社長の日曜日

社長の日曜日 vol.113 静けさの中にある変化   2025.10.06 社長の日曜日 by 須毛原勲

  • twitter

湯けむりの中でひと息つく

 暦はもう10月。

 9月は本当に忙しかった。国内出張、海外出張、東京ゲームショウ参加、その合間に私用をこなし、新しい人との出会いもあり、息つく暇も無かった。

 先週は、公私ともに一区切りをつけるために、会社ではオフサイトミーティング、プライベートでは近場の温泉旅行を組み込んだ。

 オフサイトミーティングでは、新規事業について施策を練り、頭を整理。温泉旅行では、仕事のコンセントを抜くことに専念。積んだままになっていた本を持ち込み、湯けむりの中で静かにページをめくる。気がつけば2冊半を読み終えていた。久しぶりに、時間の流れがゆっくりと感じられた。

 日常に戻ればまた慌ただしい毎日が待っているのだろうが、こうして短い休息の時間を過ごすことで、心の芯に一旦静けさを取り戻せた気がする。

土俵とグラウンドに見る、実りの季節

 9月に観戦した秋場所は、横綱・大の里が見事に優勝を飾った。横綱として初めての賜杯である。堂々とした取り口に、風格が備わってきた印象を受けた。

 贔屓の高安は前半で星を落とし続け、結果は7勝8敗。あと一歩、勝ち越しが見えるところで届かない。それでも35歳、再び大関の座を目指して土俵に上がる姿には、心を打たれる。応援せずにはいられない。

 何より今場所で強い印象を残したのは、ウクライナ出身の安青錦であった。11勝4敗の大健闘。力強い突き押しに加え、腰の据わった相撲が光った。遠く異国からこの国の伝統文化に身を投じ、ここまで上り詰める姿には、まさに「令和の武士」の風格が漂う。今後の大関、横綱昇進が楽しみである。

 相撲が終われば、プロ野球が佳境を迎える。

 日本のプロ野球はレギュラーシーズンを終え、我が巨人軍は3位の結果となった。これから始まるクライマックスシリーズでの“下剋上”に期待したい。

 今季を振り返れば、エース菅野智之のメジャー移籍に始まり、戸郷翔征の不振、丸佳浩の負傷離脱、そして坂本勇人の不調2軍降格と、苦しいシーズンであった。極めつけは、主砲・岡本和真の長期離脱。それでも3位を死守したのは、阿部慎之助監督の采配と、若手の台頭によるところが大きい。

 ショートの泉口友汰が門脇誠からレギュラーを奪い、3割を打つ活躍。増田陸は一時、4番にも座り、チームを支えた。中山礼都は本職でない外野を守りながらも、攻守に輝きを放った。

 トレードで加入したリチャードも、粗削りながら勝負強さを見せ、来季の飛躍を予感させる。若手が成長し、ベテランが踏ん張る――新旧が交錯するチームには、再び黄金期を築く兆しがある。

 一方、海の向こうではメジャーリーグの地区シリーズが始まった。

 ドジャースには、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希という日本の誇る三本柱が並ぶ。初戦はフィリーズに逆転勝ち。大谷が先発し、佐々木が締めるという夢のような展開であった。

 それぞれの舞台で、それぞれの挑戦が続く。

 秋は、実りの季節、努力の結実の季節である。土俵でも、グラウンドでも、そしてビジネスの現場でも。

 結果を出す者には、そこに至るまでの静かな積み重ねがある。

 スポーツを観るたびに、それを思い出す。

移民の時代と日本の現在地

 自民党総裁選が行われ、決選投票の結果、高市早苗氏が新総裁に選ばれた。

 自民党は衆参両院で少数与党ではあるが、報道によれば、首相に指名される見通しである。日本初の女性首相の誕生となる。

 今回の総裁選は、自民党が大きく舵を切った象徴的な出来事であった。小泉進次郎氏のような若手には、まだ次の機会は十分にあるだろう。

 高市氏は1961年生まれの64歳。私より一学年上である。その彼女が掲げる「ワークライフバランスなしに働く」という姿勢には、賛否あれど、政治家としての覚悟が感じられる。

 一方で、高市氏は総裁選中に「奈良の鹿を蹴り上げる外国人がいる」との発言で批判を浴びた。参政党が「日本人ファースト」を掲げて支持を広げるなど、外国人の増加に対して警戒心を抱く日本人が少なくないのも事実ではある。米国のトランプ大統領が掲げた「アメリカ・ファースト」も同根であり、移民をめぐる議論は今や世界的な潮流となっている。

 しかしながら、日本社会が抱える構造的課題を直視すれば、外国人労働者の存在は避けて通れない。出生数は2023年に75万人を下回り、過去最低を更新した。人口減少は加速し、生産年齢人口の減少も止まらない。すでに介護、建設、製造、サービスなど多くの産業が外国人に支えられている。

 G7各国を見渡すと、カナダでは人口の23%が外国生まれ、アメリカ14%、ドイツ17%、フランス14%、イギリス14%、イタリア10%。日本の3%という数字は、先進国の中で際立って低い。だが、10年前の約2倍に増え、確実に社会の風景を変えつつある。コンビニ、介護施設、工場、飲食店──日常のあらゆる場面で、多様な言葉と表情が交わる光景が当たり前になりつつある。

 この変化をどう受け止めるか。

 外国人労働者を「人手不足を補う存在」としてではなく、「社会の新しい構成要素」として捉えることが求められている。異なる文化や価値観を受け入れ、共に働き、共に生きる社会をどう築くか。その問いに真正面から向き合う時代が始まっている。

 世界はすでに、移民を社会の力として活かす段階に入っている。日本もまた、閉ざされた島国ではなく、多様な人々が共に未来をつくる国へと歩み出している。

 静かに、しかし確実に。

小さな出会いが映す時代の輪郭

 温泉旅館での夕食時、料理の説明をしてくれた仲居さんのイントネーションが、どこかわずかに違って聞こえた。

 「失礼ですが、どちらのご出身ですか」と尋ねると、彼女は穏やかに「ベトナムです」と答えた。私が何度もベトナムに行ったことがあると話すと、笑顔を浮かべ、自分の故郷は南部の島で、本土から船で2時間半くらいかかるような所だ、と懐かしさを込めた口調で教えてくれた。

 複雑な料理の説明を丁寧に、しかも完璧にこなしていた。ほんのわずかなアクセントの違いを除けば、流れるような美しい日本語であった。

 着物姿のその女性の表情は柔らかく、言われなければ日本人と見分けがつかないほど自然であった。

 こうした外国人に、日本はこれから支えられていくのだろう。

お知らせ

「未来はここにある」新シリーズ:中国企業「出海」の現在地

 ブログ「未来はここにある」シリーズの新章、「中国企業『出海』(海外展開)」の現在地」を公開した。

 第1回「世界の工場」から「世界のプレーヤーへ」・・・公開中

 第2回「出海」が生み出す新しい競争領域・・・ 公開中

 第3回  M&Aから「自ら建てる時代」へ・・・10月10日公開予定

 本レポートでは、中国企業が単なる製造拠点から脱却し、世界市場で自らのブランドを確立しようとする姿が描かれている。 それはもはや一部の大企業だけの動きではなく、中国経済の構造変化そのものを映し出す「必然の潮流」である。

 この背景には、中国国内市場の飽和と競争の激化があるが、それは単なる“逃避”ではなく、より長期的なビジョンを持った進化である。製品を輸出するだけでなく、現地で投資し、雇用を生み、ブランドを築く。中国企業の「出海」は、もはや資本の移動ではなく、思想と文化の輸出でもある。

 レポートはまた、リスクと課題についても冷静に論じている。

 地政学的緊張、文化や制度の壁、ブランド認知の差――。それでもなお、中国企業はM&A頼みから脱し、自ら工場を建て、研究拠点を構築する方向へと舵を切っている。「買収」から「創造」へ。彼らが真に試される時代が始まっている。

 いまや世界のあらゆる都市で中国企業のプレゼンスが高まっている。

 その動きは単なる経済現象ではなく、中国という国家が「いかに世界と関わり、どのような物語を語ろうとしているのか」を映す鏡である。

 本稿を通じて、その大きなうねりの一端を感じ取っていただきたい。

👉 https://sugena.co.jp/yoshimi/

10月5日

by 須毛原勲

ブログ一覧に戻る

HOMEへ戻る