海外展開では自社主導の直輸出を軸に据えるのが理想である。
しかし、社内リソースが不足している場合には、ゼロから海外進出を図るよりも商社の支援を受けた方が、リスクを抑えつつ立ち上げを迅速化できる可能性が高い。
どのような商社をパートナーとし、さらにその担当者が誰であるかによっても、最適な判断は変わり得る。
本稿では、直輸出と商社経由の2つの手法について、その相違点を整理し、考察する。
直輸出を第一候補とすべき3つの理由
1.主導権と利益率の確保
価格決定権を自社が掌握でき、手数料やリベートを排除できる。これにより高い利益率を確保し、その利益を次期投資へ循環させる好サイクルが生まれる。
2.中間マージンの排除
商社を介在させる場合、彼らの手数料(商社に依って異なる)と諸経費を負担しなければならない。さらに国内渡し条件で販売すると、商社が現地代理店に提示する販売価格や粗利の実態が見えなくなる不透明さが残る。
3.ブランド統一と市場アクセス
商社経由での海外展開の場合の最大の問題は、市場へのアクセスが失われることにある。現地の販売代理店との直接のコミュニケーションが取れなくなる場合、自社製品への評価がわからなくなる可能性もある。
直輸出の場合は、現地代理店や顧客の生の声(VOC=Voice of Customer)を直接取得できるため、製品改良へ即時反映できる。
直輸出がもたらす組織学習
通関実務、現地法規、文化差異への対応を自ら経験することでノウハウが社内資産として蓄積され、次市場への展開速度が向上する。
直輸出は「リスクと責任を自社が負う」一方で「自由度と学びも自社に残る」選択肢である。
初めての海外進出では負担も大きいが、課題を一つずつ克服する過程こそが将来的な競争優位への近道となる。
商社活用の現状と可能性
商社を活用する主な利点
- 煩雑な貿易実務の代行
国内引渡し条件を採用すれば、輸出書類作成や通関、船積み手配といった煩雑な貿易実務を自社で担う必要がなくなる。 - 為替リスクの軽減
同じく国内引渡し条件では、為替差損益を商社が吸収する形となり、為替変動リスクを事実上ヘッジできる。ただし急激な為替変動時には、引渡価格の再協議や追加負担を求められる場合がある点に留意が必要である。 - 現地コミュニケーションの一括委任
現地販売代理店との折衝や顧客対応を商社が担うため、自社の営業負荷を大幅に軽減できる。
直輸出との選択基準
海外展開に本腰を入れ、ブランド育成と学習効果を重視するのであれば直輸出が望ましい。
一方、「手間を最小化し、一定量でも販売できれば良い」という段階では、商社利用が現実的な選択肢となる。
商社活用時の留意点
- 丸投げ・排他的長期契約の回避
商権を独占させる契約や長期の排他条項は極力避ける。 - 市場アクセスの確保
商社に委任する場合でも、顧客との直接コミュニケーション窓口を自社内に維持する。 - 顧客情報の共有と契約解除条件の明文化
顧客データのブラックボックス化を防ぐため、情報共有義務および適切な解除・見直し条件を契約条項に盛り込む。
商社を適切に活用できれば、貿易実務とリスク負担を軽減しつつスピーディに市場へアクセスできる。ただし、独占的な依存関係を避け、情報の透明性と将来の選択肢を担保する契約設計が不可欠である。
商社と組む際に押さえるべき3つの条項
- 期間と独占範囲を限定:地域・チャネルを明示し、1〜3 年単位で見直す条項を設ける。
- 顧客データ共有義務:月次で現地での外売り情報、在庫状況の共有・平均販売価格を開示を要求し、改善に活用できる仕組みを規定する。
- 成果連動型報酬: 固定手数料に加え、売上目標達成率に応じた追加インセンティブを設定し、温度差を縮小する。
総括
自社での直輸出か商社経由にするかは、簡単な判断ではない。選択した商社にもよるし、商社の担当者の経験、知見、人格、相性にもよる。
もし、直輸出が不安だった場合は、まずは、商社と話をしてみることをオススメする。その上で、条件等を議論していく過程の中で、直輸出にするのか、商社にお願いするのかの判断が変わってくる可能性もある。自社と商社の意図が合致し、リスクとリターンを適切に分かち合える契約設計がなされれば、有効なパートナーとなり得る。
しかし、海外事業を将来の柱に育てると決めた企業にとっては、直輸出を目指して動く出すことをオススメしたい。
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