中国で5月に公表された最新のデータが大きな話題となっています。
今年第1四半期における国内の婚姻率は0.52%にまで低下し、過去最低を更新しました。上海ではわずか0.36%にとどまっています。また、市内の婚姻者の初婚年齢はすでに30歳を超えており、都市部の若者が「30歳を過ぎても未婚」であることが当たり前となりつつあります。
10年前でも婚姻率は0.45%と低水準でしたが、その頃は結婚式の披露宴を予約するために、気に入ったホテルを半年前から探し始める必要がありました。ところが現在では、来月の週末でも簡単に予約が取れるようになっています。この小さな変化からも、現代の若者が結婚に対してより「仏系」(解説1)—つまり執着せず、自然体で臨む—姿勢を示していることがうかがえます。
結婚へのプレッシャーが弱まりつつある昨今
以前は春節や祝祭日などで親族が集まるたびに、未婚の子どもたちは年長者から「早く結婚しなさい」とたびたび催促されることが少なくありませんでした(※1 催婚)。中国の伝統的な考え方では「男は成人したら結婚、女は大きくなったら嫁ぐべき」とされ、一定の年齢に達した男女が結婚して子どもをもうけるのは自然かつ社会規範に適う行為だとみなされてきました。そのため、独身や晩婚は常識に反すると見なされ、周囲からプレッシャーを受けやすかったのです。
こうした圧力に対処するため、結婚適齢期の未婚の若者たちの間では、一時期「恋人をレンタルして帰省する」という方法(※2租一个男/女友回家过年) が流行したこともありました。しかし現在では、大都市での晩婚・晩産という生活習慣や経済的負担が広く認識されるようになり、年長者からの「結婚しなさい」という催促の頻度も強さも大幅に弱まっているように感じられます。
「ロマンチック」よりも「現実」に生きる若者
確かに、いまの若い世代が「もうひとり」を探す過程では、取り巻く環境も心構えも大きく変化しています。
10年前は、誰もが恋愛ドラマに憧れ、ロマンチックな愛を夢見ていました。ドラマでは男女の出会いや交際が偶然とロマンにあふれ、2人の目に映るのは愛だけで、どんな出来事でも「愛が最優先」。結末は甘いハッピーエンド―そんな作品が主流でした。
このようなストーリーを見続けるうちに、若者は知らず知らずのうちにドラマの恋愛観や相手選びの基準を現実にも当てはめるようになりました。その結果、「理想にかなう人が現実にはいない」と感じたり、逆に“恋愛脳”(解説2)になって恋にのめり込み、自分を見失って冷静な判断ができなくなったりしがちだったのです。
一方で、いま最も人気のあるドラマは「大女主もの」です。女性が自己成長し、運命に抗い、ついには頂点へと上り詰める姿を描くもので、恋愛はあくまで彩り程度、あるいは全く出てこないことさえあります。
こうした嗜好の変化は、若者の恋愛観がより理性的で成熟したものになったことを映し出しています。彼らはもはや恋愛を人生のすべてとは考えず、人生を形作る要素の一つとして捉えています。甘い恋に憧れつつも、キャリアの達成感や家族・友人との調和を追い求めているのです。
手法も目的も変化した「パートナー探し」
パートナー探しにおいて、若い世代は新しい方法を取り入れています。以前はお見合いや合コンが流行し、カフェやレストランで会うのが一般的で、目的が明確なフォーマルな場でした。現在は、自分の興味に合った社会活動に参加して、趣味や価値観の近い相手を見つける傾向があります。たとえばハイキングや登山などのアウトドア活動に参加したり、一緒にいろいろなスポーツをしたり、オフラインの読書会に出席したりと、あくまで自分自身を楽しませ、生活を満喫することが主な目的で、執着も作為もありません。いわゆる「成り行きに任せる」(※3随缘)スタイルです。
パートナー選びの基準は、共通の話題や趣味があるか、気軽に会話が弾むかどうかへと変わりました。もちろん、家庭の経済状況、持ち家の有無、仕事の内容といった条件は依然として存在します。しかし、現代の女性は経済的により自立しており、自分の努力だけで衣食住に不自由のない生活を送ることが十分に可能です。そのため、パートナーとの生活によって経済面を改善する必要性は、それほど大きくありません。
さまざまなストレスが増す現在、忙しい仕事の合間に一緒に遊び、リラックスして人生を楽しめるかどうか、そして手を取り合って「モンスターを倒す」(困難を共に乗り越える)(※4打怪)ことができるかどうかが、むしろ重要視されています。人々はパートナーがもたらす「情緒的価値」(※5情绪价值)をより重視し、魂が響き合う関係を求めるようになっています。
「子どもを持つための結婚」は、もはや選ばれない
子育てにかかる費用や、親が注がなければならないエネルギーは年々増加しています。学区内の住宅の購入から習い事・塾まで、子どもの成長に伴う支出は家庭の大きな負担です。金銭的な投入に加え、子どもの学習習慣や対人スキル、価値観の形成にも目を配らねばならず、「最良の教育は親の手本」「寄り添いこそ最高の教育」といった育児の金言が、親にさらなる目に見えないプレッシャーを与えます。
職場での努力は成果として確認できますが、子育ては努力だけで必ずしも報われるものではありません。そのため、若い世代は自然と仕事や収入の確保に重きを置き、出産は避けたい話題となりがちです。もし子どもを持たないという選択を取るならば、結婚そのものも必ずしも不可欠とは感じられなくなります。
以前は、女性には出産できる年齢の制約があるため、適齢期に達すると周囲から結婚を急かす声や噂が絶えませんでした。年齢のプレッシャーにさらされた女性は、不安のあまり「家柄や条件が釣り合っているように見える」相手と慌ただしく結婚を決めてしまうことも多かったのです。ですが現在の女性は、もはやそんなふうに妥協(※6将就)することはなく、結婚のために結婚したり、子どものために結婚したりはしません。
「売れ残り」は死語
パートナー選びの年齢幅はますます広がり、女性が男性より年上だったり、女性の経済条件が男性より良かったりするケースを受け入れる割合も高まっています。そのため、人々は少しも焦らず、「悪い縁なら無いほうがまし」(※7 宁缺毋滥)という考え方をより重視しています。
今では未婚女性を「売れ残り」(※8剩女)と呼ぶことはなくなりました。むしろ適齢期で未婚の女性は、自由に人生を楽しむその姿が洒脱で勇敢だと映り、周囲から羨望のまなざしを向けられることさえあります。
確かに、人々は恋愛や結婚に対して、以前ほど積極的ではありません。しかし、好意を抱く相手に出会ったときには、勇気を持って追い求め、自分の誠意を示します。これは、経済面でも思想面でも、人々がより自信を深め、独立心と冷静さを高めていることを物語っています。自分の空間を大切にし、自分のニーズが満たされているかを気にかけ、結婚が自分にもたらすものをこれまで以上に真剣に考えるようになっているのです。
<気になる中国語>
1. 催婚 cuī hūn
意味:年上の親族などが若い世代に「早く結婚しなさい」と急かすこと。
日本語訳:結婚を急かす/結婚を促す。
2. 租一个男/女友回家过年 zū yí gè nán/nǚ yǒu huí jiā guò nián
意味:春節に独身者が家族の詮索をかわすため、恋人役を一時的にレンタルして帰省すること。
日本語訳:お正月用レンタル彼氏・彼女。
3. 随缘 suí yuán
意味:縁や成り行きに任せて、無理に求めず自然体でいる態度。
日本語訳:成り行きに任せる/縁に従う。
4. 打怪 dǎ guài
意味:もとはオンラインゲームでモンスターを倒す行為。転じて現実の困難や課題を克服すること。
日本語訳:(困難を)倒す/課題をクリアする。
5. 情绪价值 qíng xù jià zhí
意味:相手の感情にプラスの影響を与え、安心感や快適さをもたらす能力。
日本語訳:情緒的価値。
6. 将就 jiāng jiu
意味:十分に満足していないものを妥協して受け入れること。
日本語訳:妥協する/とりあえず我慢する。
7. 宁缺毋滥 nìng quē wú làn
意味:質を落として数をそろえるくらいなら、不足していても構わないと考えること。
日本語訳:悪いものなら無い方がまし
8. 剩女 shèng nǚ
意味:結婚適齢期を過ぎた未婚の女性を指す、やや蔑称的な俗語。
日本語訳:売れ残り女性(近年はあまり使われない)。
解説1 「仏系」(ぶっけい・ほとけけい)
中国のネットスラング “佛系 fó-xì” に由来し、「物事に過度な執着や欲望を抱かず、結果にこだわらずに “まあいいか” と淡々と受け流す、肩の力が抜けたスタンス」を指す。宗教的な仏教徒という意味ではなく、“ブッダのように穏やか” というイメージを借りた比喩表現。
解説2 「恋愛脳」
スラングとしての「恋愛脳」は 、恋愛を最優先に考えて行動してしまう脳(思考)のこと。
恋愛に夢中で、ほかのことが手につかない状態。
これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!
