社長の日曜日

社長の日曜日 vol.75 立冬 2024.11.10 社長の日曜日 by 須毛原勲

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 11月7日、暦の上では立冬に当たる日、東京では木枯らし1号が吹き、今年一番の冷え込みだった。

 街を行き交う人々の姿には、ダウンジャケットやマフラー、手袋が目立ち、冬の装いが急に増えた気がする。暑さ厳しかった夏が過ぎ、やっと訪れた秋は瞬く間に駆け抜けて、気がつけばもう冬の入り口に立っているようだ。

 史上最大の接戦と言われた米国大統領選挙は、予想に反して共和党候補のドナルド・トランプ氏の圧勝で幕を閉じた。

 遡れば7月13日、トランプ氏がペンシルベニア州での選挙集会中に銃撃され負傷した事件があった。シークレットサービスに支えられながら、「Fight!」と叫び、拳を力強く突き上げた姿は強烈な印象を残した。米国国民が大統領に求めているのは、まさにこうした力強いリーダーシップであったのかもしれない。

 バイデン大統領の撤退表明後、カマラ・ハリス氏が一躍注目を浴び、一時は彼女への追い風が吹いているように見えたが、多くの米国民は物価高騰に嫌気がさし、現状に対する不満を募らせていたという。民主党政権への失望がトランプ氏への支持を後押ししたのだ。選挙の結果が判明してから、メディアは揃ってこうした結果は分かっていた、というような報道をしている。

 トランプ氏は78歳。その勝利宣言をテレビで見た。目の力強さ、艶のある肌、エネルギッシュな話しぶりが際立ち、とてもその年齢には見えない。凄いなと思う。彼には2期目がない。再選を気にする必要のない4年間は、ある意味で「やりたい放題」の期間となる。それが世界にとって吉と出るのか凶と出るのか、日本にとってはどう影響するのか。波乱の4年間が幕を開けた。

 先月、中国・成都を訪れた際、Huawei(华为)、X-Peng(小鹏)、Xiaomi(小米)のEVのショールームを見学した。ホテルから2キロほどの洗練されたエリアに、これらメーカーのショールームが並んでいた。EVの普及が遅れている日本では、なかなか見られない光景である。

 特に見たかったのは、評判のXiaomi「SU7」である。

 Xiaomi(シャオミ)は、2010年に設立された中国の総合家電メーカーであり、スマートフォンや家電製品を中心に幅広い製品を展開している。2024年3月に初の電気自動車「SU7」を発表し、4月1日から販売を開始した。このSU7は、最大800kmの航続距離や0-100km/h加速2.78秒という高性能を備え、215,900元(約460万円)という競争力のある価格設定となっている。同クラスのテスラ「モデル3」と比較しても優位性があるとされる。

 XiaomiのEV参入は、同社の多角化戦略の一環であり、スマートフォン市場で培った技術力とブランド力を活かし、EV市場での存在感を高めている。創業者の雷軍(Lei Jun)は1969年生まれで現在55歳。北京大学卒業後、キングソフトのCEOを務めた経歴を持ち、Xiaomiを設立した。中国では「中国のApple」と呼ばれる同社は、「コストパフォーマンスの良さ」を追求しており、Apple製品のような高価格帯ではない。雷軍は革新的な経営者として知られ、「中国のスティーブ・ジョブズ」とも称される。そのプレゼンテーションスタイルや服装がジョブズを彷彿とさせ、特に若者から圧倒的な人気を得ている。2024年4月25日から開催された北京モーターショーで彼が登場した際には、アイドル並みの人だかりができたという。

 実際にSU7を目の当たりにし、シートに座ってみた感想は、「素直にかっこいい。売れそうだ。」というものだった。同社は年間12万台の納車目標を掲げており、2024年9月時点で70,617台を販売。目標達成が十分に見込まれる勢いである。

 一方、Huaweiのショールームで展示されていたEVは、Huawei自身が車体を製造しているわけではないが、デザインは洗練されておらず、乗り心地も良いとは言えなかった。これに対して、X-Peng(小鹏)はSUV、MPVの両方で魅力的なデザインと適切な価格設定を備えており、座り心地も快適であった。

 この時期、日本企業の4~9月期決算が相次いで発表されている。

 その中でも目立つのは、トヨタ、日産、ホンダといった自動車メーカーの業績悪化である。特に、中国と米国市場での販売減が深刻であり、中国市場ではEVの出遅れが大幅な販売減少の要因となっていると報じられている。

  1. 中国市場全体

 中国自動車協会とマークラインズのデータによれば、2024年1月から9月までの中国全体の平均月間販売台数は、前年同期比で5%減少している。ただし、例年、下半期(7月から12月)の販売台数が上半期を上回る傾向にあるため、年間では2024年も2023年を上回る可能性がある。メーカー別の月間販売台数の推移を見ると、中国メーカーはこの厳しい環境下でも7%の成長を記録している。一方、米国系メーカーは35%の減少、日系メーカーも33%の減少と、いずれも大幅な落ち込みを見せている。

2.日系メーカーの状況

 2024年1月から9月の間、日系メーカーの月間平均販売台数は前年比で33%の減少を記録した。

 2024年1月から9月にかけて、日系自動車メーカーは中国市場で大幅な販売減少に直面している。具体的な減少率は以下の通りである:

 特にホンダは、販売台数が半減するという深刻な状況に直面している。1年ほど前、三菱自動車が中国市場からの撤退を決定したが、この動きは他の日系メーカーにも波及する可能性がある。マツダも29%の減少を記録しているが、このまま販売減少が続けば、三菱自動車同様に中国からの撤退を迫られる可能性が高い。

 これらの状況の背景には、中国市場でのEVの急速な普及を背景とした現地メーカーとの競争激化がある。EVの普及が急速に進む中での対応の遅れが販売不振の主因であり、競争力のあるモデルの不足や、消費者ニーズへの対応が後手に回ったことなどが、日系メーカーの苦境を深める要因となっている。日系メーカーは、現地市場のニーズに迅速かつ柔軟に対応し、競争力を維持するための戦略見直しが急務である。

3.米国系メーカーの状況

 GM系列は、マイナス61%という大幅な減少を記録している。一方、テスラも中国市場での苦戦が報じられているが、マイナス5%にとどまっており、中国全体の市場減少率とほぼ同程度である。この数字は、テスラが一定の健闘を見せていると評価できる。

4.中国系メーカーの状況

 中国の自動車市場が全体として成長停滞する中、BYD、Geely、Cheryの3社は2桁成長を遂げている。特にBYDは、2024年上半期に前年同期比28%の販売増を達成し、シェア20%に迫る勢いである

5.新エネルギー車(EV,PHV)特化の中国メーカーの状況

 Li Auto(理想汽車、2015年設立)、NIO(蔚来汽車、2014年設立)、Leapmotor(零跑汽車、2015年設立)は、厳しい競争環境の中でも順調に販売を伸ばしている。

 今回ショールームを訪れたXpeng(小鵬汽車、2014年設立)は、かつてNIO、Li Autoとともに中国新興EVメーカーの「御三家」の一角とされていたが、現在では販売が苦戦しているようである。ショールームで見た車のデザインや性能は良かったものの、競争環境の激化により存在感を維持するのは難しい状況にあると見られる。

 Neta(哪吒汽車)は、中国の新興EVメーカーであり、2014年に設立された合衆新能源汽車(Hozon Auto)のブランドである。同社は中国国内での競争激化を受けて、海外市場への進出を積極的に進めている。特に東南アジア市場での展開を強化しており、急速にタイで販売を拡大したが、現在は相当苦戦しているようだ。

 中国にはEVが溢れている。ナンバープレートが緑色であるため、ひと目でEVかどうかを判別できる。上海でも成都でも、多くの緑色ナンバープレートの車が行き交っていたが、今回の1週間にわたる滞在中、日本車のEVを目にする機会は残念ながら一度も無かった。

 上海で空港へ向かう高速道路を走行中、Xiaomiの紫色のSU7が私を乗せたタクシーの横を颯爽と走り抜けていった。

11月10日

by 須毛原勲

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