桃の花が紅く、柳の緑が映え、春の陽気に包まれる季節となりました。
大人気の上海ディズニーランド
つい先日終了した清明節の三連休中、上海ディズニーランドは大勢の人々で賑わい、入園者数は最大で10万人を突破しました。一部の人気アトラクションでは、待ち時間が2時間半にも及ぶほどでした。主要なSNSで事前に公表されていた来園者数の予測がすでに“警戒レベル”を示していたにもかかわらず、人々のディズニーランドへの熱は冷めることなく、親しみを込めて「幸せの故郷」(快乐老家)とまで呼ばれています。
ディズニーランドが上海に開業する以前、上海には独自の地元テーマパーク「錦江楽園」がありました。1996年には「ユニバーサルパーク」や「アメリカンドリームランド」といったテーマパークも次々と開業しました。しかし、交通の不便さ、施設の老朽化、経営の不振といった理由から、現在、錦江楽園はリニューアル準備中であり、他の2つのパークは、営業を終了しています。
一方、ディズニーランドは「上海のテーマパーク2.0時代」を切り拓いた存在です。
中国本土で初めて、世界で6番目に建設されたこのディズニーリゾートは、上海浦東エリアに位置し、地下鉄11号線でアクセス可能です。
2016年に正式に開園したこのパークは、初年度に1,100万人以上の来園者を数え、ディズニーの歴史上、開園初年度で収支の均衡を達成した初めてのテーマパークとなりました。2019年には年間売上が70億元(約1,400億円)に達し、2023年までの累計来園者数は1億1,300万人以上、累計売上は615億元(約1兆2,300億円)を超え、年間平均売上は88億元(約1,760億円)に達しています。このように、ディズニーランド上海は、ディズニーグループ全体の中でも最も収益性の高いテーマパークとなりました。この成功の背景には、ディズニー自身の時代に即したマーケティング戦略、上海の利便性の高い交通網、そして全体的な消費レベルの高さが大きく寄与しています。(※1.功不可没)
大人気の上海発キャラクター「リーナ・ベル」
ディズニーの収益のうち約25%は、ぬいぐるみや関連グッズなどの物販からの収入であり、チケット収入を上回っています。
2021年、「リーナ・ベル(LinaBell)」という名前のピンク色の小さなキツネが、突如として上海ディズニーに登場しました。SNSや多数の芸能人による宣伝・マーケティングと相まって、瞬く間にネット上で大ブレイクし、多くの少女や子どもたちの心をつかみました。
リーナ・ベルは、中国の伝統文化に登場するクラシックなキツネのイメージ、たとえば「妲己(だっき)」(※2.妲己)のように、魅力的で賢いキャラクターとして描かれており、そのためSNSでは「川沙妲己(チュワンシャーダージー)」という愛称で広く親しまれるようになりました。リーナ・ベルのぬいぐるみや関連グッズが販売されると、多くの来園者が押し寄せ、早朝3時や4時から並ぶ「転売屋(黄牛)」の姿も見られます。ファンたちは、自分の好きなキャラクターのぬいぐるみにお金を惜しまず、定価で数百元のぬいぐるみが中古市場では3,000元(約6万円)まで高騰し、約15倍の価格になることもあります。さらに、限定版が発売されると、それぞれのぬいぐるみにシリアルナンバーが付いているため、価格が5,000元(約十万円)にまで跳ね上がることもあります。
ディズニーは通常、映画やメディアを通じてIP(知的財産)キャラクターを育て、関連グッズの展開へとつなげていきます。人々は、まず映画を通じてキャラクターを知り、その後、パークでキャラクターに扮したキャストと手をつないだり、一緒に写真を撮ったり、ハグをしたりすることで、心理的な満足感やリアルな体験を得るのです。しかし、この小さなキツネ「リーナ・ベル」の場合は、映画作品に登場したわけではなく、ただその愛らしい見た目と、元気いっぱいのキャラクター設定、そしてパーク内での来園者とのふれあいによって、多くの人々の支持を得ることに成功しました。その結果、リーナ・ベルは、上海ディズニーランドで最も成功し、最も収益を上げているキャラクターとなり、その人気と影響力は、まるで中国の一流芸能人並みだと評されています。
交通の利便性が来園者を後押し
上海の発達した交通ネットワークにより、上海ディズニーランドの来園者のうち、地元・上海からの来園者が約4割、全国各地からの来園者が約6割を占めています。特に長江デルタ地域からの来園者が中心となっています。また、上海市はディズニー開業前に、都心部からパークへ直結する地下鉄路線を整備・開通させました。さらに、昨年開通したばかりの、上海の2つの空港を結ぶ地下鉄・都市間鉄道路線も、ディズニーランドから車で約30分の距離に駅が設けられており、飛行機で訪れる来園者にとって、さらに便利なアクセス手段となっています。
大人をも魅了するディズニーランド
『2024年 上海ディズニーリゾート「ハッピー旅行トレンドレポート」』によると、来園者の旅行スタイルは多様化しており、親子連れだけでなく、子どもが親を連れて来園するパターン、カップルや気の合う友人同士(※3志趣相投)で訪れるスタイルも増加しているとのことです。子ども連れの家族と、大人だけのグループの割合はほぼ同じくらいとなっており、たとえ平日に訪れたとしても、「人混みを避けられる」とは限らず、園内は大勢の人で賑わっています。それは、大人たちもまた、悩みのない、夢と魔法に満ちたファンタジーの世界を求めているからにほかなりません。一般的な観光地や遊園地とは異なり、ディズニーランドでは、再び訪れたいと答える来園者の割合がなんと85%にも達しています。
リピーターを生む理由は、「完全に没入できる」「細部へのこだわりがすごい」「原作の世界観を忠実に再現している」といった言葉で表現されるような、精神的な満足感や感情的な価値を得られることにあります。また、ディズニーランド側も毎年パーク内をアップデートし、新しいテーマエリアの建設を進めるなどして、人々の関心を常に引きつける努力を続けています。現在、上海ディズニーランドは、外灘(バンド)と並んで、上海を代表する有名観光スポットの一つとなっています。
今後も充実する上海のテーマパーク
今年の夏休み、もう一つの注目テーマパーク「レゴランド」が上海でオープンする予定です。これにより、上海はディズニーランドとレゴランドの両方を有する、世界で唯一の都市となります。また、上海錦江グループとワーナー・ブラザース・ディスカバリー・グループが共同で手がける「ハリー・ポッターの誕生」プロジェクトも、2027年に上海で開業予定です。これも中国初、世界では、ロンドン、東京に次いで3か所目となります。
これらの世界的なテーマパークの進出は、上海が長江デルタの中核に位置する交通の要所であること、都市基盤が成熟していること、そして高い一人当たりの消費力を持つことに注目した結果であり、上海という都市の活力を裏付けるものです。
ディズニーランドの成功は、「パーク経済」が再び加速の軌道に乗ったことを示す象徴的な出来事であると言えます。
また、こうした世界トップレベルのテーマパークやプロジェクトの運営・管理スタイルを肌で感じることで、国内のローカルパークのリニューアルや成長にも新たな刺激を与えると期待されています。(※4 耳濡目染)
たとえば、上海海昌海洋パークは科学教育と親子での探究体験にフォーカスしており、上海ハッピーバレーは音楽フェスティバルを導入することで、文化と現代的なエンターテインメントを融合させ、多くの若者を魅了しています。
このように、国内のテーマパークもそれぞれの個性を活かしてポジショニングを見直し、より細分化されたターゲット市場に対応することで、多様な来園者層をひきつけています。
そして、文化観光に適した土壌を持つ上海という都市は、新たな“幸福消費”の形を次々と生み出しており、その持続可能な発展が今後ますます注目されます。(※5 拭目以待)
<気になる中国語>
- 功不可没 gōng bù kě mò
- 意味:功績が非常に大きく、決して否定できない
- 妲己 dá jǐ
- 意味:中国古代神話に登場する、九尾の狐が化けた紂王の寵妃
- 志趣相投 zhì qù xiāng tóu
- 意味:志や趣味が似ている人が自然と引かれ合う
- 耳濡目染 ěr rú mù rǎn
- 意味:日常的に見聞きすることで、知らず知らずに影響を受ける
- 拭目以待 shì mù yǐ dài
- 意味:目をこすってよく見る、期待して待ち望む
これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!
