- 【この記事の要点】
本連載では、長い間の海外事業経験と地方の作り手の海外展開に伴走してきた実務経験に基づき、海外進出で「成功する会社」と「あと一歩で止まる会社」の決定的な違いを解説します。
第1回では、海外に出るときに決めるべき2つのこと(どこで出会うか/誰が売るか)と、進出前に必ず確認すべき自社の「3つの必須条件」をお伝えします。
本連載を執筆するきっかけ
ある年、地方の県から委託を受け、海外のバイヤーを日本に招いて、地元企業との商談会を運営する仕事をしました。
1年近く伴走しました。バイヤーを探し、企業を回り、商談用の資料を一緒に作り、通訳を手配し、商談の席に立ち会いました。商談が終わったあとも、輸入手続きの書類づくりを手伝いました。
──思うところが、たくさんありました。
素晴らしい商品を持ちながら、あと一歩のところで止まってしまう会社がありました。逆に、決して派手ではない商品で、しっかりと注文を取った会社もありました。
その差は、商品の優劣ではありませんでした。
30余年にわたる海外事業経験や企業の海外進出支援事業で学んだことを、できるだけ読みやすい形で書き残しておきたいと思います。1つでも、これから海外に出ようとする方の役に立つヒントがあれば幸いです。これが、この連載を始める理由です。
本連載の構成
本連載では、企業の海外展開に必要な要素を全12回に分け、現場で体感したエピソードを交えて解説します。
- 1.海外進出最初の一歩──海外へ出るということ
- 2.商品を”文化翻訳”せよ
- 3.ラベル1行の不備で、市場は閉じる
- 4.進出国を選ぶ「5つのレンズ」
- 5.価格は逆算で決める
- 6.どこで出会い、誰が売るか
- 7.「自社という鏡」を磨く
- 8.パートナー候補を机上で見つける
- 9.オンライン面談で見抜く
- 10.バイヤーは何を見ているか
- 11.人・資金・時間と、支援機関の使い方
- 12.90日で動く ── いま帆を揚げよ
(予定)
1.あと一歩で止まる会社と、注文を取れる会社
商談の席を外から見ていると、差がつく瞬間がはっきり分かります。
止まってしまう会社には、共通する姿があります。持ち時間の大半を、自社の沿革と製品一覧の説明に使ってしまうのです。商品そのものは良い。けれども相手は「で、自分の店のどの棚に、どう置けばいいのか」が分からないまま、時間が終わります。
一方、注文を取る会社は、最初の数分で「この一点を、こういう売り方で」と提案しています。商品は多く持っていても、その場に出すのは1つか2つに絞っていて、残りは聞かれたら出すのです。
もう1つの差は、商談のあとに表れます。その場では同じように盛り上がっても、翌日に議事録と追加資料が届く会社と、1週間音沙汰のない会社があります。海を越えた相手の関心は、こちらが思うよりずっと早く冷えてしまいます。
商品の力で勝負が決まるのは、商品が相手に正しく伝わったあとの話。その手前で止まっている会社が、驚くほど多いのです。
2.海外に出る道は、1本ではない
「海外進出」と聞くと、多くの経営者はまず現地法人や駐在員を思い浮かべます。そして「うちにはまだ早い」と結論づけてしまいます。
ですが、決めるべきことは1つではありません。順番に2つあります。
1つ目は、相手とどこで出会うかです。自分で探すのか、商談会で会うのか、誰かに紹介してもらうのか。
2つ目は、誰が商流を担うかです。自社が直接輸出するのか、商社に託すのか。
この2つは、別々の決定です。ここを混ぜてしまうと、話がかみ合わなくなります。
多くの経営者は、2つ目──しかもその極端な形である「現地法人を作るかどうか」──だけで考えて、「まだ早い」と止まってしまいます。けれども先に決めるべきは、1つ目のほうです。
そして1つ目には、海外に出向かずに済む選択肢があります。海外のバイヤーに日本へ来てもらい、国内で商談する形です。渡航費も語学の負担も小さく、工場や産地をそのまま見てもらえます。最初の一歩としては、これが最も現実的な場合が多いと感じています。
なお、商談会で出会った相手とは、直接輸出で取引することも、商社を通すこともできます。出会い方を決めたからといって、売り方まで決まるわけではありません。
2つ目、つまり誰が商流を担うかの判断の分かれ目は、おおむね次の2点です。
- ●自社の商品を自分の言葉で説明できる人が社内にいるか
いれば直接輸出か招へい型が視野に入る。いなければ、まず商社と組みながら人を育てる道がある。 - ●3年かけて学びを蓄える気があるか
あるなら直接輸出を選ぶ。「一定量が売れればよい」という段階なら、商社に託すほうが合理的。
重要なのは、「現地法人を設立するかどうか」という一択で考えるのをやめることです。この2つの決定については、第6回で詳しく扱います。
3.出る前に、3つを確かめる
海外で成果が出る会社には、はっきりした共通点がありました。
① 国内ですでに選ばれている商品があること
売上規模の話ではありません。「これでなければ困る」と言う顧客が国内にいるかどうかです。従業員数名で、国内売上が数億円という会社が地方にはあります。規模は小さくても、密度が高い。こういう会社は海外でも強いのです。逆に、国内で選ばれていない理由は、海外で消えることは無く、増幅されてしまいます。
② 資金に多少の余裕があること
金額の大小ではありません。3年間、途中で息が切れない範囲で始められるかどうかです。規格対応や現地対応の費用は、想定より後からやってきます。
③ 社長自身が決めていること
担当者に任された海外案件は、ほぼ例外なく止まります。判断すべき場面が次々に来るからです。決める人が現場にいなければ、そのたびに止まってしまいます。
逆に言えば、この3つが揃っていないなら、いま急ぐ必要はありません。国内で商品を磨く時間のほうが、はるかに価値があるのです。
4.動機は「攻め」か「守り」か
3つが揃っているなら、次は動機をはっきりさせる番です。動機には、大きく分けて「攻め」と「守り」があります。
| 動機 | 状況 | 成功の鍵 |
| 攻め | 国内が好調なうちに、第2の柱を作る | 余力があるうちのスピード参入 |
| 守り | 国内の停滞を打破し、販路を作り直す | 小さく始め、早期に損益分岐を超える |
どちらでも構いません。まずいのは、動機が曖昧なまま走り出すこと。動機が曖昧だと、「何のためにやっているのか」が分からなくなり、そこで止まってしまいます。
- 1.自社が海外に出る動機を、30文字で紙に書いてください。
- 2.第3節の3条件(商品・資金・体制)について、自社がいまどこに立っているかを確かめてください。
・「これでなければ困る」と言う国内顧客を、3社挙げられますか?
・3年間で投じられる上限額を、いまこの場で言えますか?
・海外を担当する人の名前が、すぐに出ますか?
答えられない項目があれば、それが先に手をつけるべきことです。
30文字でいい。紙に書けるかどうかで、覚悟は測れる。
無料個別相談を受け付けています。
最初の一歩について壁打ちをご希望の方は、お問い合わせフォームhttps://sugena.co.jp/contact-us/よりお気軽にご連絡ください。