井の頭公園の木々が、燃えるような紅葉を見せている。美しいが、朝の空気は随分と冷たくなった。 クローゼットから妻が半纏(はんてん)を出してくれた。袖を通すと、背中からじんわりと温かさが広がる。
昭和という熱狂、永遠の背番号3
21日、東京ドームで長嶋茂雄氏のお別れ会が執り行われた。 関係者、一般を合わせ3万5,000人以上が集ったという事実は、彼がいかに愛された存在であったかを物語る。
会場に流れていたのは、桑田佳祐氏が彼に捧げた「栄光の男」だった。 その歌詞が、長嶋茂雄という稀代の英雄の凄みを改めて私の胸に蘇らせた。かつて日本中を背負って立った男の孤独と栄光が脳裏をよぎり、不覚にも泣けた。
祭壇に飾られた、あの太陽のような笑顔。彼は間違いなく昭和という熱狂の時代そのものだった。 背番号3は永遠に不滅だ。
ウクライナに届く歓喜、安青錦の初優勝
大相撲九州場所は、関脇・安青錦(あおにしき)が劇的な初優勝を飾った。 本来ならば、私が贔屓にしている横綱・大の里と豊昇龍による優勝争いが見られるはずだったが、大の里は千秋楽に肩を痛めて無念の休場。不戦勝となった豊昇龍と、本割で大関琴櫻を破り12勝3敗とした安青錦との優勝決定戦となった。
結果は、安青錦が見事な相撲で横綱を撃破。前日に続き、2日連続で横綱・豊昇龍を土俵に這わせての初優勝だ。 これにより、審判部は臨時理事会の招集を八角理事長に要請。ウクライナ出身力士として初の大関誕生が確実となった。
優勝インタビューでは、NHKのアナウンサーはあえて故郷の情勢には触れなかった。安青錦自身も、以前から「私は力士」として相撲の話題に徹する姿勢を貫いている。 しかし、取組を見ていた誰もが、彼の故郷であるウクライナに思いを馳せずにはいられなかっただろう。 事実、国営通信のウクルインフォルムをはじめとする現地メディアは、この快挙を速報で伝えている。戦禍にある故郷の人々に、これ以上ない勇気と歓喜を与えたことは間違いない。
それにしても驚かされるのは、安青錦の日本語の達者さだ。来日してわずか3年半とはとても思えない。 言葉も、技も、そして心も。日本という異国の文化を深く愛し、吸収しようとするその姿勢に、心からの敬意を表したい。
外交の波紋と、現場の「肌感覚」
高市首相の先日の発言が、予想以上のスピードと深刻さで波紋を広げている。 国内では「毅然とした態度」と支持する声がある一方で、為替市場が即座に反応した事実を見ても、その言葉が持つ経済へのインパクトの大きさは否定しようがない。
我社のように日本企業の海外進出を支援し、国境を越えたビジネスを手掛ける身としては、こうした外交上の「温度変化」には敏感にならざるを得ない。政治的な信条はさておき、実務の現場ではトップの一言が空気を一変させることがあるからだ。 今までスムーズに進んでいた交渉が急に慎重になったり、ふとした瞬間に「見えない壁」を感じたりする。私自身そうした経験は一度や二度ではない。
言葉は、放たれた瞬間に発信者の手を離れ、受け手の解釈に委ねられる。特に国家のリーダーの言葉は、そのまま国益や企業の経済活動に直結する刃(やいば)となり得るものだ。 今回の件がどのように収束するかはまだ見通せない。しかし経営者としては、常に「最悪のシナリオ」と「最善の準備」の両方を想定しておく必要がある。外交の波高を見極め、揺れ動く情勢の中で信頼関係をどう守り抜くか。当面は神経を使う日々になりそうだ。
現場の空気は既に張り詰めている。 今週、在日中国人の知人と2度会食したが、話題は悪影響一色だった。半導体企業の友人は「影響は確実に及ぶ」と断言し、抖音(Douyin-中国のSNS)は日本への辛辣な意見で溢れているという。
2004年の靖国参拝、2011年の尖閣諸島国有化にまつわる日中関係の悪化。私は何れも中国現地でそれを体験したが、今回の状況はこれらと比較してその比ではないかもしれない。そんな悪い予感がしている。
義母のくれた半纏
冒頭の半纏は、亡き義母からの贈り物だ。 息子が生まれた年のクリスマスに、夜中に起こされるであろう妻と私が風邪をひかぬようにと贈ってくれたものだ。
義母は物腰は柔らかだが頭の良い人で、且つ気の回る人だった。私と妻が結婚前の携帯などまだ無い時代。残業が片付かずに待ち合わせに遅刻ばかりしていた私にしびれを切らして「もう帰るから。彼から電話があったらそう伝えて!」と怒る彼女を、「もう少しだけ待ってあげなさい」となだめてくれたのが義母だった。二人の縁はこの「とりなし」に救われたのだ。
昨日は「いい夫婦の日」。
変化の目まぐるしい世界で、変わらぬ大切な人の存在と半纏の温もり。この安心感だけは、どんな高度なAIにも生成できないものだろう。
【人材獲得競争の最前線、「Kビザ」の衝撃】
中国は10月に「Kビザ」と名づけられた新たなビザ制度を正式に導入した。
「Kビザ」の“K”は Knowledge(知識) や Key(鍵) を指すとされ、「人材への鍵」を象徴する名称であるという見方もある。
中国政府の公式説明によれば、Kビザの対象は、中国国内外の著名な大学・研究機関において科学・技術・工学・数学(いわゆるSTEM)分野を専攻し、学士号以上を取得した外国人、あるいはこれらの分野で教育・研究に従事する若手科学技術人材である。
すなわち、この制度は主として海外の若いテクノロジー人材を誘致するものであり、特に人工知能、半導体、バイオ医薬、新エネルギーといった先端分野で潜在力を持つ若者に門戸を開いている。
では、いまなぜ中国がKビザの発行を開始したのか。その背景は何か。そしてKビザとは本質的に何を意味する制度なのか。
今回のKビザの制度導入には、世界的な人材の獲得競争に対して、中国が国を挙げて早めに手を打とうとしている証しである。日本が、少子高齢化、AI開発人材の不足などの課題満載にもかかわらず、外国人に対して排除的な政治的な動きがあることとは対照的である。
当社の人気ブログ「未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む」では、今月この「Kビザ」に焦点を当てている。ぜひご一読いただきたい。
【連載スケジュール】
Kビザ – 中国が世界の科学技術人材に開く新しい扉
〈その1〉(公開済)https://sugena.co.jp/yoshimi/yoshimi7-01/
誕生の背景と意味
〈その2〉(公開済)https://sugena.co.jp/yoshimi/yoshimi7-02/
米国・日本との人材戦略比較 - 異なる道筋
〈その3〉(11月27日 公開予定)
中国社会の声と未来への展望
2025年11月23日
<今週の写真>
井の頭公園の紅葉。朝の澄んだ日差しが差し込み、その鮮やかさがいっそう際立つ。