ドラマ:中国文化輸出のやわらか且つ確かな力
映画と比べて、ドラマは物語を長く丁寧に描けるため、文化輸出の場面で独特かつ重要な役割を果たします。近年、中国ドラマの海外における影響力は着実に高まり、中国と世界の視聴者を結び付ける大切な架け橋となりつつあります。
『還珠格格(プリンセス・フウ)』の時代から、中国の時代劇は東南アジアで大きなブームを巻き起こしてきました。その後も『甄嬛伝(宮廷の諍い女)』『琅琊榜(琅琊榜〜麒麟の才子、風雲起こす〜)』『延禧攻略(瓔珞〈エイラク〉)』などが次々に海外へ“航海”し、精緻な映像とスリリングな宮廷権謀で視聴者を魅了してきました。さらに、欧米市場では趣の異なる現代ドラマも徐々に受け入れられ、『白夜追凶』『開端』などの都市サスペンスがテンポの良さと斬新な設定で高評価を得ました。Netflix、Amazon Prime、HBO Max といった主要プラットフォームで中国ドラマの本数とジャンルは増え続け、時代劇・ラブロマンス・推理・ファンタジー・励志ものなど多彩な作品が、世界の視聴者の多様な期待に応えています。
原題 | 邦題 | 概略 | 日本での主な視聴手段 ※2025年5月時点 |
還珠格格 | 還珠姫~プリンセスのつくりかた~/プリンセス・フウ | 天真爛漫な娘・小燕子がひょんなことから清朝皇帝の養女となり、仲間と宮廷を縦横無尽に駆け回る痛快時代劇 | 公式フルエピソードがYouTubeで視聴可能 |
甄嬛伝 | 宮廷の諍い女 | 新人妃・甄嬛が知略を駆使して後宮を生き抜き、やがて皇后に上り詰める宮廷愛憎劇 | Amazon Prime Video(見放題/字幕版) |
琅琊榜 | 琅琊榜〜麒麟の才子、風雲起こす〜(Nirvana in Fire) | 冤罪で一族を滅ぼされた天才軍師・梅長蘇が素性を隠し都へ戻り、復讐と正義を果たす政治サスペンス | Amazon Prime Video(見放題) |
延禧攻略 | 瓔珞〈エイラク〉~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~ | 姉の死の真相を追う宮女・魏瓔珞が才知と胆力で頂点へ駆け上がる痛快復讐劇 | U-NEXT(見放題)、BS11で地上波再放送中 |
白夜追凶 | DAY & NIGHT/白夜追凶 | 殺人容疑者となった双子の弟の潔白を証明するため、兄が昼と夜で入れ替わりながら事件を追う本格クライム・サスペンス | Netflix(配信中、字幕) |
開端 | 開端-RESET- | バス爆発に巻き込まれた大学生と青年がタイムループに閉じ込められ、事故の真相を探るSFサスペンス | Amazon Prime Video |
制作面の向上も見逃せません。衣装・美術・撮影などのクオリティは年々進歩し、特に時代劇の衣装や礼儀作法の再現は海外ファンを驚かせています。多くの外国人 YouTuber が専用チャンネルを開設し、中国宮廷文化や漢服の美学を詳しく解説しており、海外視聴者の審美眼を広げると同時に、中華伝統文化への関心を大いに高めています。
さらにここ数年、従来型の連続ドラマに加えて、中国発の「ショートドラマ(短剧)」が世界、とりわけ欧米で大反響を呼んでいます。テンポが速く、1つのエピソードは60〜90秒、計50〜90話という超短尺で、モバイル時代の視聴習慣にぴったり合致しました。新華報業網によれば、海外向けショートドラマ関連アプリは300種類を超え、累計ダウンロードは4億7,000万回以上、2024年上半期の売上は2億3,000万ドルに達したとのことです。題材は都市恋愛、家族倫理、ファンタジー、転生など幅広く、しばしば“ドロドロ”ながらも中毒性が高く、海外ユーザーが「見始めたら止まらない」と熱中しています。
SNS でも話題は尽きません。ある韓国の X(旧 Twitter)ユーザーが「無料で中国のショートドラマを見る方法」を紹介した投稿は約2万件のリポストを獲得し、「1分半で1話6000ウォンもするのに、やめられない」「Instagram の広告で見始めて20分連続で視聴した」など、賛否入り混じったコメントが殺到しました。「文化は違えど“爽快ポイント”は共通」という気付きが、多くのユーザーの共感を呼んでいます。
海外市場をさらに開拓するため、中国企業が出資するショートドラマ・プラットフォームのReelShort やTop Shortなどは現地キャストを起用し、脚本もローカライズしたリメイク版を制作しています。女性向けのミニドラマを中心に、「内容+フォーマット+ローカライズ」という組み合わせで欧米視聴者の扉を勢いよく開けています。
また、中国系動画サイトは自社が権利を持つドラマを YouTube に同時配信することもあり、コメント欄には華人のみならず欧米の視聴者も活発に参加しています。作品が特別に海外向けの演出を施していなくても、自然と文化と言語の壁を越えている――この事実は「文化の隔たり」は思ったほど高くないことを示唆します。
中国ドラマが届けるのは娯楽だけではありません。そこには価値観、ライフスタイル、文化的アイデンティティ、そして時代精神が込められています。海外の視聴者は、現代中国人の家族愛や友情、理想と葛藤が自分たちと本質的に変わらないことに気づきます。まさにその点において、中国ドラマはソフトでありながら確かな力で、世界の文化交流の中に着実な居場所を築きつつあるのです。
次回は、中国のショート動画やSNSが開く世界への扉についてレポートします。
