リアル中国生活!ミキの上海通信

vol.19  青団に見る南北の味覚の違い   2025.04.05 リアル中国生活!ミキの上海通信 by Miki

  • facebook
  • twitter

晴明節は青団(チン・トゥアン)の季節

 清明の時節(※1 清明節(qīng míng jié))。細かな雨がしとしとと降り、中国の人々が先祖を供養し、野山を訪れる時候です。江南地方の伝統的な旬のお菓子「青団(チン・トゥアン)」が店頭に並ぶ時期でもあります。

  「青団は香り高く甘くてみんなに愛されている。もち米にヨモギの香りが魂を宿す」と詠われるように、青団はヨモギの汁や麦の若葉の汁をもち米粉に混ぜ、あんこを包んで丸め、蒸して作られます。(※2 青团(qīng tuán))柔らかくてもっちりとした食感で、ほのかに香る清らかな香りと、甘すぎない優しい味わいが特徴です。多くの人に親しまれているお菓子ですが、主に江南地方で楽しまれており、北方では清明節にはゆで卵や「撒子(サーズ)」(※3 撒子(sā zi))という揚げ菓子を食べる風習があります。

 中国は非常に広大で、北から南まで地理環境や気候条件、さらには歴史的な背景の違いにより、さまざまな生活習慣が存在します。味の好みや祝祭日の食べ物の選び方も地域ごとに大きく異なっています。(※4 大相径庭(dà xiāng jìng tíng))

 北方の多くは内陸で、冬は寒く乾燥しており、穀物の成長にも時間がかかります。そのため、食材には大量の塩を使って漬けたり、発酵させたりして保存することが重要な手段となってきました。このような背景から、味付けは比較的濃く、塩味の強い漬物などが多く見られます。主食は麺類や饅頭(マントウ)といった小麦を使ったものが主流です。一方、南方は気候が高温多湿で、人々はエネルギー補給のために糖分を多く摂る傾向があります。沿岸地域では穀物が手に入りやすく、食材も豊富で、主食はご飯が中心です。味の好みも比較的あっさりとしたものが好まれます。


行事食に見る南と北の違い

 このような飲食の違いは、常に話題になるほど興味深いテーマです。同じ料理であっても、南北で味つけが大きく異なることが多く、驚かされることもしばしばあります。

 私たちはよく「南は米、北は小麦。南は甘く、北は塩辛い」と言いますが、北方の人々は日常的には塩味の料理に慣れ親しんでいる一方で、伝統的な祝祭日には、甘いお菓子を作って祝います。

 例えば、元宵節(げんしょうせつ/旧暦1月15日)の伝統的な食べ物である「湯団(タン・トゥアン)」(※5汤团(tāng tuán))は、北方では「元宵」と呼ばれ、黒ごま、あんこ、ピーナッツなどの餡をもち米粉の中で転がして丸く成形し、茹でて作ります。茹で上がったものはしっかりとした食感が特徴です。一方、南方では、定番の黒ごま餡のほかに、豚肉や野菜入りの塩味の餡が人気で、餃子のように包んで作られます。表面はよりなめらかで、食感も柔らかくもっちりとしています。

 また、端午節(たんごせつ/旧暦5月5日)の伝統的な食べ物である「粽子(ちまき)」(※6 粽子(zòng zi))も、南北で違いがあります。北方では長江以北でよく見られるヨシの葉と、大黄米(もちきび)を使い、ナツメや甘く煮た豆、あんこなどを入れて甘い味に仕上げるのが一般的で、三角形や四角形に包まれます。南方では、長江中下流域で豊富に採れる幅広のチマキ笹(箬竹葉)と白もち米を使い、豚肉、ハム、塩漬け卵の黄身などを具材にします。

 もしかすると、北方の人々は主食として小麦を使った料理(麺類や饅頭など)を中心にしているため、米やもち米で作られた料理は、おやつや甘味としての位置づけが強く、元宵や粽子も自然と甘い味付けになるのかもしれません。一方、南方の人々は普段からご飯を主食としているため、湯円や粽子も朝食や昼食として食べることがあり、主食として食べるのであれば、塩味の方が自然で理にかなっていると言えるでしょう。


中国人共通のソウルフード餃子も南北で違う

 餃子は、中国全土で愛されている料理ですが、その由来には東漢の名医・張仲景(ちょうちゅうけい)を偲ぶ伝説があります。彼が生きた時代は戦乱が絶えず、人々の生活は非常に困難でした。特に寒い冬には、凍傷で耳を傷める人が多くいたとされています。そこで張仲景は、大きな鍋を用意させ、羊肉と寒さを和らげる薬草を煮込んでスープを作り、それらの具材を小麦の皮で包み、耳の形に似せた食べ物を作りました。人々がその温かい食べ物を食べると、体が温まり、凍傷の症状も和らいだそうです。こうして、餃子を食べる風習が庶民の間に広まり、この習慣は長い年月を経て現在まで受け継がれ、作り方や味、食べる場面などにさまざまな変化が加えられてきました。

   餃子は、北方の人々の生活の中で非常に重要な存在です。北方の餃子は皮が比較的厚く、具材には牛肉とニンジン、または豚肉とニラなどがよく使われ、醤油と塩でしっかりと味付けされます。形は元宝(宝石)に似ていて、茹で上がった餃子は醤油やラー油をつけて食べるのが一般的です。一度に大鍋で大量に作ることも多く、食べ応えがあります。北方では、年越しや祝祭日には餃子を食べるのが習わしで、「家族が円満に集う」という意味が込められています。結婚の際にも餃子を食べ、「幸福で円満な家庭」を願う風習があります。北方の人々にとって餃子は、主食でありごちそうであり、故郷や家族への思いを込めた料理なのです。

 一方、南方の人々にとって餃子は、北方ほど特別な存在ではなく、より「気軽に楽しむ」食べ物として親しまれています。南方の餃子は皮が薄く、食感が柔らかめで、具材には豚肉のほかエビなどの海鮮も使われ、より甘みや旨味のある味わいが特徴です。茹で上がった餃子は酢で食べたり、甘いピーナッツソースを添えることもあります。


ガッツリ系の北方と海鮮・旬野菜の南方

 南方と北方では、日常の料理習慣や使われる食材にも、それぞれ独自の魅力があります。

 北方では、歴史的に戦乱が多かったことや、遊牧民族の影響もあって、しっかりとした満腹感を求める傾向があり、肉料理が好まれています。特に大きな牛肉や羊肉を使った料理が多く、長ネギやニンニクなどの香味野菜を多用し、焼いたり煮込んだりして、味の濃い熱々の料理に仕上げます。中でも「羊の丸焼き」「豚肉と春雨の煮込み」「鉄鍋煮込み」などは、名前を聞いただけでも豪快に肉を食べたくなるような料理で、北方の人々の豪放で率直な性格を映し出しているとも言われます。北方で料理を注文すると、一品で大皿いっぱい出てくることも多いため、注文の際には注意が必要です。

 一方、南方は物産が豊かで、特に江南の水郷地帯では新鮮な野菜や魚介類が豊富に手に入ります。南方の人々は「新鮮さ」にこだわり、季節に応じた旬の食材を選んで調理します。春になると、食卓には肉よりも豊富な野菜が並び、タケノコ、香椿(シャンチュン)、そら豆、ヘチマの若葉、マーラントウ(ナズナの一種)などが登場します。調理法はシンプルながらも繊細で、蒸す・さっと茹でる・じっくり煮るといった方法がよく使われ、小ねぎや白ごまをふりかけて、素材本来の味を引き出します。味付けはあっさりとしながらも上品なうま味があり、南方の人々の柔らかく、慎み深い性格にも通じるところがあります。南方の料理は小ぶりな器に美しく盛られ、一口ひとくちをじっくりと味わいたくなるような上品さがあります。

 南方と北方それぞれの美食には、長い年月をかけて育まれてきた人々の生活の知恵が深く染み込んでいます。一つひとつの料理や点心には、それぞれの歴史と独自の風味があり、そこに込められた想いを感じることができます。全国各地の名物料理を挙げ始めたら、数え切れないほどあります。南と北、それぞれの料理が輝きを放ち、互いに異なる魅力を持っているからこそ、今日のような多彩で奥深い中国料理文化が築かれたのです。それは、食べる人の空腹を満たすだけでなく、心にも豊かさと幸せを届けてくれるものです。

<気になる中国語>

1. 清明节(qīng míng jié)

意味:晴明節。中国の伝統的な二十四節気のひとつで、祖先を祀り、お墓参りをする日。春の訪れを感じながら、自然の中を散策する「踏青(たんせい)」の習慣もある。

​2025年の清明節は、4月4日(金)から4月6日(日)の3日間。

2.青团(qīng tuán)
意味:清明節の時期に食べられる江南地方の伝統的な点心。ヨモギや麦の若葉の汁を練りこんだもち米粉で餡を包み、蒸して作る。柔らかく、ほんのりとした香りと甘さが特徴。

3. 撒子(sā zi)

意味:北方発祥のサクサクとした揚げ菓子。小麦粉に水を加えて練り、小さく切って細長く成形し、油で揚げて作る。

4.大相径庭(dà xiāng jìng tíng)

意味:「径」は小道、「庭」は中庭を指し、二つのものの違いが非常に大きいことを表す。

日本語訳:大きく異なっている/まったく違う。

5. 汤团(tāng tuán)
意味:もち米粉で作った団子で、中に黒ごまやあんこ、肉などの餡を入れてお湯で茹でる。元宵節などに食べられる。南方では「汤团」、北方では「元宵」とも呼ばれる。

6. 粽子(zòng zi)
意味:もち米に餡(甘いものや塩味の肉など)を入れ、竹の葉などで包んで蒸したり茹でたりする食べ物。端午節に食べる伝統料理。日本で言う「ちまき」。

これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!

by Miki

ブログ一覧に戻る

HOMEへ戻る