【特別企画】社長対談

「グローバル人材に求められるもの」
住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏 Vol.3(全3回) 2024.07.17

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住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏にお話を伺う第3回。最終回の今回は、グローバル人材に求められるもの、そして最後に皆様へのメッセージを伺います。

【特別企画】社長対談 ゲスト横濱雅彦(よこはままさひこ)

住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO

1987年、住友商事入社。大阪で物流業務の後、台北での中国語研修生を経て、深圳事務所で通信設備、農水産を担当。
1991年以降は鉄鋼部門で主に鋼管貿易に従事。中国(宝鶏)と米国(ヒューストン)で鋼管製造事業の立ち上げ。現地出向を通じ、M&A業務と事業経営を経験。
2014年油井管事業部長。2017年鋼管本部長。2020年に執行役員、東アジア総代表補佐としてコロナ禍の上海に赴任。上海住友商事総経理を務めた後に帰国、2022年より現職。
座右の銘は「活到老、学到老」。休日の読書と、妻と一緒に映画を見たり旅行する事が生き甲斐。

横濱雅彦さん
  1. Vol.1「商社マンの仕事と鉄鋼ビジネスの魅力」住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏Vol.1
  2. Vol.2「中国とアメリカでの経験」住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏Vol.2
  3. Vol.3「グローバル人材に求められるもの」住友商事株式会社 執行役員 鉄鋼グループCFO 横濱雅彦氏Vol.3

海外でのチャレンジを乗り越える原動力は好奇心

ー 須毛原

当社が日本企業の海外進出をサポートする中で、常に言われるのが「言葉を喋れる人がいない」といったことです。海外でのご経験が豊富な横濱さんから見て、海外事業に携わるグローバル人材にはどういった資質が必要と思われますか? また、住友商事さんのグローバル人材の獲得や育成について、日本企業の参考になるようなことをお聞かせいただけますでしょうか。

ー 横濱

まず、言葉は喋れるには越したことはないというのは事実だと思います。英語はビジネスの世界での共通言語ですのでミニマムの知識は必要だと思います。ただ、発音はブロークンで問題ないと思います。世界中でビジネスをしましたが、例えばインドやシンガポール等では独特の発音のクセがあります。

何なら筆談やスマホなどデジタルの力を借りる手もありますし、言葉の堪能さよりも何より大切なものは好奇心だと思います。海外に行っていろいろなチャレンジを受けた場合、それを乗り越える原動力となるのは好奇心だと思っています。 更に、私自身が今、実際に海外人材に求めるものとしては英語力より母国語の国語力です。

ー 須毛原

それは、すごく腑に落ちます。完璧な英語を喋れなくてはダメだという呪縛にかかっている方も多いですが、私はそうは思っていません。

ー 横濱

きちんとした国語力を持っていれば、英語の発音が問題あっても話が通じるということは経験上沢山の実例を持っています。 同時に、日本の文化や歴史のことを知っていることも大切かと思います。自分の国のことを知らないと海外の方からのリスペクトを得にくいのではないでしょうか。

住友商事のグローバル人材構想と多様化

ー 横濱

住友商事のグローバル人材の獲得についてですが、本社から世界中に放射線状に駐在員を派遣するという形から、だんだんと現地の人材を登用していくというのが大きなチャレンジとなっています。 国籍・性別・年齢を問わず、コアバリュー(芯となる価値観)を共有できる人を引きつけていけるように組織として魅力を上げていきたいということで、処遇や職場環境の向上、適所適材の人員配置など様々な施策を展開しています。

ー 須毛原

日本本社側にもいろいろな国籍の方はいらっしゃいますか?

ー 横濱

まだ、人数シェア的には少ないですが、海外で採用した人を日本に駐在させるといったことを通じて少しずつ増えていると思いますし、海外でも昔は現地採用の人の処遇にいわゆる「ガラスの天井」というものがありましたが、今はマネジメント層以上にもどんどん登用していくという形をとっています。私も上海にいた時に、中国人の人材を広州のトップに据えるというようなことをしました。

ー 須毛原

女性の登用や昇進についてはいかがですか?

ー 横濱

以前は事務職と基幹職というものがあり、事務職は圧倒的に女性で基幹職は女性が増えつつもまだまだ大多数が男性でしたが、その職掌を一本化しました。性別によって登用に差が発生するということはありません。

商社が果たす社会的な役割とは

ー 須毛原

私はメーカーにいて商社の方々と仕事をする機会もありましたが、戦後の日本の経済の発展において商社の方々が果たした役割というのは非常に大きかったと思います。同時にこれからも、形は変わるかもしれませんが日本経済の継続的な発展のために商社が果たす役割というのはとても大きいと思います。今回、御社のホームページを拝見したところ「Enriching lives and the world」というコーポレートメッセージに出会いました。今後、住友商事さんがどのような役割を果たしていこうと考えられているのかをお聞かせいただけますでしょうか。

ー 横濱

弊社のコーポレートメッセージ「Enriching lives and the world」をご覧いただきありがとうございます。 この言葉は2019年の創立100周年に掲げたもので、全世界のグループ社員のワーキンググループが2年間の議論を経て辿り着いた、健全な事業活動を通じて社会と世界の人々の暮らしを豊かにすることを使命とするという決意を込めたメッセージになっています。

ー 須毛原

Enriching lives and the worldにつづく言葉が、非常にわかりやすくてとてもよいメッセージだと思います。

ー 横濱

ありがとうございます。ますます変化が早くなっているこの時代に様々な社会課題が複雑化しています。我々の強みのひとつは、自社の中にいろいろな分野のプロがおりますので、自社の中で連携を取り物事を進めていくことができるということだと思います。一つの課題を一つの業界の人だけではなく複合的な視点から解決を導いていける、というのが我々の価値ではないかと思っています。

ー 須毛原

今後も日本のフロントランナーとして、既に世界中に大きなネットワークを持っていらっしゃる住友商事さんのような総合商社が、技術はあるがネットワークを持たない日本の中小企業をサポートしリードしていただくことが、日本企業ひいては日本社会のために大きな力になると思っております。

海外進出を目指す日本企業の皆さんへのメッセージ

ー 須毛原

最後になりますが、当社は日本企業の海外進出をサポートしており、政府も様々なプログラムを展開して支援していますが、実際に海外進出を目指す皆さんは課題を抱えて大変苦労されています。 長年住友商事にて海外事業に携わっていらっしゃったご経験を通じて、日本の中小企業の皆様へ励ましのメッセージをいただけますでしょうか。

ー 横濱

実は私の父親も中小企業の経営者で、写真機材の輸入商をしていました。

ー 須毛原

その血を受け継がれたのですね!商社というフィールドは別でもアントレプレナーのマインドはお父様と同じではないですか?

ー 横濱

間違いなく海外製品への興味や好奇心、海外へ行ってみたいという気持ちなどは、海外製品が家の中に多々あったということが影響しているかもしれません。

ー 須毛原

先程、グローバル人材に必要だと横濱さんがおっしゃられた好奇心は、横濱さんご自身はお父様から学び受け継がれたものですね。

ー 横濱

それはそうかもしれませんね。子供の頃に受けた刺激がDNAとなっているかもしれません。

先程の話ですが、大企業、中小企業と言いますが、大企業でも分解するとひとつひとつのセクションは中小企業と変わりません。海外進出は未知で言葉や文化の壁があるということで、行く前はリスクが実態より大きく見えがちです。ところが「案ずるより産むが易し」ではありませんが、飛び込んでみたら意外と行けた、といったことが起こり得ると思います。

更に、ここまでなら失敗しても大丈夫だというキャップをしっかり閉めて飛び込めば、仮に失敗して失うものがあっても、学ぶことで追々回収できることはあると思います。 それから、昔と違って今はいろいろな情報が入って来る。昔はある程度の企業規模や経験が無いと入って来なかった情報を今は様々な形で得ることができると思います。その上で信頼できるパートナーを見つければ安心してチャレンジできるのではないでしょうか。

ー 須毛原

ありがとうございます。それでは最後に横濱さんの座右の銘をご紹介いただけますか。

ー 横濱

「活到老、学到老」という言葉です。これは、中国で口づてで伝承されている言葉で、「生涯現役で働き、老いても学び続ける」という意味です。「学びに終わりは無い。学び続けないと劣化していく。」という自戒の念を込めて胸に刻んでいます。

ー 須毛原

本日はありがとうございました。私自身もいろいろと勉強させていただきました。同時に当社がサポートさせていただいている海外進出を目指す日本企業の皆さんにとっても横濱さんの実践に基づくお話は非常に参考になると思います。 本日は、お忙しい中、長時間にわたり貴重なお話をいただきありがとうございました。

対談を終えて

若い頃、商社と共に新規市場を開拓する仕事をした経験があります。イランやロシアといった、メーカー単独では足がかりのない市場への参入において、当時既にテヘランやモスクワに拠点を構え、多くの駐在員を派遣していた大手商社(住友商事さんではありませんでしたが)の方々に助けていただきました。

テヘランでは、その商社の単身赴任者の宿舎で食事をいただき、外では飲めないお酒を酌み交わしながら、大いに語らい、彼らのすごさに感嘆したのを覚えています。モスクワでは、現地で事業の立ち上げに尽力してくれた商社の駐在員がたまたま自分と同い年で、現地のロシア人と英語で丁々発止のやり取りをしている様子に、「完全に負けている」と強烈な劣等感を抱いたことを昨日のことのように思い出します。

今回の対談を通じ、横濱さんもまさに「炎熱商人」のお一人だと感じました。鉄という事業を通じて日本経済の発展を支えてこられたことに心から敬意を表します。 横濱さんの経験に基づく言葉が、今後、海外進出を試みる多くの日本企業にとって大きな励みになることを心より願っております。

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