社長の日曜日

社長の日曜日 vol.111 取り戻した携帯番号と新しい出会い   2025.09.22 社長の日曜日 by 須毛原勲

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久しぶりに中国へ出張した。上海と蘇州を訪れ、ビジネスの現場と人々の生活に触れると同時に、日本文化が思わぬところで国境を越えて人と人をつないでいることを改めて実感した。

上海での新たな出会いと経済の実感

 今回の出張の最初の訪問地は上海。現地企業との協業に関する打ち合わせを行った。医学の Ph. D を米国カリフォルニアの大学で取得したというその会社の創業者兼 CEO(中国人)は、かつて私が駐在していた南カリフォルニアのニューポートビーチに住んでいたとのこと。カリフォルニア訛りの英語を耳にし、懐かしさを覚えた。

 私の経歴を話している最中に、彼の口から「島耕作」の名が出たことには驚かされた。彼は「島耕作」シリーズの愛読者、全巻を読破しているとのことであった。私の経歴は「島耕作」に遠く及ばない。島耕作が中国で会長を務めていたのは“西芝”であり、私は“東”の方である。

 今回の上海出張には、もうひとつ重要な目的があった。中国で使用していた携帯番号の支払いを更新しそびれて、番号が失効してしまっていたのである。中国でビジネスを行うにあたっては、現地の携帯番号が必要とされる場面が少なくない。また、携帯番号が銀行口座と紐づいているため、番号が使えなくなると金融手続きにも支障をきたす。結果として、新しい携帯番号の取得と銀行への届け出に半日を要した。

 思えば、2004年に上海に駐在して以来、私はずっと中国の携帯番号を持ち続けてきた。長い年月の間に仕事の形も街の姿も変わったが、その番号だけは中国とのつながりを示す小さな証のように感じていた。今回、僅かな期間とはいえ番号を失い、そして再び手に入れたことで、まだ自分は上海とつながっているのだと実感した。ほんの少しノスタルジックな気持ちに包まれた瞬間であった。

 中国経済の不調は日本のメディアでも盛んに報じられているが、実際にその深刻さが一層増しており、人々が生活をそれに合わせつつあるように見受けられた。虹橋空港でタクシーに乗った際、運転手は「2時間半待ってようやく客を乗せられた」と嘆いていた。空港からホテルまでの道中、タクシー台数の過多、配車アプリの普及、さらには景気低迷による客足減少などを訴え続けていた。料金は本来92元であったが、「長時間待ったのだから」という理由で100元を支払わされ、レシートには92元と記されていた。

 その日の夕方、外灘(バンド)を訪れた。観光客の数は思ったほど多くなく、以前のような人混みもなく、ゆったりと散策できた。晴れ渡った青空を背景に、浦東側にそびえる超高層ビル群は、見慣れた風景であるが、それでもなお美しい。东方明珠塔、上海中心大厦、上海環球金融中心、金茂大楼などが並び、その輪郭とガラス張りの壁面が陽光を反射して煌めいていた。

 2002年、シンガポール駐在時代に初めて上海を訪れ、外灘に立った。その時に見た浦東の景色は、今とはまるで違っていた。20年余を経てビル群は変わったが、この眺めはいつ見ても飽きない。今回は相棒である SONY αIV を携えて、青空に映える遠景を写真に収めた。

 加えて耳にしたのは、古北地区にあった 外資系スーパー家乐福(Carrefour) が閉店したという話である。上海駐在時代、日常生活で頻繁に利用していた場所であっただけに、撤退の知らせには感慨を覚えた。市内の家乐福店舗は次々と閉鎖され、現在残っているのは萬里店だけだという。かつて外資系小売の象徴であった家乐福が撤退を余儀なくされるのも、消費低迷の表れであるといえよう。

蘇州・BioBay訪問とRactigen社再訪

 翌日は日帰りで蘇州を訪問した。目的地は中国最大級のライフサイエンス・バイオパークである BioBay(蘇州バイオベイ) である。現在400社以上のバイオ・製薬関連企業が集まり、中国を代表するバイオクラスターとなっている。

 この BioBay 内で、当社がビジネスアドバイザーを務める 中美瑞康(Ractigen Therapeutics)社 を訪問した。創業者兼 CEO の Dr. Long-Cheng Li は米国 UCSF の元教授であり、在籍時に saRNA(small activating RNA)を発見した人物である。当社が同社を発掘し、2021年にエーザイ株式会社に紹介。その翌年、エーザイはシリーズAで約300万ドルを出資した。以来、5年間にわたり弊社はビジネスアドバイザーを務めている。

 オフィスでは多国籍のメンバーが迎えてくれた。中国人、韓国人、台湾人。皆が真剣に研究に取り組む姿を目の当たりにし、このチームが持つ可能性と熱量を改めて感じた。現在はシリーズ A++ の資金調達を進行中である。

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 また、1年半前に R&D ヘッドとして加わった女性はオックスフォード大学卒であり、美しいブリティッシュ・イングリッシュを話す。オンラインでは何度もやりとりしてきたが、対面で会うのは今回が初めてであった。彼女は10代の頃、新海誠、押井守、今敏といった日本のアニメ・クリエイターをアイドル視していたそうである。私が「あなたはオタクだったのですね」と冗談めかして言うと、「確かに10代の頃はそうでした。今はサイエンティストです」と笑って答えた。

 さらに、BioBay に入居する別のスタートアップも訪問した。創業者兼 CEO の彼女は米国スタンフォード大学卒の中国人である。これまで WeChat でやり取りをしていて彼女のアイコンが鎌倉・江ノ電の鎌倉高校前踏切の写真であることに気づいていた。今回それを指摘すると、彼女は笑いながら「SLAM DUNK(スラムダンク)」と返してきた。

日本文化がつなぐ世界

 出張中は見られなかったが、帰国後は「東京2025世界陸上」に夢中になっている。200mで金メダルを獲得した米国のノア・ライルズ選手が、表彰式で「ドラゴンボール」の孫悟空の元気玉ポーズを披露した場面は特に印象的であった。

 上海で出会った「島耕作」ファンの創薬企業 CEO、「元アニメオタク」の Ractigen社 の研究者、さらに別のスタートアップ CEO が「スラムダンク」の大ファン。そして金メダリストのノア・ライルズが愛する「ドラゴンボール」。立場もバックグラウンドも全く異なる人々が日本の漫画やアニメを心から愛している事実は、非常に興味深いことである。

東京での余談 ― 国技館での出会い

 一昨日、大相撲を観に行った。国技館の前で偶然出会ったのが、世界陸上400m混合リレーで金メダルを獲得した米国の Jenoah McKiver 選手であった。胸に金メダルを掲げ、友人達と相撲観戦に訪れていた。私が、妻と一緒に写真を撮らせてくれないかと頼むと、彼は気さくに応じてくれ、私の相棒 SONY αIV で写真に収まってくれた。とても爽やかな態度とイケメンさに妻はすっかり彼のファンになり、その後彼が出場した400M×4のマイルリレーで一時は予選敗退となったものの、バトン渡しが妨害されたことによる救済レースで見事決勝進出を勝ち取ったことを、大喜びしていた。

 ビジネスの現場、街の生活、そして国際舞台のアスリートとの出会い。そのどこにも日本の漫画やアニメや日本文化が顔をのぞかせ、人と人をつなぐ共通言語となっていた。経済の先行きは厳しいが、文化は確かに人を結びつけている。今回の出張や日本での出会いで得た最大の実感である。

【東京ゲームショウ2025出展】

9月25日から幕張メッセで開催される東京ゲームショウ2025で、弊社パートナー企業のLan-bridge社がブースを設置し、彼らの翻訳ソリューションの展示を行う。

急遽、弊社も応援参加することになった。

ご興味がある方は、ぜひブースにいらっしゃってください。25日(木)と26日(金)のビジネスデイ、HALL8、S02におりますので。

【SUGENAの翻訳ソリューション】

SUGENAは、中小企業の海外展開を阻む最大の壁である「言語の課題」に対応すべく、新たに翻訳サービス専用サイトを開設した。https://translation.sugena.co.jp/

本サービスは、AI翻訳のスピードとコスト効率を最大限に活かしつつ、最終段階でネイティブ翻訳者が文化的背景やニュアンスを調整する「AI × ネイティブチェック」方式を採用している。これにより、品質・スピード・コストの3要素を同時に実現する。

さらに、中国最大級の翻訳企業Lan-bridge社との独占パートナーシップにより、300名規模の翻訳体制を確保。技術文書からエンタメ作品まで幅広い領域に対応可能である。中国語・韓国語・タイ語・ベトナム語などの映像字幕サービスも展開し、動画時代に不可欠な海外発信を強力に支援する。

翻訳は単なる言葉の置換ではなく「意味を伝える営み」である。AI時代だからこそ人の感性による最終チェックが不可欠であり、その価値は一層高まっている。

SUGENAは「最善にして最高の翻訳サービス」を提供し、海外進出に挑む企業の強力な基盤となることを約束する。翻訳でお悩みの方、関心をお持ちの方は、ぜひお問い合わせください。無料トライアル実施中。

9月21日

by 須毛原勲

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