vol.3 進化する中国のeコマースと宅配サービス 2024.11.29 リアル中国生活！ミキの上海通信
世界で中国ほどeコマースや宅配業界が発展している国はほとんどないと言えるでしょう。
今では、スマートフォンを数回タップするだけで、最短30分で注文した商品を受け取れる時代です。
「ダブルイレブン」(双十一)
一大イベントに成長したオンラインショッピング祭り
中国では11月11日は数字の1が並ぶことから「独身の日」※1と言われています。その前後にはショッピングフェスティバルが繰り広げられ、今年は10月中旬から始まり、1か月以上にわたって盛大に開催されました。それが一年に一度の「ダブルイレブン」(双十一) オンラインショッピングフェスティバルです。
15年前、「淘宝（タオバオ）」というオンラインショッピングサイトが11月11日に初めてプロモーションイベントを実施しました。当時、参加した店舗はわずか27社で、規模もそれほど大きくありませんでしたが、売上は5200万元(約10億円)に達し、予想を大きく上回る成果を収めました。それ以降、毎年11月11日がこのサイトのショッピングデーとして定着し、今では数多くのプラットフォームが参加する、国民的なオンラインショッピングイベントへと成長しました。年々規模が拡大し、昨年、2023年の全プラットフォームの総売上は、1兆1386億元（約23兆円）に達しました。
このように繁栄するeコマース業界は、宅配業界の急成長を後押ししました。そして、宅配業界の発展が、この規模の大きなオンラインショッピングイベントを支える原動力となっています。
背景には、eコマースと宅配サービスが、忙しい都市生活を送る人々にとって驚くほどの利便性をもたらしているという事実があります。
さらに速く、さらに便利に進化する配達サービス
商品の到着時間がどんどん短くなっています。
以前は、衣服や日用品、小型家電といった生活必需品をオンラインで購入すると、届くまでに約1週間はかかるのが普通でした。急いで使いたいものは、オンラインで購入するのをためらうこともありました。
しかし、配達会社は「最速ではなく、さらに速く」(没有最快，只有更快)（※2）をモットーに進化を遂げ、サービスの細部にもこだわるようになりました。その結果、保存が難しく、デリケートな食品類までオンラインで購入できるようになったのです。
例えば、果物や野菜は退勤前に注文して、帰宅するまでに新鮮な状態で届けてもらえます。冷蔵が必要な牛乳や肉類も保冷剤付きで最短30分で配送可能です。さらには、酸素パックを使って鮮度を保ったまま生きた魚介類を届けることもできます。これらすべての商品が現在どこにあるかをリアルタイムで確認できる仕組みも整っています。
街中では、さまざまな宅配会社の制服を着た配達員を見かけない日はありません。日々、多くの商品が迅速に届けられています。例えば、ネジ1本のような小さなものでも、丁寧に梱包され、送料込みで翌日には手元に届きます。反対に、冷蔵庫や家具、観葉植物、ガラス製品のような大型で壊れやすいものも、安全に自宅の玄関先まで届けられます。
返品・交換がさらに簡単に
オンラインショッピングでは、実物を手に取れないため、時には思い描いていたものと違うといったリスクもあります。しかし、現在ではほとんどの商品が、品質に問題がなくても「気に入らない」「イメージと違う」といった理由で返品・返金が可能になっています。商品到着後7日以内であれば返品を受け付けるサービスが一般的です。
さらに、多くの商品は送料込みの価格設定で、一部には「送料保険」(运费险)（※3）が付いており、誤って注文した際のコストを最小限に抑える仕組みがあります。このような工夫により、購入プロセスがより簡単で便利なものとなっています。最近では「先用後払い」(先用后付)（※4）という、試用後に支払う仕組みも登場し、消費者の不安を解消しています。
こうした仕組みの充実により、オンラインショッピングは単なる便利な買い物手段にとどまらず、消費者に安心と信頼を提供する新たなスタンダードとなっています。
進化するショッピング体験
オンラインショッピングの体験は、格段に向上しています。
かつては、商品の見た目だけを写真で確認し、価格や発送速度、ブランドの知名度を基準に購入を決めるのが一般的でした。そのため、購入するものは日用品や低価格な商品が中心でした。
しかし今では、どんな商品にも多角度からの写真や動画による詳細な説明がついています。さらに、数時間にわたるライブ配信が行われることもあり、購入前に商品をより具体的に知ることができます。
例えば、衣類はモデルが360度回転しながら着用して見せてくれます。食品はライブ配信で調理過程を実演し、美味しそうな完成品まで披露されます。家電製品は、配信者が詳細な説明や他製品との比較を行い、時には実店舗よりも直感的で分かりやすい情報が得られます。
オンラインプラットフォームで指を動かすだけで、まるで街を歩いて買い物を楽しむような感覚が味わえるようになりました。ライブ配信では、リアルタイムで質問やコメントをやり取りできるため、友達と一緒に買い物をしているような気分になります。気になる商品はカートに入れて、じっくり検討することも可能。店舗で営業トークに押される心配もありません。
商品やサービスの多様化
商品ラインナップもさらに広がり、日用品だけでなく、航空券、ホテル、レストラン、イベントのチケットといった体験型商品もオンラインで購入できます。お得な価格の時にまとめて購入し、不要な場合はキャンセルすることも可能です。また、家事代行や修理サービスといった実用的なサービスも見つけることができます。
オンラインショッピングは、単なる利便性の追求だけでなく、消費者がより豊かで楽しい買い物体験を得られる場所へと進化を遂げています。それは、私たちに品物が届くまでのワクワク感や、届いた時の喜び、驚き、そして便利さを与える新しい買い物の形です。その魅力は、これからも進化し続けるでしょう。
今年の「ダブルイレブン」は何が変わったのか？
今年の「ダブルイレブン」では、プロモーション期間の延長や政府の補助金政策が後押しとなり、総売上は昨年よりも増加しました。また、配送された荷物の総量も100億件を超えるなど、数値上では大きな成果を挙げました。
しかし、消費者の間での話題性やショッピングへの熱意は、例年ほど高くありませんでした。
経済の影響と消費行動の変化
経済市場の不安定さが消費者の心理に影響を与え、消費行動の合理化や「消費のダウングレード」(消费降级)（※5）が顕著になりました。また、特典を得るために無駄な買い物をする「凑単」(凑单)（※6）という行為も話題となっています。消費者は以前よりも理性的な購買行動を取るようになり、若者の間では国産品やコストパフォーマンスの高い実用的な商品が好まれる傾向が強まっています。
さらに、一年を通じて開催されるさまざまなオンラインプロモーションイベントが「ダブルイレブン」の特別感を薄めている点も影響しています。消費者は焦って購入する必要がなくなり、じっくりと比較検討する時間を得ています。
複雑なルールが影響する購買意欲の低下
また、多くの消費者が「割引率」や「キャンペーンルール」に対する不満を抱いています。一部の店舗ではプロモーション前に価格を引き上げたり、割引方法が複雑すぎて、計算のためにExcelを使う必要があると揶揄されるほどです。
こうした状況は、消費者の信頼感やショッピングを楽しむ気持ちを損ねています。
持続可能なオンラインショッピングのために
現在の経済環境では、プラットフォームや販売者が、より誠実で透明性の高い取り組みを行うことが求められています。シンプルで分かりやすいプロモーションや価格設定を通じて、消費者にとって魅力的な買い物体験を提供することが重要です。
オンラインショッピングの利便性がこれからも長く愛され、支持されるためには、販売者と消費者の信頼関係が鍵となるでしょう。
<今週の中国語＞
※1 双十一（shuāng shí yī）
11月11日が「独身の日」として知られるようになったのは、1990年代から。「1」が4つ並ぶ様子が「独身者」を象徴するとして、ユーモアを交えた俗称として使われるように。
「光棍（guāng gùn）」は「独身者」や「恋人がいない人」を指す中国語のスラングで、直訳すると「裸の棒」という意味。これは、一本の棒が孤独で連れがいない様子を比喩的に表現。
※2 没有最快，只有更快（méi yǒu zuì kuài, zhǐ yǒu gèng kuài）
配達業界がスピード向上を目指す標語。「さらに速く」を追求する姿勢。
※3 运费险（yùn fèi xiǎn）
商品返品時の送料をカバーする保険サービス。
※4 先用后付（xiān yòng hòu fù）
商品を試用後に支払う仕組み。購入者の不安を軽減。
※5 消费降级（xiāo fèi jiàng jí）
高級品ではなく実用的でコストパフォーマンスの良い商品を選ぶ消費傾向。
※6 凑单（còu dān）
割引条件を満たすため、余分な商品を購入する行為。特典を得た後に商品をキャンセルする行為が問題になっている。
