社長の日曜日 vol.147 それぞれの船出 2026.06.15 社長の日曜日 by 須毛原勲

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梅雨の晴れ間、コースを変えて

 今年の梅雨は「梅雨らしい梅雨」で、日課のウォーキング&朝トレが出来ない日が続いていた。今日は久しぶりに晴れたので、長めに歩こうと家を出る。最近、コースを変えた。高井戸から玉川上水の遊歩道を辿る道だ。

 玉川上水。かの太宰治が、山崎富栄と入水した、あの玉川上水である。

「恥の多い生涯を送って来ました。」

 『人間失格』の、あの1行を初めて読んだ若い日の感触を、今もよく覚えている。足を止めて、水を見下ろす。せせらぎほどの細い流れだ。この浅い水で、と思う。当時はもっと水が豊富だったのだろうか。あれは78年前の、ちょうど今ごろだった。

海を渡る、新潟の米

 新潟。

 昨年度、当社は新潟県の事業を受託し、県内の企業と東アジアを繋ぐお手伝いをしてきた。1年かけてサポートした案件がようやく実を結びつつあり、今年度も引き続き、米由来の商品の海外展開をご支援させていただいている。

 今年度になって初めて私が現地を訪ねたその日——6月12日、初出荷の船が台湾へ向けて港を出た。食品の輸出が簡単でないことは承知していたつもりだが、手続きは予想をはるかに超えて複雑だった。粘り強く対応してくださった企業の皆様には、頭が下がる。

 今回訪ねたのは、長岡と豊栄(とよさか)。これまでのお礼と、これからの相談に伺った。新たに目指す東南アジアへの展開も含めて。

 言わずと知れた、米どころ。収穫量は日本一を誇る。車窓の向こう、田には青い稲が一面に広がり、このビジネスが頭を垂れるほど実ることを祈った。

ワールドカップ、開幕

 12日、日本時間の早朝、FIFAワールドカップ2026が開幕した。新潟出張へ出る慌ただしい朝、開幕戦のメキシコ対南アフリカ戦を支度をしながら横目で観ていた。結果は、地元メキシコが2-0で南アフリカを退けた。

 南アフリカ、そしてワールドカップ。古い記憶を呼び起こす。

 2002年、日韓ワールドカップ。私はシンガポールに駐在しており、東南アジア・中近東・アフリカの代理店のトップを韓国に招き共に観戦していた。韓国で観た試合のひとつが、南アフリカ対スロベニア。南アフリカが1-0で勝った、ワールドカップ史上初めての勝利の瞬間だった。

 南アフリカの代理店社長K氏が、母国の初勝利にえらく感動していたのを、今もよく覚えている。彼はその夜、私にこう言った。

「いつか南アフリカでワールドカップが開かれたら、その時は、俺がお前を決勝に招待してやる」

 社交辞令だと思っていた。

 それから8年後、2010年。アフリカ大陸初のワールドカップが、南アフリカで開かれた。その決勝、ヨハネスブルクのスタジアムに、私はK氏と並んで座っていた。休暇を取り、自費で飛び、彼の家に泊めてもらった。韓国での約束が、果たされたのだ。

 スペインが延長の末にオランダを1-0で下し、初優勝を遂げた。準優勝に泣いた、オレンジの軍団オランダ。

 そのオランダと、日本が明日初戦で当たる。

ある報せ

 昨晩、夜半過ぎ。LINEの着信音が鳴った。

 こんな時間に誰だろうと開くと、訃報だった。お世話になった方が、6月12日に亡くなられたという。享年77歳。

 私が中国に赴任する前のことだ。週末、それもゴルフを終えた後に、「その時間しか空いていないから」と、横浜駅のホテルのレストランで時間を割いてくださった。中国という巨大市場で現地法人を率いるとはどういうことか。ご自身の経験をもとに、はるか年下の私に、その心得を授けてくださった。

 その方は、当時私が籍を置いていた東芝グループの社長だった。これまで多くの上司に仕えてきた。けれど、自分の休日を割いてまで、後輩にそこまでしてくれた人がほかにいただろうか。自分が同じ立場になったとき、はたして同じことができるか。

 それから10年以上が過ぎ、中国から帰国した私が、その方の所属するゴルフ倶楽部に入ろうとしたとき、自筆で推薦状を書いてくださった。その後、食事をご一緒する機会にも恵まれた。

 気にかける。時間を使う。

 得がたい方だった。

ヨシミの「中国のリアル」── 掲載のご案内

 ひとりの男が、北京の街角でミルクティーを買う。ただそれだけの動画が、中国のSNSで大きな話題になった。

 買ったのは、エヌビディアCEOのジェンスン・フアン。AI時代の中核を握る人物である。2026年5月、トランプ大統領の訪中に同行して、北京にいた。

 その奇妙な熱気を入口に、現代中国のリアルを読み解く新連載が始まった。

 書き手のヨシミさんは、日中両国にルーツを持つダブル。北京大学を卒業し、東京大学大学院を経て、いまは上海を拠点としている。二つの国を内側から知る目で、変わりゆく中国を斬る。

 政治は競い合う。けれど、市場と技術と人の絆は、そう簡単には断ち切れない。

 全3回。フアン氏のミルクティー1杯から、どこまで遠くが見渡せるか。ぜひ、お付き合いいただきたい。

第1回 掲載済み 

第2回 6月18日(木)公開予定

第3回 6月25日(木)公開予定

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《今週の写真》 紫陽花の表情

紫陽花が、咲き誇っている。

雨に濡れた紫陽花は、どこか、うつむいて見える。

けれど、梅雨の晴れ間に日を浴びた青は、ただ、美しい。

2026年6月14日

by 須毛原勲

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