「風通しのいい社風に惹かれてAGCへ。海外駐在と広報の経験」
新・社長対談第5回 一般社団法人 日中投資促進機構 特別アドバイザー 上田敏裕氏 Vol.1(全5回) 2026.10.28

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上田 敏裕(Ueda Toshihiro)

【現職】
一般社団法人 日中投資促進機構 特別アドバイザー

【学歴】
1985年3月 慶應義塾大学 法学部政治学科卒業
2002年5月 ボストン大学ロースクール修士(LL.M)

【職歴】
1985年4月 旭硝子株式会社自動車ガラス営業入社
2008年4月 旭硝子広報・IR室長
2014年4月 旭硝子法務部長
2017年1月 旭硝子グループ中国総代表
2018年1月 旭硝子株式会社執行役員・中国総代表
(2019年5月 旭硝子が社名を「AGC」に変更)
2025年1月 AGC エグゼクティブフェロー
2026年3月 AGC 退職

【対外業務】
2023年4月~2026年3月 中国日本商会(在中国日本企業商工会議所)副会長 兼 渉外委員長

上田 敏裕氏
  1. Vol.1「風通しのいい社風に惹かれてAGCへ。海外駐在と広報の経験」
  2. Vol.2「法務部長から中国総代表に。グローバルな姿勢で企業を『ワンチーム』に」(2026年11月4日公開予定)
  3. Vol.3「パートナーシップの継承とコロナ禍での危機克服」(2026年11月11日公開予定)
  4. Vol.4「中国での濃密な9年間。今の日中関係には『対話』が必要だ」(2026年11月18日公開予定)
  5. Vol.5「中国という‟道場”へ──世界で勝つ能力を身につけよ」(2026年11月25日公開予定)

ー 須毛原

『新・社長対談』第5回目のゲストは、元AGC株式会社中国総代表であり、現在は一般社団法人 日中投資促進機構 特別アドバイザーを務めておられる上田敏裕さんをお迎えしました。

上田さんと初めてお話したのは2017年。北京の中国日本商会の月次定例会で、たまたま席が近かったことがご縁の始まりでした。お話をさせていただいて、それから何回かお食事をさせていただく機会も増えました。特に鮮明に覚えているのはその年の11月、経済3団体合同訪中団が北京に来た際に、人民大会堂で中国駐在日本企業代表側として同席したことです。その年の代表団の規模は過去最高の250人に達し、2国間の関係は非常に良好でした。

上田さんは中国駐在9年、私は13年で、合わせて22年。違う企業に属しながら同じ国を見てきて、おそらく経験も違うと思います。今回はそのあたりのことを、じっくりとお聞きしていきたいと思います。

「ものづくり」への憧れとAGCへの入社

ー 須毛原

まず、そもそも今のAGC、旭硝子に入社されたきっかけをお聞かせいただけますか。

ー 上田

たまたまですけれども、小中学校の同級生が先に入社していました。僕は浪人していたので、一年先輩に会う、ということで話を聞くと、「多くの優秀な人達が皆ざっくばらんで、風通しがいい会社」という印象を受けました。
加えて、自分はプラモデルを作るのが好きだったり工作クラブに入っていたり「ものづくりに携わりたい」という意識があったんでしょうか。

ー 須毛原

入社された後は、どのような事業分野にいらっしゃったんですか。

ー 上田

最初の5年間は自動車ガラスの営業をやっていまして、お客様はホンダさん(本田技研工業株式会社)でした。ホンダさんの宇都宮の研究所の中に入って、週4日ぐらいはそこにいました。まあサプライヤーですから、一緒に次のモデルのガラスをどうするとか、いろいろなことを。いきなり新入社員でそれをやったのでかなり大変でしたけれど、そこが僕のスタートです。

そこから法務とか後に広報や監査、どちらかというとコーポレート系で、途中で海外へ出ました。アメリカにも行きましたし、少し留学もしたという点では、実は旭硝子の中でもかなり特殊かもしれません。事業系が強い会社なので、ひとつの部署に入って、大体そこにずっといるパターンが多かったです。私みたいにあっちこっちに行っているというのは、ちょっとマイナーなほうでしたね。でもそれは僕にとって、とても良い経験になりました。

ー 須毛原

広報をやられたというのが、やはり後に中国総代表として、AGCだけではなく日本商会で日本企業の広報の仕事をされるのに非常に役に立ったということでしょうか。

ー 上田

そうですね。まず中国のメディアの方と相当付き合いましたから。多い時は年間200件ぐらいかな、ものすごい量のメディアの取材を受けました。自分がそういう仕事をやってきたからやり易いということもありましたし、僕は2017年に中国総代表で行ったのがほぼ初めての中国だったので、何も知らないし、わからない。であれば、いろんな人に会っていくしかなかった。その中にメディアの方がいて、メディアの方と会うと自分も勉強になりますよね。メディア対応の中でいろいろ学べたことが、まず広報をやっていてよかったなと思うことですし、確かに日本商会でも活動を外部に伝える点で、AGCでの広報の経験が役に立ちました。

アメリカ駐在と留学で学んだ「論理と情熱」

ー 須毛原

ちょっと話を戻しますが、アメリカに留学されたときが最初の海外経験ですか。

ー 上田

正確には先に海外赴任です。1993年から98年の5年間海外赴任に行って、その後に留学しているので。仕事での最初の海外はケンタッキーなんですよ。トヨタさんの自動車ガラスを納める工場があって、総務部長の立場で工場の管理部長みたいな仕事で行く、というのが最初だったんです。

ー 須毛原

その時の印象をお伺いしたいんですけれど。まず総務部長としてケンタッキーに駐在したときに、最初の異文化体験というか、アメリカ人の中で働くということ、そこでどのような経験をされてどう感じたのかということと、その後留学、2回目の異文化体験で、どのような経験をされたかということをお聞かせいただけますか。

ー 上田

よく覚えています。大変でした。ちなみに、一応僕は小学生の時に父親の仕事の関係で、マレーシアに3年ぐらいいました。ちょっとした異国体験はあったんですね。70年代です。日本人学校はあったのですが、日本からの駐在員が爆発的に増える前夜だから寺子屋みたいで、小中高で50人ぐらいというような。本当に小さい異国体験はありました。

話を戻すと、アメリカに行った当時は海外駐在を希望していたわけでもなく、英語もあまりできるわけでもなかったんです。それが、管理部長みたいな仕事だから責任があるんですよ。だからアメリカ人が20人ぐらいいて、議論をしている中に呼ばれて、最後に「あなたがリーダーだから決めてくれ」と。何もわからないところからスタートしたので、大変なチャレンジでしたしびっくりしました。ただ、アメリカ人のことがだんだんわかってくるにつれて、言葉の理解もそうですが仕事しやすいなと僕は思いましたね。なぜならばロジックとパッションというか、考え方がロジカルで論理性があって。そこに気持ちが入っている、ということになると、それほど大きな会社ではなかったですから、大抵のことはできる、みたいな。

日本だと例えば「あの人に許可を取るためには、こういうタイプの人だからこうしなきゃいけない」とか。アメリカはそういった面倒な部分が何もないというか、割とシンプルだったのでやり易かったです。ゲームのルールがはっきりしているというのでしょうか、僕みたいな新規参入者でもパッとそのゲームに入れるみたいな、そういう感覚がありました。多少時間はかかりましたけれど。

慣れると、相手は会社の従業員であれ、弁護士であれ、政府の人であれ、みんな一緒でこういう形でやればいいんだ、というような。それは後に、中国でも本当に役に立ちました。基本的に僕はアメリカの人やアメリカの企業マインドというのは、中国と非常に似てるなと思いましたから。例えば労務の考え方も。そういうところはあると思います。

ー 須毛原

どの辺りが似ていると思いますか?

ー 上田

まず工場で言えば、アメリカも中国も人事労務というのは非常に重要で、人を如何にマネージして有能な人を見つけて、適切にポジショニングしていくとすごい効果を上げる。そういう感覚というのは似ているかなと思いました。
あと、自己主張というところですね。組織であっても、「自分のやったことをちゃんと認めてくれよ、俺はこれをやったんだ」みたいなことを主張して、ある意味プロ野球選手のように給与交渉するところもあったりして。どっぷり日本企業に浸かっていた身からすると、「ええ、そういうのありか」みたいな。そういった点がアメリカと中国ではちょっと似ている感じがしますね。

ー 須毛原

日本人は、言わないことが美徳じゃないですか。謙虚が美徳で。ですから主張する人たちに対して、なんとなく違和感がありますよね。ただ、上田さんが今おっしゃったように、実はアメリカも中国もそうですが、世界中、マジョリティは多分そっちなんですよね。

ー 上田

日本がちょっと異質なんですよね。僕もそう思います。

新卒での営業経験から始まり、コーポレート系部署を経て海外赴任や中国日本商会の広報対応まで多岐にわたるキャリアを積まれた上田さん。ロジカルかつパッションを持って人と向き合う姿勢がグローバルスタンダードであるという意識は、私も通ずるものがありました。

次回は、中国総代表への抜擢と、パートナーシップを重視したAGCの事業展開について伺います。

次回
「法務部長から中国総代表に。グローバルな姿勢で企業を『ワンチーム』に」
新・社長対談第5回 一般社団法人 日中投資促進機構 特別アドバイザー 上田敏裕氏 Vol.2 (2026年11月4日公開予定)

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