未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

中国のAI発展の現状と未来 ―グローバル競争での台頭 その3 2025.04.30 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

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直面している課題と問題点

 中国のAI産業は急速に発展していますが、依然として複数の重要な課題を抱えています。主な問題は、中核技術の対外依存の深刻さ、データセキュリティと倫理の問題、そして外部環境の不確実性の増大などです。

1.中核技術の海外依存

 中国のAI発展の基盤には、「ボトルネックのリスク」が今なお存在しています。特に、ハイエンドチップ、基礎的なアルゴリズム、オープンソースツールといった重要分野において、その傾向が顕著です。

 長年にわたり、中国の半導体は多くを輸入に依存しており、計算リソースの基盤が相対的に弱い状況にあります。中国税関総署のデータによると、半導体の輸入数量は2015年の3,135億個から2021年には6,355億個にまで増加し、ほぼ倍増しました。しかし、2021年以降は数量・金額ともに減少に転じています。
 この背景には、

 AIチップの分野では、中国企業はすでに一定の設計能力を持っているものの、製造は依然としてTSMC(台湾積体電路製造)やサムスンなどの海外最先端工場に依存しています。AIモデルの学習と推論には高性能GPUが不可欠ですが、アメリカのチップ輸出規制は、中国が先進的な計算力リソースを取得する上で大きな制約となっています。たとえば、NVIDIAのA800やH800といったダウングレード版GPUも、2023年には中国向け輸出が禁止されました。

 華為(Huawei)の昇騰シリーズや、寒武紀(Cambricon)などの国産AIチップも一定の成果を上げていますが、性能効率やエコシステムの成熟度では依然として国際水準に及ばず、短期的には海外のサプライチェーンから完全に脱却するのは難しいのが現実です。

 また、基礎ソフトウェアの面では、主流のディープラーニングフレームワーク(TensorFlowやPyTorch)は今なお米国企業により主導されています。百度(Baidu)が独自開発した「飛漿(PaddlePaddle)」のような国産フレームワークも登場していますが、国際的な開発者エコシステムはまだ弱いのが実情です。大規模AIモデルの学習に不可欠なTransformerやDiffusionといった主要アルゴリズム構造も、ほとんどが海外のオープンソースプロジェクトに由来しており、国産技術の影響力はまだ限定的です。

2.データセキュリティ、プライバシー保護、倫理ガバナンスの不備

 AI技術の広範な応用に伴い、データの安全性やプライバシー保護がますます重要な課題となっています。中国ではすでに『個人情報保護法』や『データセキュリティ法』といった法律が制定されていますが、実務レベルでは未解決の課題や運用上の抜け穴が残っています。

 たとえば、2022年には、配車サービス大手の滴滴(DiDi)が大規模なデータ漏洩を起こし、80.26億元(人民元)の罰金を科せられたことがあり、これは中国の規制史上、象徴的なケースとされています。

 また、データの越境移転制限も国際企業の中国進出に影響を与えています。たとえば、Teslaはデータの現地保管要件に対応するため、中国国内にデータセンターを設立しましたが、それに伴い運営コストや技術対応の負担が増加しています。

 さらに技術の応用面では、顔認識やAIによる推薦アルゴリズムの乱用によって、アルゴリズムによる差別や「情報のフィルターバブル」などの社会リスクも生じています。自動運転やAI医療といった分野では、万一の事故発生時の責任の所在が法律上明確でないという問題もあります。


 プライバシーや倫理の問題は、国民の信頼を損なう可能性があるだけでなく、規制強化のきっかけともなり得るため、AI技術の安定的な社会実装にとって障壁となり得ます。

3.外部環境の悪化と技術封鎖リスクの増大

 米中間の技術覇権争いの激化により、中国のAI発展はこれまで以上に厳しい外部環境に直面しています。アメリカは、中国への技術移転を防ぐため、先端半導体の輸出禁止、AIソフトウェアの輸出規制、研究人材の流動制限などを段階的に強化しています。

 NVIDIA製GPUの輸出禁止に加え、中国のAI企業は高度なAI開発ツールやアルゴリズム資源の入手に多くの制約を受けており、開発競争力の低下が懸念されています。

 また、地政学的リスクが技術協力や国際市場展開にも影を落としています。たとえば、バイトダンス(ByteDance)はアメリカ国内での事業に関し、一部の株式を強制的に売却させられるという事態に直面しており、グローバルな事業展開における不確実性の高まりを象徴する出来事となっています。

 中国政府はこうした状況を踏まえ、「自主可控(自立可能で管理可能な)」という方針のもと、国産AIチップやプラットフォームの育成を推進していますが、現時点では国際的な主流技術体系を全面的に代替するには至っていないのが実情です。


生活におけるAIの活用 —— DeepSeekを例に

 ここまでは、やや専門的な内容をお話ししてきましたが、ここでは一人の利用者としての視点から、私なりの考えを共有したいと思います。

 実際のところ、産業用途のAIと比べると、DeepSeekのような対話型AIのほうが、私たち一般市民の生活により身近に存在しています。DeepSeekが登場して以来、私はWeChatのモーメンツや小紅書、ネット掲示板などでこのAIが頻繁に話題に上っているのを目にしています。それを見る限り、多くの中国人がこのAIを積極的に使い、楽しみながら試している様子がうかがえます。

 たとえば、あるネット掲示板では、幼稚園の英語教師がDeepSeekを活用した体験談を投稿していました。彼女は、幼稚園の子どもたち向けに全英語のカリキュラムを組むという課題に直面していたそうです。その際、DeepSeekは彼女の要望を的確に理解したうえで、子どもたちの年齢や学習ニーズを踏まえた提案をしてくれたといいます。

 具体的には、リスニングやスピーキングの教材として童謡やライミング単語を使うこと、フォニックスや繰り返しの多い絵本やレベル別読書教材でリーディングを指導すること、そして単語の復習には「ワードウォール(単語掲示板)」を活用するといった提案がなされました。さらにDeepSeekは、文化的な背景にも配慮し、退屈な反復練習を避けるように助言し、中国の子どもに合ったバイリンガル教材も推薦していました。

 また、仕事で忙しい中国の「打工人(働く人々)」たちも、AIを活用して業務効率を上げています。
 たとえば、ある人はDeepSeekを使ってアプリの機能仕様を自動生成していました。具体的には、まずDeepSeekにプレゼン資料用のテキストを作成させ(現在のDeepSeekはテキストや簡単な表形式での出力に対応)、その内容をKimi(中国の別のAIサービス)のPPT支援ツールに貼り付けて、見栄えの良いスライド資料を作るという流れです。

 もちろん、AIの使い方は真面目な用途ばかりではありません。
 以前、小紅書ではAIを使った「占い」が流行し、一部の人は占い専用のプロンプト(入力テンプレート)まで編み出していました。たとえば、「あなたは一流の風水師だとして、以下の情報(生年月日・性別・出生地・現在の居住地)に基づいて、私の運勢・キャリア・金運・開運方法を分析してください」と入力するような形です。こうした結果は当然ながら科学的根拠に乏しいですが、AI活用の一つのユニークな例とも言えるでしょう。

 さらに、AIは「仕事の道具」から人生の相談相手へと進化しつつあり、多くの若者がAIに生活に関する質問を投げかけ、方向性やアドバイスを求めています。
 たとえば、小紅書では「普通の女の子が2025年をどう過ごすか」といった投稿が2万5000件の「いいね」を獲得しました。また、「DeepSeekは人生の重要事項にどう優先順位をつけるか」「若者はどうやって人付き合いの常識を学ぶべきか」といったテーマも、多くの共感を呼び、話題となっています。

 もちろん、多くの人は「AIは万能ではない」「誤った回答を出す可能性がある」と理解していますが、不確実性が高まる現代社会において、AIは若者に一つの方向性や、ある種の希望を与えていると言えるでしょう。

 そして、こうしたAI技術の急速な浸透を受け、政府もAIサービスの規制に乗り出しています。
 たとえば、2023年8月15日に施行された《生成型AIサービス管理暫定措置》では、以下のようなルールが定められています:

 また、2025年2月6日付の『ニューヨーク・タイムズ』の報道「DeepSeekはどのようにセンシティブな質問に答えるのか」によれば、DeepSeekは中国の他のインターネット情報と同様に、センシティブなキーワードを回避するよう設定されており、問題に適さないと判断されると、回答を避けることがあります。

 しかし、同記事の著者は、DeepSeekは回答前に推論を行う「思考プロセス」を備えているため、ユーザーが注意深く観察すれば、ファイアウォール外と同様の情報に到達できる場合があるとも指摘しています。つまり、DeepSeekが回答を削除する前の一瞬に、センシティブな内容が一部表示されることがあるというのです。

 さらに、英語で質問した場合と中国語で質問した場合では、回答内容に違いが出ることも観察されています。


結論

 中国におけるAI技術の継続的な進歩により、この技術はもはや商業分野にとどまらず、一般の人々の日常生活のあらゆる面にまで深く浸透しています。教育から娯楽、業務効率の向上から生活スタイルの改善に至るまで、AIはこれまでにないスピードで人々の暮らしに入り込んでいます。

 DeepSeekのような大規模AIモデルを通じて、一般の利用者でもより効率的に仕事をこなし、知識を得ることができるほか、日常生活においても個々のニーズに応じたアドバイスを受けることが可能になっています。こうしたAIの普及は、単に仕事の効率を高めるだけでなく、生活の利便性向上にも大きく貢献しています。

 AIの活用が広がる中で、一方で中国政府はAIによるコンテンツに対する管理・規制の強化にも乗り出しています。特にセンシティブな話題に関する管理が重視されており、DeepSeekのようなプラットフォームでは、特定の問題についての回答に制限をかけ、敏感な内容が拡散されないようにする対応が取られています。

 こうしたセンシティブワードのフィルタリングは、プラットフォーム上のコンテンツの安全性を確保する効果がある一方で、情報の自由な流通に対する懸念も呼び起こしています。技術革新と情報の透明性・開放性とのバランスをどのように取るかは、今後の中国におけるAI発展における大きな課題の一つとなるでしょう。

 それでもなお、中国のAIは急速な発展を遂げており、世界のテクノロジー競争に新たな推進力をもたらしています。政策や法制度の整備が進み、技術的なブレークスルーが続く中で、中国は今後、世界のAI分野でますます重要な地位を占めることが期待されています。
 さらに、AI技術は未来のスマート社会の構築を主導し、社会のあらゆる領域におけるインテリジェントな転換を推し進める原動力となることでしょう。

by ヨシミ

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