未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

米中貿易摩擦――対立から共存へ その3 2025.07.30 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

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Ⅳ.暮らしは静かに変わりつつあります

 「米中貿易摩擦」という言葉は私たち一般市民にとってあまりに大きく、遠いテーマに思えます。しかし現実には、その影響が少しずつ、確実に日常に染み込んできています。

企業サイドで起きていること

1.中国企業の苦境と戦略転換

 中国の製造業企業の中には、対米受注の減少で人員削減を迫られる例が出ています。輸出依存を減らすために内需へ舵を切る企業も増え、国内市場での価格競争が激化し、収益率はいっそう薄くなりつつあります。

2.外資系工場の移転と雇用への波及

 サプライチェーン・リスクを意識した外資系企業は、生産拠点を東南アジアやメキシコへ移す動きを強めています。中国拠点の従業員は、優遇退職パッケージか海外転勤かという厳しい選択を迫られるケースも珍しくありません。

消費者サイドで起きていること

1.関税の転嫁による価格上昇

     中国の消費者は、輸入品の価格上昇をすでに体感しています。逆に米国の消費者も、アマゾンなどで手に取っていた低価格の中国製品が値上がりし、「お得感」が薄れたと感じ始めています。

    2.米国農家へのしわ寄せ

     中国が米国産農産物の輸入を減らしたあおりで、米国農家の収入は下振れしています。貿易摩擦の余波は都市圏の消費者にとどまらず、米国内の農業コミュニティにも及んでいます。

    目に見えにくいが深刻な“生活コスト”

     こうした変化は、政策発表のように派手ではありませんが、雇用・物価・所得という形で私たちの暮らしをじわじわと侵食します。まさに「知らぬ間に濡れる朝露」のごとく、影響は静かでありながら深く長く続くのです。

    歴史の鏡:1980年代末の日米摩擦との違い

     1980年代末、米国は製造業で台頭する日本に対し《プラザ合意》を突きつけ、急激な円高が日本経済のバブル崩壊を招き、“失われた二十年”へと突入しました。よく比較されますが、現在の中国は当時の日本より経済規模が大きく、内需も厚みがあります。さらに製造大国からハイテク自主開発へと軸足を移しつつあり、対抗策の選択肢と余地ははるかに広いと言えるでしょう。

     このように、米中摩擦はニュースの見出しだけでなく、雇用の安定や日々の買い物の価格といった生活の隅々に影を落としています。今後も「見えにくい形」での影響が続くと考えられ、私たちは世界経済の大きなうねりと共生しながら、自分自身の暮らし方を模索していく必要があるのです。

    Ⅴ.ポスト貿易戦争時代――デカップリングか共存か

     米中貿易戦争が深化するにつれ、米国は追加関税だけでなく、中国のハイテク産業を狙い撃ちにした規制を強化しています。半導体、人工知能、先端製造装置などが主な封鎖対象です。これに対し中国は「国産代替」を掲げ、チップ、OS、産業用ソフトウェアなどの自主開発投資を加速させています。

     もっとも、両国は全面的に関係を断ち切っているわけではありません。消費財分野では相互依存が続く一方、コア技術や安全保障上センシティブな領域では依存度を下げ、「首を絞められない」体制づくりを急いでいる――いわば選択的デカップリングの段階にあります。

     この意味で、米中関係の未来像は冷戦期のような全面対立ではなく、「競いながらも協調する」姿に近いかもしれません。隣人同士が関係はぎくしゃくしても、ごみ収集や水道・電力では協力せざるを得ない状況に似ています。

     国家間の駆け引きは私たちにはコントロールできませんが、変化に備えることはできます。

    企業の選択肢

     「出海」ブーム:中国企業の間では東南アジアやアフリカに市場・生産拠点を求める動きが活発化しています。

     国内深耕:一方、国内市場を再評価し、製品品質やブランド力の向上に注力する企業も増えています。

    消費者の行動変化

     輸入品の値上がりを背景に、理性的な消費や貯蓄志向が強まり、「コスパ」を重視する傾向が顕著です。盲目的な海外ブランド志向は薄れつつあります。

    若い世代のキャリア観

     かつて人気だった金融・不動産から、製造業、研究開発、AIなど専門性の高い分野へ志向がシフトしています。就職先を選ぶ軸も「外資か否か」より「成長機会や技術蓄積の有無」へと変わりつつあります。

     米中貿易摩擦が速やかに終結する見込みは立ちませんが、その影響はすでに雇用・投資・消費行動などを通じて人びとの軌道を静かに、しかし確実に変えています。私たち一人ひとりがこの大きな潮流を見据え、柔軟に備える時代が続きそうです。

    Ⅵ.結語

     世界はますます複雑で不確実になっています。米中という二つの大国は、「あなたが負ければ私が勝つ」という単純な構図にとどまり続けることも、完全に関係を断ち切ることも現実的ではありません。真の課題は、摩擦と協力が交錯する中で、私たちがどのように自分の立ち位置を見いだすかにあります。

     国家にとっては、守るべき一線を堅持しながらも開放性を維持することが必要です。企業にとっては、外部環境の変化を見極め、新たな成長の道を探ることが求められます。そして私たち一人ひとりにとっては、大きな変化の中でも平常心を保つことが何より大切です。

     この先、さらに大きな荒波が訪れるかもしれません。それでも、「何が、なぜ、どのように」変わるのかを理解していれば、簡単に打ちのめされることはありません。歴史が示すように、荒波の後には新しい航路が開けるはずです。

     

    飜訳者注:原文では「中米貿易摩擦」と記載されておりますが、日本では「米中貿易摩擦」が一般的であるため、本稿では「米中貿易摩擦」と表記しました。

    by ヨシミ

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