社長の日曜日

社長の日曜日 vol.127 春を待つ「対話」 2026.01.19 社長の日曜日 by 須毛原勲

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日常に戻りシンガポール出張を反芻

 シンガポールから帰国した。 空港に降り立った私を待っていたのは、真冬の寒風だ。雨季とはいえ日本より遥かに温暖なシンガポールから戻ると、物理的にも精神的にも、一気に現実へと引き戻される。 帰国後は、出張中に溜まっていた業務の処理と連日の会食で、年明け早々、まるで「師走」のような慌ただしさで時間が過ぎていった。

 週末、ようやく朝のウォーキングを再開し、乱れた身体のリズムを調整した。シンガポールの喧騒とは対照的な、静寂に包まれた朝。ジョギングの常連たちとすれ違い、日常に戻ったことを実感する。 イヤホンから流れるニュースや音楽をBGMとして聞き流しながら、頭の中ではシンガポールで感じた熱量や課題を、ゆっくりと反芻していた。

私の「実戦経験」の源

 私が駐在員としてシンガポールに滞在したのは1998年から2003年までの6年間。 以来、何回か訪れてはいるが、久しぶりに歩くシンガポールは急速に発展した「未来」の顔と、あの頃と変わらない「懐かしい」顔が混在していた。ホーカーセンターで食べたチリクラブの濃厚なソースや、マンダリン・オーチャード(現ヒルトン)の「Chatterbox」で食べたシンガポール・チキンライスの繊細な味は、昔と変わらなかった。しかし、会計時の「円換算した物価」はあの頃の2倍だ。味は変わらずとも、経済の力関係が変わったことを痛感する。

 今回改めて感じた「シングリッシュ」の心地よさ。 独特の発音、主語を省く効率的な表現、そしてスピーディーな会話の組み立て。そのリズムが、かつてこの地で受け取ったたくさんの記憶を呼び覚ます。

創業者が語るストーリー

 私は中国に13年間駐在していたこともあり、よく「中国の専門家」と見られることが多い。しかし、ビジネスマンとしての私の基礎を作ったのは米国・カリフォルニアでの学びであり、血肉となる「実戦経験」を積ませてくれたのは、紛れもなくこのシンガポールだ。シンガポールで担当した東南アジア全域、インド、中近東、アフリカ諸国。多様な価値観がぶつかり合う国々を相手に、タフな交渉を繰り返したあの日々が、今の私の交渉術や感覚のルーツになっている。

                      シンガポール時代の実戦経験の記録はこちら⇒⇒⇒

 だからこそ、断言できる。中国との関係が緊張状態にある今、リスクヘッジの意味でも、シンガポールをハブとし、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシアといったASEAN諸国へ展開する。この戦略こそが、日本企業にとって最も理にかなった海外進出の「王道」なのだと。

 今回のシンガポール出張の主な目的は、支援している新潟県企業の海外進出に向けた市場視察と、販売代理店候補との交渉だった。「新潟から、世界へ。」の道筋づくり。その道筋は確かに未来へと繋がっている。帰国して一気に冷たい風に煽られながらも、私の頭の中にはすでに次への戦略図が鮮明に浮かび上がっていた。

故人の意志を継ぐ、草の根の「是々非々」

 伊藤忠商事の元社長であり、駐中国大使も務められた丹羽宇一郎氏が、去る2025年12月24日に逝去された。86歳だった。大使を務められた2010年から2012年当時、私は上海の現地法人の総経理だった。北京の大使館とは距離があり、直接お目にかかる機会こそなかったが、最も難しい時期に国を背負い、関係構築に尽力されたその姿には、同じ中国の地に立つ日本人として、常に畏敬の念を抱いていた。謹んでご冥福をお祈りいたします。合掌

 シンガポールから戻った後、日本で企業経営をする中国人の友人に会食へ招かれた。 昨年末、別の集まりで意気投合し、「一度ゆっくり飲もう」と誘ってくれたのだ。彼のプライベートな席ということもあり、テーブルに並んだのは日本人向けにアレンジされた中華ではなく、本場の上海料理と広東料理だ。久しぶりに中国語オンリーの会話で、マオタイ酒を酌み交わし、語り合った。

 彼は日本への愛着を口にする一方で、現在の日中関係を深く憂いていた。「民間企業として、何ができるか」。話題はそこに集中した。経済安全保障やビザ発給の厳格化など、政治的な壁は確かにある。だが一方で、日本は少子高齢化による人手不足、医療・介護費の増大、企業での生成AIの活用など、待ったなしの社会課題を抱えている。

 「技術と、そして『人』だ。」と彼は言う。 中国が持つオープンソースの生成AI、フィジカルAI、ロボティクスなどの高い技術力。そして何より、日本で決定的に不足している「高度エンジニア人材」、特にAI領域の専門家たちの活用だ。

 もちろん、手放しで全てを受け入れろという話ではない。経済安全保障やデータセキュリティを強く意識し、国益を最優先に守ることは大前提だ。だが、「白か黒か」「0か100か」の二者択一で、すべてを遮断してしまうのはあまりに惜しい。中国と政治的に揉めているからといって、民間交流まで断ち、優秀な頭脳まで排斥する。そんな「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という感情的な動きは、果たして日本にとってプラスになるのだろうか。

 いい外国人もいれば、悪い外国人もいる。それはどこの国も同じだ。だからこそ、是々非々で判断する。利用できるリソースは、賢く利用する。日本のルールを理解し、社会に貢献したいと願う「個」まで十把一絡げにするのではなく、冷静にその能力を見極め、日本の課題解決の力に変えていく。それこそが、国益に資するリアリズムではないだろうか。

 帰宅後、WeChat(微信)で御礼を送ると、彼から即座に返信が届いた。

  「不用客气,我们多交流!(遠慮は無用、もっと交流しましょう!)」

 是々非々で議論すべきことはもちろんある。だが、「和を以て貴しとなす」の精神もまた真理だ。政治がどうあれ、民間には民間の絆がある。故人が懸けた想いを受け継ぐように、私も日中関係の発展に、現場レベルで少しでも貢献し続けていきたいと思う。

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《今週の写真》早咲きの梅

井の頭公園では、ゴツゴツとした古木の枝先に、梅の花がポツリポツリとほころび始めている。寒暁のその凜とした姿に、季節は確実に歩みを進めていることを実感する。

「冬来たりなば春遠からじ」

2026年1月18日

by 須毛原勲

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