初めての海外進出―成功への鍵

【第10回】人・資金・時間、3大リソースを設計せよー「余った人と残り予算」では海外は攻め切れない 2025.07.15

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リソースの初期設定こそが勝敗を分ける

海外進出で赤字転落する企業の7割は、人・資金・時間を“あとづけ”で補填しようとする。

計画段階で「誰を充てるか」「いくら積むか」「どこまで待つか」を同時に描けていれば、多くの失敗は避けられるはずだ。

リソースの初期設定こそが勝敗を分ける。

人:“余剰人材”ではなく“エース+通訳+黒子的事務局”を先に設計せよ

役割主たる機能選定・運用のポイント
海外進出責任者(エース)市場分析・KPI策定・全体統括明朗で行動力と実績を備えた管理職を横滑り。
初期は国内業務と兼務し、軌道に乗った段階で海外専任へ転換。
バイリンガル通訳/調整役言語変換+文化翻訳単なる翻訳者ではなく“意味変換”のファシリテーター。
社内に適任がなければ業務委託→成果確認後に正規雇用。
黒子的事務局契約管理・旅費精算・タスク共有総務・法務・経理を一元化し、エースが売上創出に専念できる舞台装置を整備。
日次/週次で指標を可視化。

規模の目安:初年度「エース1+通訳1+事務局1」

小さく鋭い三位一体チームが、学習速度と意思決定を最大化する。

人材確保・配置の鉄則

  1. “空き人員”の寄せ集めは厳禁。
  2. 固定費はまず変動費化し、PMF(Product Market Fit)後に正社員化。
  3. 商談相手も英語前提で選び、言語コストを抑える。

資金:粗利50%を死守する“三層バッファ”

バッファ層内容目安コスト
① 規格・申請費試験・認証・翻訳200~800万円
② マーケティング費サンプル・広告・展示会上代の20~30%
③ 為替・遅延リスク円高15%・納期+60日総コストの30%

原価×4で価格を決めても、総コスト×1.3を先に確保。

これが粗利50%ラインを守る鉄則だ。

運賃高騰や追加検査費が生じても、三層バッファが損益分岐点の“防波堤”となる。

新規事業ゆえの資金設計

例)年間1,000万円を上限とし、3年間で最大3,000万円を投資。

各フェーズ ゲート(※)ごとに投資額を段階的に配分し、ROIを継続的にモニタリング。

※フェーズ ゲート(Phase-Gate/Stage-Gate)は、新製品開発やR&Dで用いられるプロジェクト管理手法。

計画的な資金投下とバッファの併用により「資金ショート」「追加増資の迷走」を未然に防げる。

資金管理は海外進出成功の礎である。

時間:“3年勝負”を切り、「Parallel 90」にブレークダウンせよ

年次マイルストーン主な到達目標
Year1規格取得・試作・パートナー契約法規制クリア、MVP確定、販路仮組み
Year2テスト販売 → 粗利黒字化市場適合性検証、価格最適化、CFブレイクイーブン
Year3量産・販路拡大量産体制確立、複数販路展開、ROI確定

3年間を90日単位×並列タスクに割り付け、「誰が・何を・いつまで」を明記する。

日付と担当者を欠く計画は未計画に等しい。

◆Episode 09 “空き人員”で組んだ船は4か月で沈む

余剰営業2名で急造したチームは英語力不足とリーダー不在で商談停止。

4か月で案件は棚ざらしになり、現地パートナーの信頼も失った。

トップセールス+通訳+事務局を後追い投入するまでに9か月を浪費し、数千万円規模の機会損失を被った。

余り物で組んだ船は荒海に耐えない。三位一体を最初から配備せよ、という教訓である。

人・資金・時間を同時に設計する「3×3シート」

資金時間
戦略エースを指名全体投資額を決定3年黒字化を掲げる
戦術通訳+事務局を配置粗利50%バッファを確保90日単位で区切る
運用日次タスクを共有週次で資金繰りをチェック月次KPI会議で修正

9マスを埋めるだけで「誰が・いくらで・いつまでに」を一望でき、ガバナンスと実行が連動する。

“天の時・地の利・人の和”ー3要素をリソース設計で可視化せよ

結論「天の時」を逃さず、「地の利」を活かし、「人の和」を緊密にする。その司令塔となるのが人・資金・時間の3大リソースである。

今日の宿題(90分)
  1. エース候補を1名指名し、リソース計画書ドラフトを作成。
  2. 規格費・販促費・為替バッファを含む総投資額を見積もり、稟議書に添付。
  3. 3年ロードマップを「Parallel 90」に分解し、初期90日の担当者を割り付ける。
次回予告

【第11回】「海外とのコミュニケーションー言語・文化・本音を掴む」メール1本・会議15分で差がつく“ズレない対話術”を解説する。


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