と耐久性を重視するようになってきました。こうした変化は、単なる「節約」ではなく、生活全体の価値観の変化を表しています。「見た目の豊かさ」より、「実際の充実感」を重んじるようになっているのです。

 こうして、私たちは今、「新しい資産観」の時代に入ろうとしています。

 もはや資産の価値は、数字の増加スピードだけでは測れません。安心感や生活の質をどう確保するか、それこそが真の豊かさなのです。価格が上がる家を持つより、「焦らず、疲れず、不安に怯えない暮らし」が今の私たちにとって、はるかに大きな意味を持つのかもしれません。

 現在、中国の不動産市場は大きな調整局面にあります。

 これは経済サイクルの自然なプロセスであると同時に、人々の心理的な期待値を修正する、いわば「社会全体の再調整」の過程でもあります。将来的に住宅価格が反発することはあっても、かつての「黄金時代」のような急騰はもはや期待しづらいでしょう。市場はより合理的となり、不動産は「買って儲ける投資対象」から、「住まい」という本来の機能へと回帰しつつあります。

 この変化は、必ずしも悪いことではありません。

 行きすぎた住宅価格は、社会の公平性や生活の質、若者の将来の可能性にまで悪影響を及ぼしかねなかったのです。私たちは、もはや「家一つで人生逆転」といった夢を抱く時代に生きていません。しかし、だからといって未来を悲観する必要もありません。実際、日本も1990年代に同様の経験をしています。バブル崩壊により多くの家庭が資産を失いましたが、社会は「不動産」に過剰に依存しない、成熟した資産観と生活観を育てていきました。今の中国も、まさにその中国版を歩み始めています。この変化は確かに痛みを伴いますが、それは「より良い考え方」や「より健全な価値観」を築くための貴重なチャンスでもあるのです。

 長い目で見れば、これはむしろ歓迎すべきことなのかもしれません。

 「家」だけに依存しないことで、私たちはようやく真剣に考える機会を得たのです。

“本当に欲しいものは何か?”

“より多くの資産か、それとも安心できる生活か?”

 その問いこそが、私たちの世代にとって、最大の財産となるのかもしれません。

by ヨシミ

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