
10年前、ある人が辞表に書いた一言が中国のネットで話題となりました。
「世界はこんなにも広いのだから、私は行ってみたい」(世界那么大,我想去看看)。そして、その言葉の通り、この10年間、実際に中国の観光業は急速な発展を遂げました。
「年に1回のお楽しみ」から、「休暇ごとのリフレッシュ」に
まず、人々の旅行回数が増えました。
十数年前は、年に1度くらいしか旅行に行かなかったのが、今では休暇があれば、長期でも短期でも、「どこに行こうか」と考えるようになりました。子供がいる家庭では、冬休みや夏休みを利用して1度は旅行に出かけるのが一般的です。1学期にわたる学業の緊張感の中で、子供はもちろん、親だって一息つきたいのです。

一方、子供がいない家庭は、子供にかかる費用を気にする必要がないため、その分、自分自身の自由を満喫しています。
また、逆に、学校が休みの冬休みや夏休みを避けて旅行に行こうとする人たちもいます。皆それぞれが、日々の苦労に対するご褒美として旅行に出かけたりします。その結果、中国人の多くは、長距離、短距離旅行も含め、現在では年に5~6回、場合によってはそれ以上旅行に出かけるようになりました。
目的地や巡り方の選択肢も様々に
次に、目的地の選択肢がより多様になりました。

伝統的な観光地、たとえば北京で故宮を見たり、万里の長城を登ったり、西安で兵馬俑を見たり、四川でパンダを見たりすることは、今もなお特に子供たちに人気があります。観光地では、観光バスがいたるところに見受けられ、ツアーガイドたちが手に高々と掲げた小さな赤旗が目印となっています。
これらの人気観光地は定番であり、大衆的なため、観光客で溢れ、繁忙期に訪れると良い思いができません。そのため、人々は時には伝統的な観光地を避け、よりニッチな目的地を求めるようになりました。こういった場所は交通の便があまり良くありませんが、観光客が少ないため、まるで未発掘の宝石のようです。

陽光とビーチを愛する人々は、三亜から車で1時間半ほどの距離にある万寧や陵水に目を向け、サーフィン、ダイビング、潮干狩りなど、豊富な海のアクティビティで海とのより濃密な触れ合いを楽しんでいます。古風で静かで、炊煙がたなびく小さな町や、灰瓦と白壁が調和する小さな橋と流水の情緒あふれる集落を好む人々は、雲南の普尔澜沧や徽州の宏村を訪れたりします。また、広大な原野を好む人々は新疆の巴音布鲁克を、広大な星空に魅了される人々は、黄土が舞い上がる寧夏の沙坡頭を選ぶのです。


国内でもこれほど広大で、選択肢も豊富です。ましてや海外旅行なんて、言うまでもありません。
数年前には東欧や中東が流行していましたが、今ではアフリカや南極にまで、人々は旅行先として全世界を踏破しており、ほとんど制限がありません。
また、短期間に複数の観光地を巡る、いわゆる「走馬観花」的な旅行スタイルは、ますます好まれなくなっています。人々は自分に合ったアクティビティや方法を選ぶ傾向にあり、流行に従ったり妥協したりせず、より深い体験を求めています。
同じ目的地を何度も訪れる、または1度に1か所だけに滞在する、もしくは自分で情報を集めてレンタカーを借りる、あるいは個性化された旅行カスタマイズサービスを選ぶといった選択肢が増えています。
たとえば、上海の人々に大人気の旅行先である日本は、飛行時間がわずか2時間と、ほとんどの国内旅行先よりも近く、食文化は男女老若問わず楽しめ、さらに複数回入国可能なビザ制度も整っているため、上海の人々にとって海外旅行の際に何度も選ばれる選肢のひとつとなっています。そして、日本は自由旅行にも非常に適しています。

従来の東京・大阪を巡る6日間の団体ツアーはすでに新鮮味を失っており、多くの人は東京へ行く際、新たにオープンした懐石料理を堪能したり、美術館を散策したり、あるいは九州の天草でイルカウォッチングや青森で温泉を楽しんだり、範囲は広がっています。
他にも、ルネサンス期の文化芸術を愛する人は、イタリアの博物館カスタムツアーを選ぶことができます。1週間の旅程で、チャーター車を利用してさまざまなニッチな美術館や博物館を巡るこのツアーは、多くの一般的な団体ツアーでは訪れることができない場所を含んでおり、人が少ない美術館でゆっくりと過ごし、心ゆくまで楽しむことができます。
もちろん、今でも「弾丸ツアー」風の旅行があります。週末を利用して、1日平均2万歩歩き、朝から晩まで食べながら観光スポットを次々と巡る。体は疲れ果てても、心は充実する——まさに若者にぴったりの満足感です。
ソーシャルメディアや交通網の充実が支える旅行産業の発展
旅行業界の発展は、ソーシャルメディアの功績なくしてはありえませんでした。
人々がSNSで生活の楽しさを記録するのは当然のことであり、旅行中のユニークな体験を共有するのも自然な喜びです。より独特なものほど魅力的になり、1人の投稿が10人に、10人の投稿が100人に広がることで、さまざまなニッチな都市が一気に注目を集め、旅行関連のリソースもますます豊かになっています。
また、交通機関の利便性も、観光業の発展を推進する重要な要因です。
以前は、旅行に出かけるためには長い時間が必要で、往復の移動にほぼ一日を費やしていました。しかし現在では、飛行機に加え高速鉄道ネットワークの整備・発展や、個人あたりの車所有率の向上により、移動コストが低下し、利便性が高まっています。その結果、思い立ったらすぐに旅行に出かけることが、より可能になったのです。

さらに、人々の経済状況が改善されたことで、旅行という無形の体験にお金を使う意欲が一層高まりました。2022年のパンデミックやその後の経済状況の低迷により、盛況を極めていた観光業は一時的に低迷しました。しかし、その後の観光業の急激な成長回復は驚くほどでしたが、どこかでは予想の範囲内とも感じられました。
世界一の海外旅行消費額を誇る中国

中国人の、海外での消費能力の高さは有名です。中国には「来都来了」という言葉があり、これは「せっかく旅行に来たのだから」といった意味で、普段よりも惜しみなくお金を使う傾向を表しています。今では旅行がごく普通のものとなり、外出時の支出が以前よりも合理的になっているとしても、中国は世界で最も高い出国旅行の一人当たり消費額を誇る国です。
つい先日終わった2025年の春節では、国内旅行者数が延べ5億人に達し、前年比5.9%増加、旅行の総支出は6770.02億元(約1兆4000億円)に達し、前年比7.0%増加しました。
コロナ後の時代において、人々は次々と未知なる場所へ向かい、不安や迷いに苦しむ自分に一息つかせ、心をリフレッシュさせています。今の多くの中国人は、どこへ行くにしても、どんな旅行スタイルを選ぶにしても、とにもかくにも、まずは、旅行に出かけるのです。彼らは、エネルギーの充電と心の癒しを求めて、また旅行に行くのです。
