社長の日曜日

社長の日曜日 vol.118 新たな伝説と新たな心配事 2025.11.17 社長の日曜日 by 須毛原勲

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静かな朝の時間が、揺れ動く世界を見つめる力をくれる。

公園では紅葉が進み、足元には落ち葉が厚く積もり始めている。サクサクと音を立てる落ち葉の上で体を動かしながら、冬の訪れを静かに感じている。ラジオ体操で知らない人と挨拶を交わすこのわずかな時間が、慌ただしい日々の中で私の心を整えてくれている。

大谷翔平選手のMVP――その凄みの本質

 大谷翔平選手が2025年シーズンのナ・リーグMVPに満票で選ばれた。これで、リーグを跨いで3年連続、4度目のMVPだ。号外も出された。更に、最も活躍した指名打者に贈られる「エドガー・マルティネス賞」も5年連続で獲得し、傑出した打者を選ぶ「ハンク・アーロン賞」も3年連続で受賞した。他にも、「年間レジェンド・モーメント」賞、オールMLBチームなど5冠に輝いている。先日、特集が組まれていたNHKスペシャルで、二刀流復活に向けた大谷翔平選手の取り組みが映し出されていたが、天才でありながら、日々の努力をし続けて、二刀流を今も否定する人たちを結果で黙らせる。ポストシーズン開始直後は打撃不振に陥っていたにもかかわらず、リーグ優勝決定シリーズ第4戦での、1試合3本塁打&10奪三振という圧巻のパフォーマンスが今も記憶に新しい。

 二刀流を続けて、MVPを取り続ける大谷選手に、二刀流を続ける理由について質問した記者に、彼はこう答えた。

“No. 1 is that I think I can do it. That’s my personal color, and I think that’s my strength. If I can be a plus for the team as both (a pitcher and hitter), I think that’s a role only I can fulfil, and I think doing that is my job.”

「第一に、僕は自分ならできると思っているということです。それが僕の“らしさ”であり、僕の強みだと思っています。投手としても打者としてもチームにプラスになれるのであれば、それは自分にしか果たせない役割だと思いますし、それをやることが自分の仕事だと思っています。」

受け継がれるスーパースターの伝説――長嶋茂雄賞と大谷翔平

 日本野球機構(NPB)は、「長嶋茂雄賞」を来季から創設することを決めた。

 長嶋茂雄氏が、あの伝説として語り継がれる天皇陛下展覧試合で劇的なサヨナラホームランを放ち、日本のスーパースターとなったのが1959年である。私が生まれる前の出来事だ。この試合を契機に、当時絶大な人気を誇った東京六大学野球から、国民に広く愛される“プロ野球”へと時代の中心が移っていった。

 長嶋氏が引退したのは1974年である。野球部に所属し、毎日バットを振っていた中学生の自分は、引退セレモニーでの「我が巨人軍は永久に不滅です」という名言を、今でも鮮明に覚えている。

 今回創設される「長嶋茂雄賞」は、走・攻・守すべてでファンを魅了した選手を表彰するという。巨人ファン・長嶋ファンの私としては、実に嬉しいニュースである。

 時代背景はまったく異なるが、4度目のMVPを手にした大谷翔平選手は、メジャーリーグに挑戦した日本人選手の中で誰も成し得なかった偉業を、しかも二刀流で成し遂げている。

 CMでも共演する両者に共通するのは、「期待され、その期待以上の働きをし続けること」なのかもしれない。

防衛予算を問う声と揺れる日中関係

 衆議院・参議院両院で予算委員会が継続している。特に、榛葉賀津也・国民民主党幹事長と、小泉進次郎・防衛大臣の間で交わされた防衛予算を巡る論戦は、互いに気合いが入っており、非常に見応えがあった。榛葉氏は、防衛装備品輸出に関する「5類型」ルールの見直しを問い、小泉大臣は我が国の安全保障環境に応じて防衛力を如何に整備するかを丁寧に説明した。

 立場は異なるとはいえ、世界各地で緊張が高まる中、防衛のあり方や防衛費の配分について、無関心であり得るはずがない。

 論戦の中で、榛葉幹事長から思わず小泉大臣を称賛する言葉が漏れた瞬間があった。頼りなさそうに見えた小泉氏が、農政大臣や防衛大臣という重要ポストを経て、少しずつ成長しているのかもしれないと、私には頼もしく映った。

 さて、高市早苗首相の予算委員会での発言が、中国との外交摩擦を引き起こしている。

 首相の「台湾有事」発言を巡り、中国政府は日本への渡航を自粛するよう中国国民に呼びかけ、外務省高官を通じて抗議も行っている。更に、大阪領事館の総領事が投稿した言論も事態を一層悪化させた。中国政府は16日には、日本への留学計画を慎重に検討することを推奨する旨の通知も発表したとのことである。

 野党側がしつこく質問を続けるのも当然の流れではあるが、せっかく“雪解けムード”が見えてきた日中関係を、一気に2年前の「処理水排水」問題当時の緊張水準まで逆戻りさせた。

 双方とも、国民に対して「引くに引けない」状況に追い込まれつつあり、非常に憂慮すべき事態である。

 八面六臂の活躍を続けている高市首相は、内政・外交の双方で難しい舵取りを迫られている。

Kビザ中国が世界の科学技術人材に開く新しい扉

 中国は10月に「Kビザ」と名づけられた新たなビザ制度を正式に導入した。

 「Kビザ」の“K”は Knowledge(知識) や Key(鍵) を指すとされ、「人材への鍵」を象徴する名称であるという見方もある。

 中国政府の公式説明によれば、Kビザの対象は、中国国内外の著名な大学・研究機関において科学・技術・工学・数学(いわゆるSTEM)分野を専攻し、学士号以上を取得した外国人、あるいはこれらの分野で教育・研究に従事する若手科学技術人材である。

 すなわち、この制度は主として海外の若いテクノロジー人材を誘致するものであり、特に人工知能、半導体、バイオ医薬、新エネルギーといった先端分野で潜在力を持つ若者に門戸を開いている。

 では、いまなぜ中国がKビザの発行を開始したのか。その背景は何か。そしてKビザとは本質的に何を意味する制度なのか。

 今回のKビザの制度導入には、世界的な人材の獲得競争に対して、中国が国を挙げて早めに手を打とうとしている証しである。日本が、少子高齢化、AI開発人材の不足などの課題満載にもかかわらず、外国人に対して排除的な政治的な動きがあることとは対照的である。

 当社の人気ブログ「未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む」では、今月この「Kビザ」に焦点を当てている。ぜひご一読いただきたい。

【連載スケジュール】

 Kビザ – 中国が世界の科学技術人材に開く新しい扉 

〈その1〉(公開済)https://sugena.co.jp/yoshimi/yoshimi7-01/

  誕生の背景と意味

〈その2〉(11月20日 公開予定)

 米国・日本との人材戦略比較 - 異なる道筋

〈その3〉(11月27日 公開予定)

 中国社会の声と未来への展望

2025年11月16日

<今週の写真>

朝の木漏れ日に照らされた落ち葉が、淡い光を反射して美しく輝いていました。

by 須毛原勲

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