未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

不動産依存の価値観からの脱却 その1 2025.06.18 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

  • facebook
  • twitter

住宅価格が上がらないことによる不安の広がり

 「私のマンション、以前500万元で購入したのに、今年同僚が同じ建物の上の階を400万元台で買いました……」「もう本当に頭にきます!私のこの部屋、仲介に1年間出していて、100万元以上から値下げして今では90万元台なのに、誰からも問い合わせがなくて、最近なんと60万元台に値切ってきた人までいます。バカにされている気分です!」——こうした、家を買ったり売ったりしたことで損をしたと嘆く投稿が、中国のSNS上にはあふれています。

 かつては「家を売らずに持っていれば、勝手に値上がりするものだ」「家を数軒持っていれば、将来に対する不安なんてない」という感覚がありました。家とは、経済力と将来の安定を象徴するものでした。しかし今では、家は「負債」や「損失」といった否定的な言葉と結びつくことが多くなっています。

 ネットでは、こんなジョークも見かけます——「資産運用の担当者に20万元損させられたけど感謝している。あの時、もし家を買っていたら、きっと200万元は損していたと思うから」。数十年にわたって中国の一般家庭にとって最も重要な投資手段だった「住宅」ですが、近年ではその魅力が急激に低下しています。「家の値段が上がらない」——この言葉が、ここ数年の中国家庭の資産について語る上で、キーワードになっているのです。それは決してメディアが煽っているだけではなく、今まさに多くの家庭の生活判断にじわじわと影響を及ぼしている現実です。複数の不動産を持つ親世代は、「余った家を売るべきか」と考えるようになり、若者は「家を買う」という執着から離れつつあります。銀行の理財商品の年利は3%を下回り、「住宅ローンの繰り上げ返済」が話題になるほどです。

 この20年間、中国の一般家庭にとって、資産を増やすための道筋は非常に明確でした。——一生懸命働き、お金を貯め、頭金を払って家を買う。家の価格が上がったら、2軒目を買う。そうして資産を増やす。ところが、いまこの道が突然断ち切られたように感じます。時代の恩恵を受けられなかった若者として、私たちは問いかけます。私たちは、何を頼りに豊かになれるのでしょうか?給料だけで、この先何十年もの生活を本当に守れるのでしょうか?もし将来リストラされて収入がなくなったら、何を頼りに生きていけばいいのでしょうか?

 私たちの世代は、不動産という「富の神話」の中で育ってきました。誰もが似たような「成功物語」を耳にしたことがあるはずです。例えば、隣人や親戚が複数の家を所有していて、働かずに毎月家賃収入だけで暮らしている、という話。誰の心にも、「家主になって楽して稼ぐ」という夢が一度はよぎったことでしょう。でも、その夢は今、どんどん遠ざかっているように感じられます。

 以下の2つの住宅価格の推移グラフを見ると、中国の代表的一線都市である北京と上海において、新築マンションと中古住宅の価格は、2015年から2016年にかけて急上昇していることがわかります。しかし2023年には、両都市とも中古住宅の価格に明らかな下落傾向が見られます。特に北京の新築住宅価格の下落が顕著であり、上海は比較的安定しているものの、全体的に住宅価格の下落傾向は否めません。

(北京・上海,2011.01-2025.04新築住宅価格指数の推移)

出典:东方财富网

(北京・上海,2011.01-2025.04中古住宅価格指数の推移)

出典:东方财富网

 新築住宅の価格変動と比べて、中古住宅の価格下落は、不動産を資産と考える家庭にとって、より大きな影響を与えています。

 多くの家庭は、人生の貯蓄を不動産市場に投じ、その目的は資産の保全や価値の向上でした。しかし現在では価格が下落し、もともと「堅実な投資」であったはずのものが、逆に見えない負担へと変わりつつあります。こうした資産の目減りによる心理的な衝撃は非常に大きく、たとえ家自体は変わっていなくても、価格の下落によって「損をした」という感覚を持つ家庭が増えています。特に、不動産によって資産の純額を増やそうとしていた人や、住環境の改善や子どもの教育資金のために売却を計画していた人にとっては、期待していた収益が得られなくなり、財務計画の見直しを余儀なくされ、生活の負担もさらに増しています。

 さらに、現在の不動産市場は低迷しており、売り出し期間は長期化し、価格交渉の余地も大きくなっています。その一方で、不動産仲介業者による様々な“テクニック”が横行し、資金繰りに急を要する家庭においては、やむを得ず値下げして売却せざるを得ないケースもあり、実際の損失が拡大してしまうこともあります。また、住宅価格の下落は、一部の中年世代が想定していた「住宅を老後資金に充てる計画」にも混乱をもたらしています。本来であれば、老後に家を売却することで生活資金を確保する予定だった人にとって、この方法がもはや安定した選択肢ではなくなりつつあり、資産運用の見直しを迫られているのが現状です。要するに、中古住宅の価格下落は、中間層にとって単なる帳簿上の数字の減少にとどまらず、将来の収入、消費、資産配分に対する信頼や安心感にも影響を与えているのです。

 とはいえ、市場からは前向きな兆しも見え始めています。中国国家統計局の最新データによれば、2025年4月の全国主要都市における住宅の販売価格は、前月比では横ばいまたはわずかに下落し、前年比の下落幅も縮小傾向にあります。

 一線都市における新築商品住宅の販売価格は、前年比で2.1%の下落となりましたが、前月と比べて下落幅は0.7ポイント縮小しました。そのうち、上海は5.9%の上昇を見せ、北京・広州・深圳はそれぞれ5.0%、6.3%、3.0%の下落となりました。二線・三線都市の新築住宅販売価格は、それぞれ前年比で3.9%および5.4%の下落となり、下落幅はそれぞれ0.5ポイントと0.3ポイント縮小しました。一線都市の中古住宅販売価格は前年比で3.2%下落し、前月より0.9ポイント下落幅が縮小しました。具体的には、北京・上海・広州・深圳では、それぞれ1.0%、0.6%、7.4%、3.7%の下落となっています。二線・三線都市の中古住宅価格は、それぞれ前年比6.5%および7.4%の下落で、下落幅は0.5ポイントと0.4ポイント縮小しています。」

 私たち一般市民にとって、市場の将来を正確に予測することは難しいかもしれませんが、大切なのは冷静な気持ちを保ち、自分の本当のニーズを見極め、目先の価格変動に振り回されないことだと思います。

次回第2回は、日本のバブル経済時代との比較、住宅価格の下落が私たちの生活にもたらす影響について考えていきます。

by ヨシミ

ブログ一覧に戻る

HOMEへ戻る