海外進出先を決めた瞬間、経営者の視線は往々にしてパートナー候補探しへと飛ぶ。
しかし、現地企業リストづくりや視察日程の調整から着手するのは危険である。
取引は一方的な「選定」ではなく、双方が互いを評価し合うオーディションだ。
相手がまず見るのは、
①利益を分け合えるか
②実績は十分か
③信用できるか
この3点である。
ゆえに交渉に入る前に、「自社が何者で、何を提供できるか」を端的かつ魅力的に示す資料を用意しておくことが必須となる。
1. 「翻訳」ではなく「再編集」
日本語社内資料をそのまま他言語化しても、相手は要点をつかめず退屈する。
必要なのは言語変換ではなく、情報の再構成である。
読み手が欲するのは、時間をかけずに「儲かる根拠」と「安心材料」が理解できるストーリーだ。
冗長な沿革や形容詞だらけの理念文を削り、数字と図で説得し、ビジュアルで記憶に残す。
この編集意識があるかどうかで初回面談の温度感が変わる。
2. 最低限そろえるべき6種類の資料
資料名 | 目的とポイント | |
---|---|---|
1 | 会社概要(2–3頁) | 沿革・事業領域・主要実績を年表と写真で圧縮。 信用力を“秒”で伝える。 |
2 | 製品・技術シート(商品ごと1頁) | コンセプト、差別化要因、競合比較表を掲載し、優位性を数値で証明。 |
3 | ターゲット市場分析(2頁) | 市場規模、成長率、競合状況をグラフ化。 販売ポテンシャルを可視化。 |
4 | 販売・サービス戦略(2–3頁) | 投入スケジュール、役割分担、短中期KPIを提示。 協業イメージを共有。 |
5 | 参考価格表(1頁) | 希望小売価格、取引条件(Incoterms® 2020/通貨/支払サイト/MOQ)を明示。 |
6 | 簡易契約ドラフト(2–3頁) | 目標数量、独占範囲、契約期間、責任分担を条文化。 交渉の土台を設定。 |
総ページは20~30頁が限度である。
商談60分のうち、説明に使える時間は最大でも20分。
“読む資料”ではなく“議論を誘発する資料”を意識し、スライド1枚ごとに「ここで相手に何を質問させたいか」を仕込む。
3. スケジュール逆算とQ&Aストック
資料整備には社内稟議、法務レビュー、翻訳チェックが絡み、通常3~6か月を要する。
視察予定の直前に慌てて完成させることは不可能である。
早期にタスクフォースを立ち上げ、以下を並行して進める。
▼想定質問の洗い出し
▼回答テンプレートの準備
▼担当者の応答訓練
メール返信が3日遅れるだけで、関心が競合へ移る例は往々にしてある。
準備こそ最大のリスクヘッジである。
4. 評価対象は「会社」ではなく「会社+商品+あなた」
海外パートナー候補は、法人格だけでなく、提案者本人の人間力も秤にかける。
ブランドや肩書でなく、「この相手となら荒波を越えられる」と思わせる説得力が必要だ。
資料は自社を映す鏡であり、提案者の姿勢も同時に映し出す。
資料を磨く努力と自己研鑽は表裏一体。
【まとめ】
- 交渉以前に“自社という鏡”を磨け。
- 翻訳作業ではなく再編集で資料を再構築。
- 必要資料6点を20~30頁に凝縮し、議論を誘発する構成に。
- 準備期間は最低3か月。Q&Aをストックし即応体制を整える。
- 評価されるのは会社・商品・提案者の三位一体。資料と同時に自身も磨け。