【第4回】為替と資金設計 ー円高でも勝つ方法 2025.06.19
トランプ大統領の「相互関税」発表で、円が再び安全資産として買われている。
2025年4 月上旬には 1 ドル=150 円台後半から 140 円台前半へ 1 週間で 8%近く円高が進行した。
もっとも、歴史的にはまだ円安圏だ。
為替は“些細な一言”で大きく揺れる。
だからこそ上限まで円高が振れても損益ラインを割らない設計が不可欠である。
為替レートは3つの層のトリガーが連鎖的に作用する
最上位は政策トリガーであり、追加関税や中央銀行の緊急利下げといった政策決定が発表されると即座に市場へ波及し、最も大きなレート変動を引き起こす。
次に来るのが資本トリガーである。
株式市場の暴落やリスク回避に伴うファンド資金の移動は通常1日以内に顕在化し、中程度の影響幅で為替を押し上げたり押し下げたりする。
最下層には感情トリガー。
SNSを通じた要人発言や誤報など、分単位で拡散する情報が投機筋の短期売買を誘発し、影響幅は小さいものの瞬発力が高い。
このように、「感情」から「資本」、さらに「政策」まで重層的に振幅が累積していくため、実務では常に“±15%程度の変動余地”を織り込み、価格設定やヘッジ戦略を設計する必要がある。
想定レートは「レンジ」で置く
- 中心線:直近 12 か月平均
- 許容レンジ:中心線 ±10%
- 警戒レンジ:許容レンジを超えた ±15%
中心線 150 円なら、許容 135~165 円、警戒 128~173 円。
価格表・コスト計算書に 3 本並列 して初年度から社内共通言語にする。
為替が 15 %円高でも黒字を守る 4 つの技(粗利目標の改訂)
前提:海外展開では最低でも粗利 50 %、理想は 100 % を狙う。
規格取得・仕様変更費用、初期マーケティング費、販売管理費、そして為替変動リスクを吸収するには、原材料費+製造コストから算出した FOB 価格 で 50 % 以上の粗利を確保し、さらに現地側でも 50 % を維持できる構造が理想である。
技 | 概要 | 粗利への寄与 |
---|---|---|
① 粗利 50→100 % ルール | 原価計(材料+製造)×2=FOB さらに現地MSRP(メーカー希望小売価格)は FOB×2 を目安に設定。 仕様変更・規格申請・物流の追加費を差し引いても純粗利 30 % 以上が残る設計を先に作る。 | 価格決定段階で“余白”を確保 |
② ナチュラルヘッジ | 部材やサービスの一部を現地通貨で調達し、外貨同士で相殺。 | 為替変動を粗利で吸収 |
③ 分割為替予約(フォワード) | 初年度は出荷額の 30 %だけ 3 か月フォワードを組む。 | 全量固定せず保険効果を担保 |
④ 為替感応ダッシュボード | レート入力セルを変えるだけで粗利率が即表示されるもの。 上限(円高15 %)でも 純粗利が20 %を割らないかを常時確認。 | 想定外の急騰を即座に可視化 |
【計算イメージ】
- 原価 10,000 円 → FOB 20,000 円(粗利 50 %)
- 現地販促・人件費・関税込みコスト 10,000 円 → 店頭上代 40,000 円(現地粗利 50 %)
- 円高 15 %で FOB 換算 17,400 円に目減りしても、純粗利は約 30 % を維持。
アジア通貨危機では、タイ・バーツが対ドルで56%下落し、韓国ウォンもほぼ半値まで急落した。
その結果、ドル建て債務を抱える現地子会社の金利負担は倍増し、黒字案件は一夜にして赤字へ転落した。
為替が大きく振れ、キャッシュフローが滞れば、いかに精緻な事業計画であろうと瞬時に崩壊する。
ゆえに、為替変動を織り込んだ事業計画と採算シミュレーションを策定せねばならない。
為替の揺らぎで吹き飛ぶ程度の価格競争力に依存する海外展開は、危険があまりにも大きいと言わざるを得ない。
資金繰り表は「通貨別」に作る
- 月次の 入金・出金を JPY/USD/EUR/現地通貨で色分け。
- 為替予約額を別欄に記載し、実効カバー率を見える化。
- 複数通貨のキャッシュポジションが 3 か月先まで黒字なら、急変動でも資金ショートは避けられる。
- 原価×2×2 の4 倍価格を基準に、上代と粗利 50 % / 100 % シナリオを試算。
- その上で為替±15 %を当てはめ、純粗利が 20 % を下回らないかをチェック。
- もし下回る場合は、仕様削減か現地コスト圧縮のアイデアを 3 つ書き出す。
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