社長エッセイ

社長の日曜日 vol.60 かたつむり 2024.07.01 社長エッセイ by 須毛原勲

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 梅雨入りして、蒸し暑い日が続いている。腰を痛めてしばらく走るのをやめていたが、久しぶりに走ってみた。雨で濡れた路面に何か動いているのが目に入ったので、立ち止まってみるとかたつむりだった。梅雨入りは平年よりも2週間遅かったが、梅雨の期間が後ろに伸びることはあまりないそうで、今年の梅雨は意外と短く、すぐにあの酷暑がやってきそうな予感がしている。

 早くも1年の半分が過ぎてしまった。7月にはパリオリンピックが開催される。コロナ禍で1年延期されて2021年に開催された東京2020オリンピックからまだ3年しか経っていないので、もうオリンピックの時期かと感じる。

 最近のバレーボール日本代表は男女ともに強く、スタープレイヤーが揃っている。スピード感あふれる攻防は観ていて興奮する。男子は1972年のミュンヘンオリンピックで金メダルを獲得して以来52年ぶりの金メダルが期待されている。サッカーでは男子も女子も期待できるし、お家芸の柔道では阿部一二三、詩兄妹の2大会連続の金メダル獲得が期待されている。さらに、大ファンであるやり投げの北口榛花選手にも期待している。オリンピックが近づいてきてワクワクするが、問題は時差である。パリとは7時間の時差があり、主な競技が日本の夜中に行われることが多い。寝不足になりそうである。

 週末に、黒沢清監督の映画「蛇の道」を観た。主演は柴咲コウさんである。全編フランスで撮影されており、柴咲コウさん以外には夫役の青木崇高さん、ちょい役で西島秀俊さんが出演している以外は全員フランス人である。久しぶりに黒沢清監督の作品を観たが、非常に引き込まれる体験であった。柴咲コウさんが素晴らしい。最期に、明るい部屋でパソコン越しに日本にいる旦那さんにフランス語で語りかける柴咲コウ。一瞬間が空いて、「え、今、何て言った?」と青木崇高が聞き返す。そのシーンで思いきり気持ちが揺さぶられた。蓮實重彦氏がよく言う「映画的体験」を得られる名作。劇場で観るべき映画である。機会があればぜひ。

 最近、長年使っていた携帯電話をiPhoneからAndroid携帯に換えた。具体的には、Google Pixel 8を新たに購入し、これまでのiPhoneのデータを引き継いでメインの携帯電話とし、これまでメインとして使っていたiPhone 13 miniには新たにSIMカードを購入してサブ携帯とした。仕事の関係でAndroid環境でのアプリの操作性の評価が必要になったことを機に、メインの携帯を換えてみることにした。iPhoneからGoogle Pixelへの移行では、写真、電話帳、多くのアプリが自動的に引き継がれるが、中にはiOS環境でしか使えないアプリもあることに初めて気づいた。例えば、永年聴いている日経の英語ニュースアプリLissNはiOS専用である。これを機に、使わないいくつかのアプリを削除することにした。実際、Google Pixelを使い始めてまだ1週間程度なので、真の良さが分かっているわけではないが、Gmail、Googleカレンダー、Googleスプレッドシート、Googleドライブ、Google Workspaceなど、日常的な仕事の大部分をGoogle環境に依存しているため、iPhoneから離れることは思ったほど辛くはなかった。むしろ、仕事の快適度が増したように感じる。今年の秋に出るであろうiPhone 16は多分iPhone 15のマイナーチェンジだろうから、全く興味がない。しばらくは、Google Pixelを使い続けるつもりだ。

 日経新聞掲載の、本庶佑氏(京都大学がん免疫総合研究センター長)による「私の履歴書」を毎日楽しみに読ませていただいた。若い頃から「私の履歴書」を読み続けているが、取り上げられる人物によっては全く読まない時期もある。本庶佑氏の「私の履歴書」は非常に面白く、挑戦し続けてきた人生の壮大な物語に引き込まれた。

 本庶佑氏は現在82歳である。2018年にPD-1の発見と免疫反応のブレーキ機構の阻害を応用したがん治療の発明といった成果により、ジェームズ・P・アリソン氏と共にノーベル生理学・医学賞を受賞した。そして今もなお、生涯現役として研究活動を続けておられる。その姿勢には本当に敬服する。本庶先生の人生を通じて一貫して感じられるのは、困難に立ち向かい続ける強い意志と情熱である。がん免疫療法の分野での本庶先生の業績は医学界に多大な影響を与え、多くの患者の命を救ってきた。その成果は決して偶然ではなく、日々の努力と研鑽の賜物であることが、「私の履歴書」からひしひしと伝わってくる。

 また、座右の銘である「有志竟成」にも深く共感した。「志を曲げることなく堅持していれば、いつか必ず成し遂げられる」という中国の光武帝が述べたとされ「後漢書」に記された言葉を研究生活の支えにしてきたとのこと。82歳という年齢でなお現役として活躍されている姿には、私もまた生涯現役でありたいという思いを強く抱かせられた。

 最終回を以下の言葉で結んでいる。

「いま最も興味あるテーマが『ネオアンチゲン』である。細胞の遺伝子変異によって新たにできるがん抗原を指すが、変異が繰り返されることで必ず発生するというものでもない。個人によってばらつきも大きい。ネオアンチゲンとは一体何ものなのか。がん免疫の更なる進化にはこの正体を突き止めねばならない。解明に向けてある仮説をたてた。それを近いうちに証明するつもりである。仮説こそが科学や医学研究の神髄である。手の内をこの場で明かすことはご容赦願いたい。」

 「私の履歴書」の結びの言葉は、たいてい支えてくれた伴侶や家族への感謝で終わるもので、82歳にして更なる研究への意欲を示して結ぶ「私の履歴書」を読んだことがない。

 7月1日は半夏生である。
 昨日書いた「社長の日曜日」をアップしたのを見ながら昼ご飯を食べようとしていたら、家内が「今日は半夏生なので、たこごはんにしました」と言った。
 半夏生(はんげしょう)は、日本の古い暦の一つで、夏至から数えて11日目にあたる日を指す。農業においては、田植えが終わる目安の日とされている。半夏生には特定の食文化や風習が存在し、地方では「タコ」を食べる風習がある。これはタコの足のように稲がしっかりと根を張って成長するように願う意味が込められている。

 タコのように地面に足をつけてしっかり稼いでくれとのメッセージかもしれない。

6月30日

by 須毛原勲

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