リアル中国生活!ミキの上海通信

vol.35 卒業=失業?中国の若者たちは今どこへ向かうのか        2025.08.01 リアル中国生活!ミキの上海通信 by Miki

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 “卒失族”(※1 毕失族)とは、卒業を間近に控えていながら、まだ就職先が決まっていない大学生を指す言葉です。この言葉は十数年前に登場し、当時は内向的で消極的な卒業生たちに対し、象牙の塔から勇気をもって一歩踏み出し、活気ある社会へ飛び込むよう励ます目的で使われていました。


2000年初頭の華やかかりし頃

 2000年初頭の経済が急成長していた時期には、ちょうど国有企業の改革も進められ、多くの雇用が生み出されました。外資系企業も中国市場で急速に拡大し、高度人材へのニーズが高まりました。それに伴い、コンサルティング業が台頭し、専門サービス業への需要も大きく増加しました。中国の関税調整を受けて、対外貿易業も活況を呈し、また当時勃興し始めたインターネット業界でも、多くの技術系人材が求められていました。

 各業界が華やかに発展し、まさに目移りするほどの選択肢が広がっていました。当時、最も人気があったのは外資系企業です。整ったマネジメント体制や人材育成制度、そして休暇や昇給制度の整備などにより、多くの新卒学生を惹きつけていました。当時は、専攻が何であれ英語力があれば外資系企業の面接に進めると言われていました。大手企業の管理職育成プログラム、4大会計事務所、銀行、そして各種外資系企業のマーケティング部門など、選択肢は実に多彩でした。中でも一流のコンサルティングファームや投資銀行は、新卒者に年収20万〜50万元(400万円~1,000万円)という高待遇を提示していたのです。

 そのため、こうした職種に合致する人材を目指して、大学では金融や外国語といった学部が非常に人気を集めていました。当時、上海で「最も稼げる大学」といえば、復旦大学や交通大学に加え、上海財経大学や上海外国語大学が挙げられていました。

 大学院進学を目指す人は、学術研究への強い情熱を持つ人、あるいは純粋なキャンパスライフを手放したくない人が大半でした。公務員試験に進む道もありましたが、オフィスに座って先が見える“退屈”な仕事を続けるという選択肢は、他に道がない場合の最終手段という印象でした。

 当時の卒業生たちは、社会に飛び込むことに大きな期待を抱き、複数の内定を手に自分の望むキャリアを選び、やる気に満ちて働き始めていました。今となっては、そうした光景を見る機会も少なくなりました。


卒業即失業?の現在

 現在の状況は、かつてとは大きく異なります。「卒業すれば即失業」(※2 毕业即失业)という言葉にも、新たな現実が伴うようになりました。

 2000年当時、全国の大学卒業生はわずか100万人でしたが、昨年は1,179万人にまで増加しました。一方で、就職率はわずか55%にとどまり、ほぼ半数の大学生が「卒業と同時に失業」という状況に直面しています。修士・博士課程の卒業生に至っては、就職率がわずか33%に過ぎません。

 企業の求人条件を見てみると、学歴の要件として「学士以上」とされているにもかかわらず、応募してくるのは修士や博士の履歴書ばかりです。その結果、企業側は採用のハードルをやむなく引き上げざるを得ず、ようやく就職できた高学歴の学生たちも、自らの専門性や能力と業務内容が一致せず、望んでいたキャリアからはほど遠い現実に直面しています。給与も期待を大きく下回り、たとえ清華大学や北京大学のような超一流大学出身であっても、平均月収はわずか13,000元(約26万円)。2019年の24,000元(約48万円)と比べると、ほぼ半減しています。このような心理的なギャップ(※3 心理落差)や人材の無駄遣いは、あらゆるところで見受けられます。

 かつて自信に満ちて(※4 意气风发)帰国した“海外帰国組”(※5 海归)も、帰国後に自分の学歴やスキルに見合った仕事が見つからず、低賃金の仕事には就きたくないという理由から、就職せずに自宅にとどまる者も少なくありません。こうした人たちは皮肉を込めて「海龟(ウミガメ)」と揶揄されることもあります。一方で、やむなく「学士以上」とされる一般職を競って受ける人も多くいます。ある公立小学校の教員の学歴を見てみると、985大学(国指定のトップ大学)の修士課程修了者や海外の有名大学出身者が多数を占めており、思わず驚かされます。多大な費用を要する留学という選択肢も、今では「費用対効果が低い」と言われるようになりました。

 このような状況の中で、自分に合った仕事が見つからず、就職をせずに様子を見るという選択をする人が増えています。大学院への進学は、そうした人々にとって有力な選択肢となっています。

 かつてはあまり人気のなかった公務員も、給与こそ高くはないものの安定しており、リストラの心配もない「鉄飯碗(安定した職)」(※6 铁饭碗)として注目されるようになりました。そのため、公務員試験や公的機関の採用枠を目指す卒業生も年々増加しています。

 2022年のあるデータによると、大学卒業生のうち就職を選んだのはわずか34.21%で、前年2021年に比べて7.15ポイント減少しました。一方で、大学院進学を選んだ割合は40.78%と、前年から6.57ポイント増加しています。さらに、公務員や公的機関の職を目指す人の割合も17.57%となり、前年より0.73ポイント上昇しました。


親の人脈に頼る傾向さえ

 こうした状況を招いた最大の要因は、経済成長の鈍化です。多くの企業で人材の需要が大きく縮小し、従来型の産業における伝統的な職種も、統合・削減・代替が進められています。一方で、大学は継続的に定員を拡大しており、労働市場における「供給過多・需要不足」のアンバランスがますます顕著になっています。

 かつての大学生活といえば、サークル活動や友人との交流、朝寝坊や夜食といった自由で気楽な時間が主でした。しかし今では、1年生の頃から気を抜くことができず、各種資格試験の勉強や、冬休み・夏休みにはさまざまなインターンに参加し、良い成績を取り大学院進学に備える、あるいは履歴書に箔をつけるといった努力が必要になっています。

 とはいえ、良いインターンの機会は自力で見つけるのが非常に難しく、かつては「大学に入れさえすれば安心」と考えていた親たちも、再び自らの人脈やネットワークを駆使し、子どものインターンやその後の就職に向けて道を切り拓くことに奔走しています。(※7 开疆拓土)

 かつては、自分の興味や将来像に合わせて専攻を選ぶ学生が多くいましたが、今では親の業界に合わせて専攻を選び、その後親の人脈を活用して就職を有利に進めようと考える学生も増えています。そうすることで、より良い職に就き、早期に成長できる可能性が高まると考えられているのです。


親のコネが最大の武器?親にとっても試練

 現在の初等教育は非常に競争が激しく、保護者たちは幼稚園、あるいは就学前から子どもに多くの学習を施しています。こうした子育て方針は「チーワー(鸡娃)=親が子どもを鶏のように鍛える」(※8 鸡娃)と呼ばれています。

 しかし、せっかく苦労して育てた子どもが、優秀な大学を卒業しても満足な職に就けない現実を目の当たりにすると、「それなら無理をさせず、のんびり育てて、いざというときは親の力やコネで快適な仕事を与えたほうが合理的なのでは」と考える親も出てきています。そんな中で、保護者の間では「子どもを鍛えるより、自分を鍛えるべきだった(鸡娃不如鸡自己)」(※9 鸡自己)という自嘲まじりの言葉が広がっています。


就職難は自分磨きのチャンスでもある

 現在の社会は、これから就職市場に踏み出そうとしている若者たちにとって、かつてないほど厳しい環境となっています。学歴と職種のミスマッチ、理想と現実とのギャップは、若者たちの夢を遠ざけ、将来に対する不安や迷いを抱かせています。

 一方で、就職活動の中で何度も壁にぶつかり、自分の価値や立ち位置を見つめ直す――そうした経験は、たとえ望まぬものであっても、多くの若者にとって必要不可欠な成長の機会であるとも言えます。

 こうした厳しい状況の中では、ただ不満や嘆きを口にするだけでは前に進むことはできません。大切なのは、自分の考え方を見直し、「理想ばかりが高く、実力が伴わない」(※10 眼高手低)状態に陥らないよう意識することです。変化の激しい時代においては、自らを柔軟に変化させ、新しいスキルを学び続ける姿勢こそが、自分の将来を切り開く鍵になるのです。

《気になる中国語》

1. 毕失族 bì shī zú

意味:卒業間近にもかかわらず就職できていない大学生のこと

日本語訳:就職浪人

2. 毕业即失业 bì yè jí shī yè

意味:卒業と同時に失業すること。就職先が決まらず、社会に出られない状態

日本語訳:卒業=失業/卒業と同時に失業

3心理落差 xīn lǐ luò chā
意味: 自分の期待と現実のギャップによって生じる失望感
日本語訳:心理的ギャップ/理想と現実の落差

4 意气风发 yì qì fēng fā
意味: 意志と気概が満ちあふれ、勢いに乗っている様子
日本語訳:意気揚々

5海归 / 海龟 hǎi guī / hǎi guī

意味:「海归」は海外留学からの帰国者、「海龟」は帰国後に活躍できず家に引きこもっている皮肉表現

日本語訳:「海外帰国組(エリート)」/「帰国ニート(皮肉としてのウミガメ)」

6. 铁饭碗 tiě fàn wǎn

意味:安定した職業、公務員や国有企業など、簡単に解雇されない職

日本語訳:鉄の飯椀≒安定した仕事・一生安泰の仕事

7 开疆拓土 kāi jiāng tuò tǔ
意味: 新たな領域を切り拓き、勢力を拡大すること
日本語訳:新天地を開く/新たな分野を開拓する

8. 鸡娃 jī wá

意味:子どもに過度な教育を施して競争力を高めること。「ニワトリのように子をつつく」イメージ

日本語訳:教育ママ・パパ

9. 鸡自己jī zì jǐ

意味:子どもを鍛えるより、自分の能力や人脈を鍛える方が現実的という皮肉

日本語訳:子どもよりも親が自分を鍛えるべきという皮肉

10. 眼高手低 yǎn gāo shǒu dī

意味:理想は高いが実力が伴わないこと

日本語訳:理想ばかり高く、行動や実力が追いつかない

これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!

by Miki

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