未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

中国のAI発展の現状と未来 ―グローバル競争での台頭 その1 2025.04.16 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

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はじめに

 2022年は、人工知能(AI)の発展において画期的な年とみなされています。この年には、大手テクノロジー企業が次々と独自のAIモデルを発表し、一般の人々も徐々に、人工知能が画像を生成したり、文章を書いたりするだけでなく、人間と論理的かつ筋道の通った対話ができることを認識するようになりました。

 2022年11月30日には、OpenAIがGPT-3.5アーキテクチャに基づくChatGPTの試験版を正式に公開しました。この自然な対話能力を備えたAIモデルは瞬く間に世界的な注目を集め、AIは本格的に一般社会の注目の的となり、日常生活の中で広く話題にされる存在となりました。

 中国の大手メディア「人民網」はある記事の中で、アメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャーの言葉を引用し、次のように述べています。「人類が手にしたすべての技術の中で、戦略的な意味を持つのは三つしかない——それは、核兵器、サイバーセキュリティ、そして人工知能である」。人工知能は、核兵器とサイバーセキュリティの両方の特性を併せ持ちます。つまり、強大な「破壊力」を秘めると同時に、広範かつ継続的な安全リスクも抱えているのです。

 たとえば、現在各国で開発が進められている自律型の無人機や無人戦車は、人間の直接の操作なしに、目標の識別・追跡・攻撃を実行できます。また、AIは極めてリアルな偽の映像や音声も生成できるため、政治家の発言をねつ造したり、大衆の感情を操作したりと、国際競争において世論を操作するための武器ともなり得ます。

 そのため、人工知能は「ゲームチェンジャー」ともいえる戦略的技術として広く認識されています。当然ながら、中国もこの分野で遅れを取るわけにはいきません。2022年にChatGPTが登場してからわずか1年の間に、中国では130を超える大規模なAIモデルが登場しました。その中には、アリババの「通義千問(Tongyi Qianwen)」、バイドゥの「文心一言(ERNIE Bot)」、バイトダンスの「豆包(Doubao)」などが含まれています。

 さらに、2024年末に登場した「DeepSeek(ディープシーク)」は、自然言語処理やマルチモーダル生成の分野において優れた成果を上げており、世界トップレベルに匹敵する実力を示しています。

 世界的なAI競争がますます激化する中で、中国の人工知能の発展は、現在まさに重要な転換点を迎えています。本稿では、中国におけるAI開発の現状、強み、そして直面している課題について重点的に論じ、筆者自身がユーザーとして体験してきたことも合わせてご紹介いたします。


中国におけるAI発展の現状-中央政府・地方政府の動き

 近年、中国政府は人工知能技術の革新と実用化を後押しするため、さまざまな政策を次々と打ち出してきました。たとえば、「次世代人工知能発展計画」や各地方レベルでのAI特別支援プログラムなどがあり、AI産業の発展を全面的に支える強力な政策基盤が整えられています。

 この「発展計画」では、中国における次世代人工知能の発展に関する戦略的な目標が以下のように明確に定められています。

2020年までに:人工知能の総合的な技術と応用が世界の先進水準と並び、AI産業が新たな重要経済成長分野となり、AIの応用が人々の生活の質を向上させる新たな手段となること。

2025年までに:人工知能の基礎理論で大きなブレークスルーを達成し、一部の技術や応用が世界最先端レベルに到達。AIが産業の高度化や経済の構造転換の主な原動力となり、「スマート社会」構築において積極的な進展を見せること。

2030年までに:人工知能の理論・技術・応用の全体的なレベルが世界トップクラスに達し、世界における主要なAIイノベーション拠点となること。

 また、2024年2月19日には、「AIが産業を活性化させる」というテーマのもと、中央企業向けの人工知能推進会議が開催されました。この会議では、中央企業が「AI+」の特別プロジェクトを推進し、ニーズに基づくイノベーションを強化し、重点産業へのAI導入を加速させることが強調されました。さらに、複数の産業分野にわたるマルチモーダル高品質データセットを構築し、基盤インフラ、アルゴリズムツール、インテリジェントプラットフォームからソリューションに至るまでのAI大モデルを活用した産業エコシステムの形成を目指すとされています。

 IDC(世界的に有名なIT市場調査・コンサルティング会社)によれば、人工知能への支出に関して中国はアジア太平洋地域のAI市場を引き続きけん引しており、同地域のAI総支出の5割を占める見込みです。さらに、2027年までに中国における人工知能の総投資規模は400億ドルを突破すると予測されており、年平均成長率は25.6%に達すると見込まれています。

 

 中央政府だけでなく、地方政府もまた、国内におけるAI競争の中で先行者となるべく積極的に動いています。

 2025年3月17日付の『中国新聞週刊』に掲載された記事「地方政府、AIに夢中」によると、「DeepSeek」の成功が地方政府に広範な危機感を呼び起こしたと報じられています。

 たとえば、江蘇省党委機関紙『新華日報』は以下の3本の記事を立て続けに掲載しました。

「なぜDeepSeekは杭州で生まれたのか?」

「なぜ南京から“杭州六小龍”のような企業が育たないのか?」

「杭州にはDeepSeekがあるが、南京には何があるのか?」

 このような競争において優位に立つため、各地方政府は独自の支援策を次々と打ち出しています。

 たとえば、2024年4月には、北京市の発展改革委員会が今後5年間で1,000億元超の投資を行い、主要なコア技術を持つAI企業を支援すると発表しました。

 また、2025年3月には、上海市が「サービス業のイノベーション発展を促進するための措置」を公表し、特化型モデルの育成や産業エコシステム基金の設立を支援するとしました。

 さらに、2025年2月には、広東省の党委書記・黄坤明氏が、電気機械とデジタル技術の二重の強みを活かし、AIとロボット産業を新たな柱として育てていく方針を打ち出しました。

 深圳市では、2024年に「人工知能先進都市の構築に向けた若干の措置」を発表し、「訓練バウチャー」「言語データバウチャー」「モデルバウチャー」などの制度を通じて、企業の研究開発やAIモデルの訓練にかかるコストを削減する政策を実施しています。

次回は、中国のAIの技術面、人材・研究体制などについてレポートします。

by ヨシミ

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