未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

米中貿易摩擦――対立から共存へ その1 2025.07.16 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

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Ⅰ.はじめに

 ここ数年、私たちの日常生活や仕事、さらにはスマートフォンで目にするニュースに至るまで、米中関係という話題を避けて通ることはできません。その大きな文脈の中でも、とりわけ注目を集めているのが米中貿易摩擦です。「関税」「報復措置」「デカップリング」「半導体禁輸」―こうした言葉をニュースで耳にしない日はありません。それでも多くの方は、心のどこかで疑問に思っていらっしゃるのではないでしょうか?この貿易摩擦は一体いつ、どのように始まったのか。何を変え、あとどれほど続くのか。そして、私たちの暮らしにどのような影響を及ぼすのか、と。

Ⅱ.貿易戦争の開戦――関税を武器に

 2017年8月、トランプ大統領が就任してから8か月後、米国政府は中国を対象に通商法301条(いわゆる「301条調査」)に基づく調査を開始しました。米国側は、中国による知的財産権侵害や強制的な技術移転政策が米国企業の利益を損なっていると主張し、ここに米中貿易摩擦の幕が切って落とされました。301条は冷戦期に整備された単独制裁権限で、外国の法律・行政措置が米国の利益を損なうと判断した場合、米国が一方的に対抗措置を講じることを認めています。

 興味深いのは、そのわずか数か月前まで両国が「良好なムード」を演出していたことです。2017年5月には《米中経済協力百日計画(早期成果)》(英名: “U.S.–China Economic Cooperation 100-Day Plan – Initial Actions”)が発表され、両国首脳のフロリダ州マー・ア・ラゴ会談後には「百日計画」が順調に進展しました。同年7月には「中米包括経済対話」で「一年計画」まで協議が深まり、一見すると関係改善へ向かうかに見えました。ところが、そのわずか1か月後、情勢は急転直下します。

急変の背景

 中国側の専門家は「トランプ政権は発足後200日前後でも目立った政権実績を示せず、国内の右翼勢力から対中強硬を迫られていた」と分析しています。一方、米国政府の覚書は「中国の知財侵害と不公平な技術移転が米企業の競争力を損ない、雇用や輸出機会を奪っている」と指摘し、対抗措置の正当性を強調しました。

関税合戦のエスカレーション

 2018年、米国は「国内産業の保護」と「中国の不公正貿易行為の是正」を掲げ、中国からの輸入品500億ドル分に25%の追加関税を課しました。これが関税戦争の第一撃となります。中国も直ちに報復関税で応酬し、以後、双方は互いに関税を積み増す“報復の連鎖”へと突入しました。

 2020年1月、両国は「第一段階通商合意」に署名し、一時的な休戦状態に入ります。しかし、その後バイデン政権はトランプ政権下の関税措置を維持しつつ、「対中デカップリング」(英文: decoupling from China / U.S.–China economic decoupling)や「フレンドショアリング(友好国への生産移転)」(friend-shoring of supply chains)を掲げ、中国をサプライチェーンから排除する方針を打ち出しました。さらに2022年8月成立の《CHIPS and Science Act》では、米国の半導体産業に巨額投資を行う一方、対中投資や先端半導体装置の輸出を厳しく制限する政策が相次ぎます。

背景にある深層的な競争

 表面上は関税を巡る“価格の応酬”に見えますが、その背後にはより深刻なパワーゲームが潜んでいます。米国はハイテク・製造業を中心とする競争優位が中国に奪われることを警戒し、中国は外部圧力に左右されない自立発展の道を模索しています。こうして米中貿易摩擦は単なる「輸出入の額合わせ」ではなく、両大国の産業・技術戦略を賭けた長期的な攻防へと姿を変えたのです。

次回は、米中貿易摩擦が内包する複雑な相互依存や実像について検証します。

by ヨシミ

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