社長の日曜日

社長の日曜日 vol.120 茨城の至高の週末 2025.12.01 社長の日曜日 by 須毛原勲

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 朝の気温がいよいよ10℃を切った。ジョギングに出発する5時半にはまだ漆黒の闇で、頬に当たる風が冷たい。公園を走リ出すと足元で「ぐちゃり」という嫌な感触があった。鼻をつく強烈な匂いですぐにわかった。銀杏(ぎんなん)を踏んでしまったのだ。 気を取り直して走るうちに日が昇り、神田川沿いの銀杏(いちょう)が鮮やかに浮かび上がってきた。澄み渡る朝の青空が背景のその黄金色は、紅葉シーズンのフィナーレを飾るにふさわしい。

 ふと、幼い頃の記憶が蘇る。近所のお寺の境内で、かき集められた落ち葉の山にダイブして遊んでいると体中が銀杏の匂いまみれになり、母にこっぴどく叱られたものだ。

 いつもの公園でのラジオ体操。終了後、ラジオを持参してくれているおばあちゃんに皆で頭を下げ、「ありがとうございました」「また明日」と挨拶するのが常だ。 しかし今朝は、その定型句の後に続きがあった。 「もう、明日から12月ですね」「早いですねえ」。

 そう、明日から師走である。2025年もあと1ヵ月だ。

茨城の誇り、至高の週末

 先日、故郷の水戸へ帰省した際に駅に降り立つと、「やりきる走りきる勝ちきる」と書かれた力強い横断幕が目に飛び込んできた。 タクシーの初老の運転手さんも興奮気味に、 「こどしは、みど、J1行げっかもしんねど!」 (今年は、水戸、J1行けるかもしれないぞ) とハンドルを握りしめていた。サッカー水戸ホーリーホックの快進撃のことだ。

 その後、まさかの2連敗で足踏みしたが、昨日、大分トリニータを2-0で撃破。得失点差という薄氷の差で、J2優勝とクラブ史上初のJ1昇格をもぎ取った。 2000年のJ2参入以来、一度も昇格・降格がなく、皮肉を込めて「J2の番人」と呼ばれ続けてきたチームだ。26年目にして、ついに悲願達成である。 チーム名の「ホーリーホック(HollyHock)」は、エンブレムにもある水戸藩徳川家の家紋「葵」の英語名。来季は、J1の舞台で暴れるこの葵の紋所の推し活をしようかな。

 歓喜の連鎖は、あと一歩のところで次週へと持ち越しになった。 今日、11月30日。首位を走る我が鹿島アントラーズは、東京ヴェルディに1-0で勝利した。しかし、2位の柏レイソルも新潟に3-1で勝利したため、9季ぶり9度目のリーグ優勝決定は最終節に委ねられることとなった。

 水戸の初昇格と、鹿島の勝利。 王座奪還の瞬間こそお預けとなったが、水戸に生まれ、茨城を故郷に持つ私にとって、胸が高鳴る「至高の週末」となったことには変わりはない。

「ChatGPT信者」を辞める日

 先週、触れようと思って書きそびれた話題がある。AIの話だ。 ことの発端は11月12日、OpenAIが新たなモデル「ChatGPT 5.1」をリリースしたことだった。これは今年8月に登場したGPT-5のアップグレード版にあたり、「よりスマートに、より楽しく」をコンセプトに改良が加えられたという。 2022年の「3.5」時代から使い続け、Pro版のサブスクリプションも契約しているヘビーユーザーの私としては、期待に胸を躍らせて試してみた。だが、正直な感想を言えば「多少良くなった」程度。そこに大きな感動はなかった。

 潮目が変わったのは、そのわずか6日後。11月18日にGoogleから「Gemini 3.0」が発表された時だ。 発表から10日余りが過ぎたが、この1週間でGeminiに対する評価の声は急速に高まっている。テック業界だけでなく、一般のビジネスパーソンからも絶賛の声しきりだ。

 何がそれほど評価されているのか。 それは単なる文章作成能力の向上にとどまらず、映像や音声を理解する「マルチモーダル」な能力と、複雑な文脈を読み解く「推論能力」が格段に進化した点にある。 これまで私が感じていたChatGPTへの不満――平気で嘘をつく「ハルシネーション」、いま一つ垢抜けない文章力、そしてこちらの意図に合わせようとし過ぎる過剰な追従(忖度)――を、Gemini 3.0は軽々と解消してみせた。「圧倒的にいい」「賢い」としか言いようがない。

 私自身、最近はこいつを「ダイエットの相棒」として愛用している。使い方は簡単だ。 食事の写真を撮ってアップロードし、アドバイスを求める。そこに運動の記録も合わせると、両方のデータを加味した的確なコーチングをしてくれるのだ。

 例えば、今朝は恒例の坂道ダッシュと階段ダッシュをサボってしまった。それを伝えると、「運動量が足りません。朝のバナナは食べちゃダメです」などと、少々生意気なことまで言ってくる。 画像認識の精度も恐ろしいほどだ。夕食で「牡蠣のチゲ鍋」をアップした際、写真では肝心の牡蠣がスープに沈んでいてほんの少ししか写っていなかったにもかかわらず、Geminiはそれを見逃さず、「牡蠣が入っていますね」と見抜いてきたのだ。昨日は「鯛のあら汁」を出す妻が「Geminiがこれを見破ったら土下座してあげる。」と言い、Geminiの回答は白身魚が入った汁物というところまで迫った。

 こちらの状況を見透かしたような生意気なアドバイスや、隠れた具材まで見抜く眼力。 もはや、優秀な専属トレーナーがポケットの中にいるような感覚である。

 もちろん、ビジネスでの親和性は言うまでもない。 Google Workspaceを契約していれば追加料金は不要。私の仕事環境はGmail、カレンダー、Drive、スプレッドシートと、完全にGoogleのインフラで成り立っている。この環境下で、Google製のAIが快適でないはずがないのだ。

 まだまだ、私の想像もつかないような使い方が山のようにあるはずだ。 3年近く「ChatGPT信者」を貫いてきたが、ついに決別の時が来たのかもしれない。

厳しさを増す、もう一つの「風」

 冒頭で「風が冷たい」と書いたが、外交の風向きも、先週より一層厳しさを増している。 中国側の対応は激化の一途を辿っており、先週懸念した「見えない壁」が、急速に高く、厚くなっているのを感じる。言葉一つが招いた波紋が想像する以上に深く広がりつつあるのを、中国と関わりの深いビジネスに携わる私は日々の決断の中でひしひしと感じている。 師走の忙しさの中で、この重たい懸念だけが棘のように刺さったままである。


【お知らせ】

【人材獲得競争の最前線、「Kビザ」の衝撃】

 中国が「Kビザ」と名づけられた新たなビザ制度を正式に導入した。 “K”は Knowledge(知識) や Key(鍵) を指すとされ、まさに「未来への鍵」となる人材を呼び込むための施策である。

 中国政府の公式説明によれば、Kビザの対象は、国内外の著名な大学・研究機関でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野を専攻し、学士号以上を取得した外国人、あるいは同分野で教育・研究に従事する若手科学技術人材だ。 要するに、AI、半導体、バイオ医薬、新エネルギーといった先端分野で潜在力を持つ「海外の若手テクノロジー人材」に対し、国を挙げて門戸を開いたということだ。

 では、なぜ今、中国はこのカードを切ったのか。 Kビザの導入は、激化する世界的な人材獲得競争において、中国が先手を打った証左に他ならない。 翻って我が国はどうだ。少子高齢化、AI開発人材の枯渇と、課題は山積しているにも関わらず、政治の空気は外国人に対してどこか排他的になりつつある。この対照的な動きには、危機感を抱かずにはいられない。

 連載中のブログ「未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む」では、今月のテーマとして、このKビザを深掘りしている。 表層的なニュースだけでは見えてこない戦略的意図について解説しているので、ぜひご一読いただきたい。

2025年11月30日

<今週の写真>

東大駒場キャンパスの銀杏並木まで足を延ばしてみた。この日は快晴。澄み切った青空の下、陽光を浴びて輝く黄金色の葉が目に染みるほど美しかった。

by 須毛原勲

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