■ 雪明かりの朝、童心に帰る
2月8日。日曜日の朝、いつもの時間に目覚めて窓の外を見ると、妙に明るい。「雪明かり」だ。 目を凝らすと、雪が降り積もっている。どうりで微妙に明るいのに空気は静かな感じがした。

一瞬、温かい部屋に留まる誘惑に駆られたが、「行けるところまで行ってみよう」と思い直し、防寒着を整えて家を出た。公園の木々や遊歩道はすっかり雪化粧を施され、一面の銀世界となっていた。私が一番乗りかと期待したが、白い道には既に先客の足跡が点々と続いていた。
それでも公園の奥の方まで進むと、まだ誰も足を踏み入れていない真っ白なキャンバスが広がっていて、思わず新雪に足を沈める。誰もいない雪原に最初の足跡をつける高揚感。雪国の方々の苦労を思うと申し訳ないが、積もるほどの雪が降るのが1年に1回あるか無いかの地域の人間にとって、新雪に踏み入れることはいくつになっても楽しい。
公園から一旦出て一回りしてまた公園に戻ってきたところで、いつものラジオ体操に参加した。広場に集まった同志は、私を含めてたったの8人と1匹のビーグル犬だけ。縮こまった手足を伸ばすと衣服の隙間から冷気が入り込み体に染み渡る。
暦の上では4日に「立春」を迎えたが、今日ばかりは春も足踏みしているようだ。
■ 二つの聖火、文化の融合
ミラノ・コルティナ冬季オリンピックが開幕した。史上初の二都市同時開催。ミラノでは、かつてナポレオンが建設を命じ、後にその名を変えた歴史的な「平和の門」に。 一方、コルティナでは、ドロミテの岩山を背にした広場に。二つの聖火が同時に揺らめく姿は、「戦いから平和へ」という祈りそのものだ。
今、世界各地で争いが絶えない。古代五輪の「聖なる休戦」の精神。その原点に、人類はもう一度立ち返るべき時なのだと強く感じた。
開会式のハイライトは音楽だ。中国のラン・ランが、日本を舞台にしたプッチーニの『蝶々夫人』を奏で、イタリアの至宝ボチェッリが、中国を舞台にした『トゥーランドット』のアリアを熱唱する。
なぜ、プッチーニなのか。それは彼が、オペラを通じて異国の文化を愛し、描こうとした作曲家だからだ。中国のピアニストが日本の物語を弾き、イタリアの歌手が中国の物語を歌う。そこに米国のマライア・キャリーも加わる。「自国の文化」と「世界の才能」が混ざり合うことこそがイタリアの美学であり、平和への強烈なメッセージなのだろう。
■ 雪上の熱い戦い
熱狂はすでに始まっている。 フィギュアスケートの団体戦。日本は2日目を終えて、首位アメリカに次ぐ第2位につけている。
圧巻だったのは、ペアの「りくりゅう」こと、三浦璃来選手と木原龍一選手の演技だ。二人の一糸乱れぬシンクロニシティ。大人と子供ほどに身長差がある二人。本来なら、手足の長さも、氷上に描く弧の大きさも異なるはずだ。それなのに、二人の動きは指の先までピタリと揃っている。
そして、木原選手が三浦選手を空中に高く投げ上げる「ツイストリフト」。空中で回転し、再びその腕に抱きとめられるという技は、圧倒的な信頼関係がなければ、決して身を委ねることなどできないはずだ。極限まで積み重ねた練習に裏打ちされたお互いを心の底まで信頼する力。その「心」の形が、演技を通じてこちらまで伝わってくる。鬼気迫る美しさに、ただ心が震え、気がついたら、画面越しに拍手をしていた。
さらに、日本の強さはペアだけではない。 今シーズン限りでの引退を表明している、エースの坂本花織選手。ショートプログラムに登場した彼女は、まさに「集大成」と呼ぶにふさわしい滑りを見せた。 結果は、今季世界最高得点を更新しての堂々の1位。競技生活の集大成として悔いの無い演技をしたいという強い気持ちが、彼女の演技を一段と強く、美しく輝かせているようだった。
今オリンピックでメダル一番乗りを果たしたのは、スノーボード男子ビッグエア木村葵来(きら)選手と木俣椋真(りょうま)選手の金・銀ワンツーフィニッシュ。
この「ビッグエア」という競技、今回メダルは逃した日本選手の中にも有望な選手は多い。なぜ、これほどまでに日本人が強いのか、その理由は定かではないが、空高く舞い上がり、重力を無視したかのように回転する彼らの姿を見れば、それが「とんでもない技術」と「極限の勇気」の上に成り立っていることだけは理屈抜きに理解できる。彼らの空中での姿を捉えたコマ送りの映像は、まさに若き才能たちが、世界の空を制した瞬間を切り取っていた。
その一方で、メダル候補と言われつつ、届かなかった選手も多くいる。歓喜と涙。勝者にも敗者にも、それぞれの人生とドラマがある。
12年前のソチ五輪。メダルには届かなかったが伝説となった浅田真央さんの演技は、今でも脳裏に鮮明だ。記録よりも、記憶に残る選手がいる。今回のオリンピックでも、そんな忘れられない瞬間が数多く生まれることだろう。
■ 「MVP on the planet」と停滞する国
昼夜逆転のイタリアでの熱戦の裏で私たちが直視すべき現実がある。今日、2月8日は衆議院選挙の投票日だ。窓の外の雪はまだ止まない。足元がおぼつかない中、投票所に向かう人は少なくなってしまうのではないか。特に、国の行く末を案じてきた高齢者の方々の足が遠のくことを危惧する。
先日のシンガポール出張で、私は痛感した。「日本は明らかに世界の中で取り残されている。」 肌で感じる熱量、街のスピード感、人々の目の輝き。今の日本には無いもの。
数字は残酷だ。 過去30年間の日本の経済成長率は、平均して1%にも満たず、これはG7(主要7カ国)の中で最低の数字だ。2010年にGDPで中国に抜かれて以来、その差は開く一方。今や中国のGDPは日本の約4.5倍に達している。「Japan as No.1」などと言われたのは、もはや遠い昔の夢物語。日本の政治が、その停滞の大きな原因のひとつであることは明らかだ。
一方で、個々の日本人はどうだ。 MLBで「MVP on the planet(地球上で最高の選手)」と称される大谷翔平選手。欧州の最高峰で躍動するサッカー選手たち。そして今、雪上で世界と渡り合うオリンピック選手たち。アスリートたちは、フィジカル面での不利を言い訳にしたりせず、確実に進化し、個の力で世界と戦っている。世界に飛び出す「勇気」。 そこにある、圧倒的な「熱量」と、たゆまぬ「努力」。それらすべてを武器にして、彼らは世界の頂点に立っているのだ。
彼らはここに至るまでのすべてを懸けて戦っている。ならば私たちも、この国の未来のために、足元の雪を踏みしめて一票を投じなければならない。
さあ、防寒着を着込んで、投票所へ向かおうと思う。 誰のためでもない。私たち自身のために。
どんなことでも、お気軽にご相談ください。https://sugena.co.jp/contact-us/
海外事業で課題をお持ちの方
●海外進出:https://sugena.co.jp/service/overseas-business/
●海外での製造・調達:https://sugena.co.jp/service/open-innovation/
●海外企業との協業:https://sugena.co.jp/service/start-up/
日本進出で課題をお持ちの方
●日本進出、現地化:https://sugena.co.jp/service/japan-business/

《今週の写真》雪の感触、春の予感
立春を過ぎての東京の雪景色。
寒さは厳しいが、この雪が解けた後には必ず春が訪れるはずだ。

雪が上がったので、足元に気をつけながら投票に行き、帰りがけに公園を少し覗いてみた。
すると、雪を被った紅梅の枝の間に、愛らしい雪だるまがちょこんと挟まっているのを見つけた。
葉っぱの耳は、ピカチュウだろうか。雪ウサギ?
誰かの遊び心が生んだ、小さな「雪の妖精」。
寒さの中で思わず頬が緩んだ瞬間だった。
2026年2月8日