暦は大暑を目前に、季節も社会も一気に熱を帯びてきた。
早朝ランで吸うひんやりとした空気の裏で、マーケットは金利を跳ね上げ、観光客の波は過去最速で押し寄せる。
そんな動と静が交錯した一週間を振り返る。
梅雨明けと蝉時雨
18日(金)、関東地方はついに梅雨明けとなった。昨年と同日で、平年より1日早い。今朝、今年初めて蝉の声に気づいた。まさに「蝉時雨」とはよく言ったもので、降り注ぐ大合唱はラジオを聞くイヤホン越しにも届き、思わずイヤホンを外して聴き入った。本格的な夏が、いよいよ始まる。
濁流を逃れたカイツブリは、残っていた卵もすべて孵化させ、ひな鳥たちは早くも水面を泳ぎ始めている。親鳥の背中に潜り込もうとする小さな羽ばたきが微笑ましく、池に架かる橋には早朝にもかかわらず人だかりができ、カメラのレンズは一斉にその小さな命へ向けられていた。
前の日にどれほど嫌なことがあっても、夜明けとともに走り出し、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い、公園のラジオ体操に参加し、無邪気に懐いてくれる犬たちと出会えば、「今日も頑張ろう」と自然に思える。
土曜日は久しぶりに離れた大きな公園のラジオ体操に参加した。夏休みが始まり、参加していた小学生は8人に増えていた。扇形の隊形の中心にはリーダー格の年配者が立ち、その左右に小学生が並んで懸命に体操を行い、集まった年配の参加者をリードしていた。既に皆の人気者である。
その公園は大きな木が少なく、体を反らせて空を仰ぐと――上弦の月が、薄明の空にまだ残っていた。
暑さはこれから本番を迎えるが、早朝の習慣さえあれば気持ちは前を向く。深呼吸をして、汗を拭い、今日も一歩踏み出す。夏の日の始まり――読者諸氏も、日の出とともに外へ出てみてはいかがだろうか。
1票の行方――跳ね上がる長期金利と相互関税の帰着点
ジョギングを終え、そのまま参議院選挙の投票所へ向かった。今回の選挙は「政権選択選挙」とも呼ばれる。とりあえず――いや、国民として当然の義務として1票を投じた。
マーケットはこの1票の積み重ねを先回りで織り込む。15日の新発10年国債利回りは一時1.595%まで急騰し、リーマン・ショック直後の2008年10月以来、実に17年ぶりの水準を記録した。財政リスクを映し出しやすい30年債利回りは3.2%、20年債利回りも2.65%へ上昇し、海外勢は1.7%台へのさらなる上振れを視野に入れ始めている。
背景にあるのは、終盤戦で与党の議席減が取り沙汰される選挙情勢と、各党が競う「バラマキ」公約である。選挙後の政権運営と財政規律の行方が見通せないほど、投資家は国債購入を控え、金利は容易に天井を切り上げる。
この国の政治は、そして市場は、次にどこへ向かうのか。夏空よりも熱を帯びる金利の風向きを、経営者としても生活者としても見届けていきたい。
参院選の行方と並んで気掛かりなのが、トランプ米大統領が掲げる「相互関税」の帰着点である。大阪万博の米ナショナルデーに合わせ来日したベッセント財務長官は、赤澤経済再生担当相のホストで3時間以上も意見を交わし、18日には官邸で石破首相と会談した。赤澤担当相は参院選後、8回目の交渉のため渡米する予定という。8月1日に最終判断が下る日本向け関税は、現在の25%で据え置かれるのか、それともトランプ大統領お得意の“タコる”(Take And Cut Once)戦法で再度引き下げられるのか。交渉の席で大統領と握手を交わすのは赤澤氏か、あるいは石破首相自らか――いずれにせよ、日本の国益を左右する最重要課題である。
訪日外客、過去最速の2000万人――中国の躍進と越境回復の兆し
6月の訪日外客数推計が公表された。総数は337万7,800人、前年同月比7.6%増と、6月として過去最高を更新した。上半期累計では2,151万8,100人に達し、前年同期を370万人超上回ったうえ、史上最速で半年間の2,000万人突破を果たした。
増加を牽引したのは、中国・韓国を中心とする東アジア、シンガポール・インドなど東南アジア、そして米国・ドイツをはじめとする欧米豪である。とりわけ米国は単月ベースで過去最高を記録し、韓国・台湾・シンガポールなど計15市場でも6月としての最高値を塗り替えた。
注目すべきは中国だ。6月単月の訪日客は79万7,900人と韓国を抜き、国別トップに立った。1〜6月累計でも韓国の478万3,500人に対し、中国は471万8,300人と肉薄しており、いずれ逆転は時間の問題であろう。
昨年の福島第一原発処理水放出に伴い禁輸となっていた日本産水産物も、10都県を除き再び中国市場へ流れ始めた。さらに、2001年のBSE発生で停止していた牛肉の対中輸出再開に向けた議論も動き出したという。米国との通商摩擦が続く中、一衣帯水の隣国との人流と物流が勢いを増すのは、むしろ自然の成り行きかもしれない。
数字の裏に、国境を越えて往来する人々の息づかいと、変わりゆく経済の潮目を見る。そのダイナミズムを感じながら、次の半期をどう読むか――経営者としての勘所が問われる夏である。
7月20日
<お知らせ その1>
米中貿易摩擦の本質とは – 深掘りしたい読者に向けて

米中貿易摩擦の背景を掘り下げたい読者諸氏には、当社ブログ『未来はここにある――中国Z世代のリアルを読む』の新連載「米中貿易摩擦」を。本シリーズは事実に根ざした客観的かつ平易な解説を旨とし、第1回公開済み、第2回を23日(水)、第3回を30日(水)に公開予定である。
摩擦の本質、両国の思惑、そして今後の行方を俯瞰する一助となるはずだ。
ぜひご一読願いたい。
<お知らせ その2>

当ホームページにて、新たなシリーズを掲載中。
タイトルは「初めての海外進出 ― 成功への鍵」。
34年間の海外事業経験と、その後の中小企業の海外展開支援で得られた知見と実感をもとに、全14回のシリーズとして構成している。
是非ご一読いただき、お役立てください。
以下、公開予定。
Vol.12 支援の受け方・選び方 – 主体性を持ち“キャディー”を使いこなす(7月22日公開予定)
最終回 いま帆を揚げよ – 90日で海に出るロードマップ(7月24日公開予定)
詳細は下記URLから