初めての海外進出―成功への鍵

【第5回】価格戦略とインコタームズー逆算価格で粗利 50%を死守する 2025.06.24

「販売価格は原価の4倍を目安に設定せよ」

これは海外進出を黒字で走り切るための最低条件である。
先に粗利50%(理想は100%)を確保できる販売価格を決め、そこから物流費・関税・販促費を逆算して原価を設計する。

本稿では次の3点を順に解説する。

  1. 逆算フォーミュラ「×4モデル」
  2. Incoterms 2020 の選定ポイント
  3. 価格・条件・支払を同時に決める手順

価格は“資金繰り表の羅針盤”

海外展開では規格取得、マーケティング、為替ヘッジなどのコストが国内より桁違いに膨らむ。
したがって粗利50 %を割る価格は交渉テーブルに乗せないというフィルターが不可欠である。
価格を甘くすると序盤で現金が尽き、勝負すらできない。

逆算フォーミュラ「×4モデル」

ステップ計算式目的
① MSRP設定※原価 × 4 = MSRP現地の粗利50%を確保(FOB×2)
② FOB逆算上代 ÷ 2 = FOB価格輸送費・関税前で粗利50%
③ 原価限界FOB ÷ 2 = 最大原価規格取得費込みで粗利50%

※MSRPとはMSRP(Manufacturer’s Suggested Retail Price)メーカー希望小売価格

「×4」はあくまで起点であり、市場が許すなら上代をさらに引き上げ、粗利100 %を狙う。

Incoterms2020──コスト負担を誰が持つか

条件輸出側負担輸入側負担主なメリット主なデメリット
EXW工場引渡しまでそれ以降すべて原価が明確買手が敬遠しやすい
FOB本船積込まで船積後すべて伝統的で選びやすい
船手配を買手任せ
CIF海上運賃・保険まで現地通関・内陸輸送
“運賃込み”提示が容易海運コスト変動を売主が抱える

【教訓】
CIFを固定すると、Freight(F)の急騰分を売主が丸抱えするリスクがある。
契約前に変動条項や上限設定でヘッジすることが不可欠である

インコタームズとは?(IncotermsR 2020)
国際商取引条件の国際規格で、売主と買主の「費用負担(Cost)・危険移転(Risk)・義務(Tasks)」を11の三文字略号で定義します。
ICC(国際商業会議所)が10年ごとに改訂し、現行版は2020年1月1日発効の「IncotermsR 2020」です。

為替15 %円高でも利益を守るシミュレーション

円が15%高(150円→128円)でもFOBは17,400円相当となり、純粗利30%を確保できる。
逆算設計が為替変動のショックアブソーバーになる。

◆Episode 05 FOBとCIFの落とし穴

CIF固定で契約した直後に海運運賃が400ドル→1,200ドルへ高騰。
差額800ドル×200本=16万ドルが売主負担となり赤字転落。
CIFは運賃変動リスクを売主が背負う。
値引き獲得に浮かれて固定すれば、一撃で利益を吹き飛ばす。

価格・条件・支払を同時に決める3段階

  1. 逆算表を作る
    原価・FOB・CIF・上代の4列に物流・関税欄を追加する。
  2. インコタームを選ぶ
    まずは、FOBまたはCIF の一択で仮見積を提示し、交渉軸を単純化する。
  3. 為替±15%シミュレーション
    粗利が20%を割れば原価または販売価格を再設計する。

支払い条件―価格と並ぶ“資金防衛ライン

代表的決済方式とリスク

鉄則:取引履歴の浅い相手には「前払い→L/C→O/A」の順に段階移行し、リスクテイクを漸減させる。

初期取引ガイドライン

支払い猶予(ユーザンス)の設計

条件のモニタリング

結論:支払い条件は価格と同等、むしろそれ以上に重要である。
強い条件でスタートし、信用実績に応じて緩和する階段設計こそが資金流出を防ぐ最短ルートだ。

逆算価格に織り込む追加コスト


今日の宿題
  1. 自社商品の逆算価格表(原価・FOB・CIF・上代)を作成する。
  2. 仮見積を FOB と CIF の両条件で1通ずつ作る。
  3. 為替を±15%揺らし、粗利が20%を下回らないか検証する。
次回予告

【第6回】海外市場を制する価格戦略―MSRPと出荷価格で粗利を最適化せよ


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