リアル中国生活!ミキの上海通信

vol.17  上海が描く「高齢化社会」の未来   2025.03.21 リアル中国生活!ミキの上海通信 by Miki

  • facebook
  • twitter

中国初の高齢化都市が描く未来像

 上海は1979年という早い時期からすでに高齢化社会に入り、中国で最も早く高齢化社会になった都市です。(※1 老龄化社会 lǎo líng huà shè huì)

 2023年時点で、上海市の戸籍人口のうち、60歳以上の高齢者は568万500人で総人口の37.4%、65歳以上の高齢者は437万9200人で総人口の28.8%、80歳以上の高齢者は81万6400人で総人口の5.4%を占めています(データ:上海市統計局)。

 高齢化社会というと、流行や可能性、急速な発展とは正反対の印象を受けるかもしれません。(※2 背道而驰 bèi dào ér chí) しかし、高齢化社会が進む根本的な理由は、人々がより自分らしい生き方や生活の質を追求するようになったこと、都市の医療レベルが絶えず向上していること、そして健康への意識が高まったことにあります。そのため、高齢者が安心して、支えのある生活や楽しみを持って過ごせるよう、政府や多くの業界が積極的に取り組んでいます。


医療アクセスの最前線~1時間50元(約1,000円)の“専門家付き添い”が変える高齢者ケア

 いくつか具体例を挙げましょう。

 高齢者が最も気にするのはやはり健康と医療の問題です。以前このエッセイでは、インターネット病院の普及や地域医療施設の充実などをご紹介しました。足腰が不自由な場合や、スマートフォンの操作に慣れていない高齢者が病院に行かなければならない時に、家族が仕事などで付き添えないこともあります。そんな時に便利なのが「診療付き添いサービス」です。最低料金は約50元(約1000円)ほどで、1時間単位で利用可能です。

 かつては、付き添いサービスというと病院への送迎や順番待ちの代行程度で、スタッフの質や料金にもばらつきがありました。しかし、こうしたサービスのニーズが高まるにつれて、政府は付き添いスタッフの専門的な教育と認定試験制度を導入しています。資格を取得したスタッフは一定の医療や介護の知識を身につけており、高齢者の症状をよく理解したうえで、医師とのコミュニケーションをサポートし、診察をスムーズに進める役割を果たしています。


在宅介護の現状と課題~94.6%が選ぶ自宅での老後を支える新たな取り組み

 家庭環境への愛着や慣れ親しんだ生活空間への安心感から、自宅で老後を過ごす高齢者が依然として多数を占めており、上海では94.6%に達しています。しかし、在宅での生活にも問題はあります。例えば、高齢者は食事量が少なく、新鮮で健康的な食材を毎日少量ずつ購入して調理するのは負担です。また、一人暮らしの場合は突然の体調不良や事故などを周囲が気づかない恐れがあります。そのため、最近では家庭用の健康モニタリング機器の普及や、住宅のバリアフリー化改修が進められています。


歩いて15分で紡がれる暮らしの安心感

 地域では現在、「徒歩15分圏内で完結する高齢者向けサービス」の整備が進められています。これは、高齢者が住む地域を起点に徒歩15分以内で、食事や基本医療が受けられるサービスセンター、小さな運動公園(ポケットパーク)など、生活に必要な施設を揃える取り組みです。

 例えば食事の面では、上海には現在300軒以上のコミュニティ食堂があります。これらの食堂は単なる空腹を満たす場所ではなく、味が良くて安価、なかにはSNSなどで話題となる人気の食堂もあります。徐匯区のある食堂では朝食だけで30種類以上のメニューが揃い、包子(肉まん)、ゆで卵、蒸したサツマイモ、豆乳など、価格は1元~3元(約20円~60円)程度で、高齢者にぴったりな味付けの食事を提供しています。昼食時には家庭料理が20~40元(約400円~800円)ほどで楽しめ、量も十分で油控えめ、あっさりとして健康的です。明るく広々とした食堂は街に面しており、高齢者たちが窓際の席で食事をしながら談笑する光景が日常的になっています。


街角に咲くシルバーライフの華

 また上海では、多くのカフェや公園、小さな広場で、高齢者同士が集まりおしゃべりや歌、ダンスを楽しむ姿をよく目にします。地域のコミュニティでは書道や楽器、朗読教室など、趣味を楽しめる環境も整っています。最近では、博物館や展覧会が開催する親子向けの工作体験などに高齢者も積極的に参加しており、お年寄りと子どもたちが一緒になって笑顔で過ごす姿からは、高齢者が社会から孤立しているのではなく、確かに社会の一員であることを実感できます。


高齢者向け施設の進化する姿

 高齢化社会に対応するもう一つの重要な分野である老人ホーム産業も着実に拡大を続けています。介護施設の専門性と人間性が向上するにつれ、多くの高齢者が従来の考え方を変えつつあります。老人ホームはもはや「子供が親を捨てる場所」ではなく、充実した老後生活を送るための選択肢の一つとして認識されるようになりました。

 2023年末現在、上海には700ヶ所以上の各種介護施設が存在し、中でも高級老人ホームの数が増加傾向にあります。これらの施設では、

・緑豊かで落ち着いた環境

・プライバシーが守られる個室

・書道教室からダンスパーティーまで多様な文化活動

・集団生活への参加と個室でのプライベート時間の両立

・24時間体制の医療スタッフと介護専門家の常駐

といった特徴を備えています。

 施設は、独居時の緊急時の不安を解消すると同時に、共同生活におけるプライバシーへの懸念にも配慮した設計がなされています。昼間は仲間と卓球を楽しみ、夜は静かに読書するといった、自宅では実現困難な生活リズムを自由に構築できる点が、現代の高齢者層から支持を集める理由となっています。


誰もが向き合う「老い」という現実

 現代の高齢者にとって老後の生活設計はもはや抵抗感のない話題となっており、自身の経済力向上と高齢者向けサービスの利便性向上が、人々により多くの選択肢を与えています。

 社会全体が「シルバーエコノミー(銀髪経済)」に注目し、高齢者ケアの責任を担うようになった背景には、「誰もが永遠に若くはない」という現実があり、これは私たち一人ひとりに関わる問題であるという認識が広がっているからでしょう。

気になる中国語

1. 老龄化社会(lǎo líng huà shè huì)

意味:国連の定義によると、60歳以上の人口が総人口の10%以上、または65歳以上の人口が7%以上を占める社会。高齢化が社会構造に影響を及ぼす段階を指す。

日本語翻訳:高齢化社会

2. 背道而驰(bèi dào ér chí)

意味:進む方向と目標が完全に逆であること。努力や行動が目指すべき方向と相反し、結果的に目的から遠ざかる様子を比喩的に表現する。

日本語翻訳:逆行する/相反する

これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!

by Miki

ブログ一覧に戻る

HOMEへ戻る