【特別企画】社長対談

「中国とアメリカでの経験」
住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏 Vol.2(全3回) 2024.07.10

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住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏にお話を伺う第2回。
今回は、中国とアメリカでのご経験や日本企業にとっての中国市場についてお話を進めていきます

【特別企画】社長対談 ゲスト横濱雅彦(よこはままさひこ)

住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO

1987年、住友商事入社。大阪で物流業務の後、台北での中国語研修生を経て、深圳事務所で通信設備、農水産を担当。
1991年以降は鉄鋼部門で主に鋼管貿易に従事。中国(宝鶏)と米国(ヒューストン)で鋼管製造事業の立ち上げ。現地出向を通じ、M&A業務と事業経営を経験。
2014年油井管事業部長。2017年鋼管本部長。2020年に執行役員、東アジア総代表補佐としてコロナ禍の上海に赴任。上海住友商事総経理を務めた後に帰国、2022年より現職。
座右の銘は「活到老、学到老」。休日の読書と、妻と一緒に映画を見たり旅行する事が生き甲斐。

横濱雅彦さん
  1. Vol.1「商社マンの仕事と鉄鋼ビジネスの魅力」住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏Vol.1
  2. Vol.2「中国とアメリカでの経験」住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏Vol.2
  3. Vol.3「グローバル人材に求められるもの」住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏Vol.3

中国とアメリカのビジネス、似ているところ違うところ

ー 須毛原

中国とアメリカでのご体験の中で、両国とビジネスを進める上で顕著な違いなどは感じられましたでしょうか。

ー 横濱

違うところもあれば同じところもあるということで、両国の共通点と言えば「大きい」つまり、国土が広くて資源が豊富であるということ、マーケットが巨大であるということ、ということで、大陸気質のようなものは共通する点かと思います。

ビジネスのやり方で見ると若干違うのかなと感じました。大きな石油企業などを相手にした場合、アメリカは本当に透明性が高く、ビジネスのルールが決まっていて、全て文書化して権利と義務が明確になっていて、ビジネスインフラが整っているということは感じます。 一方中国ビジネスでは、関係(グワンシー)とか人情(レンチン)が大事だと言われますが、関係を築いたら人情が生まれ、場合によっては口約束でビジネスを進めているようなところもありますので、信頼したら徹底的に信頼する、といったところがあります。ビジネスが一回では終わらず、常に貸し借りが残るようなそういったイメージがありました。

ー 須毛原

双方良い面と悪い面があると思いますが、横濱さんから見てどちらが楽しかったですか?

ー 横濱

それは一言では難しくて、両方とも負けず劣らず楽しかったですね。郷に入れば郷に従えではないですが、アメリカのビジネスライクな関係性も楽しかったですが、中国の貸し借りが残るような、例えば本当に困った時は契約が無くても助けてくれるような、そういう経験もありますので。今思うと両方とも必死になっていたから楽しかったのかもしれませんが。

日本企業にとっての中国市場とは

ー 須毛原

米中関係が揺れ動き、中国自体の経済が停滞している今、日本企業の中国事業からの撤退や縮小などの動きが見受けられます。当社も日本の中小企業の海外進出のサポートをしていますが、やはり現状中国に対してネガティブなイメージを持たれている企業さんが少なくありません。 経済ですから良い時も悪い時もあるのは当然だと思いますが、横濱さんのご経験から、日本企業が今後中国とどのように付き合っていくべきかお聞かせください。

ー 横濱

80年代から中国と関わってきた者としては、現在の日中関係が必ずしも上手くいっていないというのは心が痛い事象です。

良いところも悪いところもあるのは事実ですので、物事を是々非々で捉えることが必要であると思いますが、時代がそれを許してくれないといいますか、メディアがやはりどちらか一方に偏る、炎上させる方向に煽った方が恐らくページビューが増えるのだということで、針小棒大に局部的なことを取り上げて悪だ、悪だと言うような風潮があると思います。これは中国に対してだけではありませんが。 そういったメディアの姿勢の一番の犠牲者が日中関係だろうと思いますし、一方中国も90年代までは先進国に学べということで技術導入をするために外資を優遇し学ぶ姿勢でいましたが、経済が発展しGDPが上がって自信を持って来て、特に2000年代以降日本を軽視するようになり、それにつれて国民感情が悪くなってしまったのかなと思います。そこからのツケが今回ってきていて、中国を理解しようとする人が少なくなった、そして中国に行かなくなった。それの決定的な打撃はやはりコロナでしたね。日本企業の経営幹部もそれまでは年に1~2回は訪中していたのが行かなくなり、自分たちで見た生の情報が入らなくなりメディアの情報しか入って来なくなったことにより、更に疑心暗鬼が増幅したということではないかと考えています。

ー 須毛原

まさに、その通りですね。中国現地の日本企業の方ともお仕事をさせていただいていますが、コロナ以降本社のトップが中国に来なくなってしまい、日本側はメディアの情報に影響されていますので、中国現地のスタッフが非常に仕事がしづらい状況であるということを外から見ていて感じています。

ー 横濱

大使館の方も、そのような悩みを吐露されていたこともありますし、中国に対して正しい理解をしている人が少なくなっているのが問題かと思います。 私自身は非常にニュートラルなスタンスで中国をとらえており、良いところもあれば悪いところもあり、それはどこの国でもそういう面はあると思っています。やはり、人の交流が戻ることが大切なのではないでしょうか。

ー 須毛原

おっしゃる通りですね。 日本の場合、特に若い人ほど中国の製品やプラットフォームなどに抵抗が無くなってきているように思います。

ー 横濱

そうですね。中国製品は昔は安かろう悪かろう、デザインも悪いという感じでしたが、最近の物はかなり性能も良くデザインも洗練されつつあると思います。オーディオ製品やEVなど、特にEVは外観も内装もかなりカッコいいし質も高くなっていますよね。

ー 須毛原

私も、中国のEVはデザイン、価格ともに非常に競争力を持っていると感じています。先日の北京モーターショウで展示された新規参入のシャオミー(小米)のEVは画像を見ましたがとてもカッコよかったです。 ご存じのように、日本と中国の貿易取引高は輸出入とも20%くらいあり、日本人の日常生活の中に中国製品はたくさん入っていますが、一方でメディアでネガティブな報道をされると印象が悪くなる。横濱さんがおっしゃったように多方面での人的交流が増えて、実際に自分の目で見て触れてメディアではなく個々の判断ができるようになること、それが重要なのかなと私も思います。

海外の企業や人と付き合う場合、日本の常識や慣習が通用しないのは米国であっても中国あっても他のどの国であっても同じことです。海外企業や人を正しく理解するためには、マスコミの情報を鵜吞みにするのではなく、自らの目や耳や肌で情報を得て咀嚼することが肝要だと思います。

停滞している日中関係の改善には両国の人的交流が不可欠です。

次回は、横濱さんのご経験からグローバル人材に求められるもの、そして、海外進出を目指す日本企業の皆さんへのメッセージなどをお伺いします。

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