電池、EC、ゲーム――中国発は世界をどう変える?
中国企業は、従来の消費財だけでなく、新たな産業分野でも存在感を強めています。その最たる例が、新エネルギー産業です。中国はすでに世界最大の電池製造国であり、太陽光発電関連製品の輸出国でもあります。ヨーロッパや東南アジアでの市場シェアは着実に拡大し、電気自動車メーカーは単に製品を販売するだけでなく、現地に工場を建設し、サプライチェーンを海外へと広げようとしています。
たとえば、国軒高科はスロバキアにおいて年間20GWhの高性能リチウム電池と関連プロジェクトを建設する計画を進めており、総投資額は12.34億ユーロに上ります。晶科能源はサウジアラビア企業と合弁会社を設立し、10GW規模の高効率電池およびモジュール事業を展開する予定です。億緯リチウムエナジーはマレーシアで4.2億ドルを投じ、エネルギー貯蔵用の新工場を計画中。ベトリーはモロッコで3.6億ドル規模の負極材工場を建設しようとしています。さらに、奇瑞汽車(チェリー)はスペインの自動車メーカーと合弁企業を設立し、新型電気自動車を生産する計画を発表しました。総投資額は約4億ユーロ。これにより、奇瑞はヨーロッパで自動車を生産する初の中国メーカーとなります。
もうひとつ特筆すべき分野がデジタル経済です。かつての「出海」は、大企業による製造業やインフラ投資に支えられていました。しかし今や、越境ECの拡大によって、無数の中小企業が世界市場に挑戦できる時代となりました。
かつて、小規模な工場が海外で商品を売ろうとすれば、貿易会社や仲介業者、あるいは大規模展示会に依存する必要があり、参入のハードルは極めて高いものでした。ところが現在では、Amazon、Shopee、Temuといった越境ECプラットフォームを利用すれば、わずか数十人のチームであっても、製品を直接アメリカやヨーロッパ、東南アジアの消費者に届けることが可能です。衣料品や靴、生活雑貨、デジタルアクセサリー、小型家電まで、至るところに“中国製”の存在があります。
この流れは、海外進出がもはや一部の大企業だけの専売特許ではなく、数え切れないほどの中小企業にとっても現実的な選択肢となったことを意味しています。たとえば、義烏の小規模商店はTemuを通じて数ドルの生活雑貨をアメリカの地方家庭に販売し、深圳の電子工場の経営者はAmazonを活用して自社開発のBluetoothイヤホンをヨーロッパ市場に届けています。こうした事例は、かつては想像もつかないものでした。ECプラットフォームは参入障壁を下げただけでなく、企業が消費者と直接対話し、生の市場フィードバックを得る機会を広げたのです。その結果、製品や戦略をより柔軟に修正することが可能となりました。
さらに重要なのは、デジタル経済が「物を売る」にとどまらない点です。中国発のゲーム、ショート動画、SNSといったデジタルコンテンツが、世界の市場構造を静かに変えつつあります。たとえば『原神』は世界中で数千万単位のプレイヤーを獲得し、TikTokは世界で最も人気のある短編動画プラットフォームとなりました。これにより、人々の「文化出海」に対する認識が一新されつつあります。かつて中国文化といえば、カンフー映画や京劇の隈取り、茶文化といった伝統的なイメージが中心でした。ところが今日では、多くの若者が中国のネットゲームや動画、さらには“中国風”ファッションを通じて中国文化と出会っています。
この視点から見ると、デジタル経済は中国企業に商業的拡張のチャンスをもたらすだけでなく、新しい文化交流のかたちをも生み出しています。あるベトナムの若者は中国のモバイルゲームを楽しみ、あるアメリカの主婦はTemuで見つけた安価で便利なキッチン用品を通じて“中国製”への認識を変えるかもしれません。インターネットは空間を圧縮し、文化と商品を同時に世界中の消費者のスマートフォン画面に届けています。その影響力は、単なる「製品輸出」をはるかに超えるものなのです。
――こうして広がりを見せる中国企業の海外進出ですが、その方法もまた変わりつつあります。次回は「出海モデルの変化」を見てみましょう。
