未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む

中国市場における日本企業の現在地:課題と反転の条件 その2 自動車・コスメ業界の勝敗ライン 2025.08.20 未来はここにある 中国Z世代のリアルを読む by ヨシミ

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Ⅲ.自動車—スマート化元年の勝敗ライン

 中国乗用車市場(CPCA等)のデータでは、2024年の中国市場における日系ブランドのシェアは13.4%(2024年12月)まで低下し、2019年比で大きく下がった【注3】。かつての「日系三強」—トヨタ、ホンダ、日産—はいずれも、新エネルギー車(NEV)市場で確固たる足場を築けていない。

 なかでも日産の苦境は際立つ。2023年の中国販売は前年から大幅減。主力のシルフィ(轩逸)は2年連続で減少し、BYDの「秦PLUS」に逆転される局面が続いた【注4】。秦PLUSは価格・車内空間・動力性能・装備水準に加え、NEVの“緑ナンバー”による走行規制優遇も相まって、競争力を高めている。

 政策面で見れば、日系はかつてハイブリッド市場をリードしたが、中国の政策と消費嗜好を読み違えた。中国の政策が後押しするのは純電動(BEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)であって、従来型ハイブリッド(HEV)ではない。消費者はスマート・コックピット、車載エンタメ、OTAアップデートを志向する。日本の自動車メーカーは機械設計には長ける一方、ソフトウェア力やユーザーインターフェース、インテリジェントシステムでは中国のローカル勢に後れをとっている。

 2024年は「自動車スマート化元年」と広く認識された。報道によれば、この一年、中国の自動車産業は自動運転、コックピット、シャシー、電池など多領域でブレークスルーを重ね、大規模言語モデル(LLM)に代表される技術が自動車製品に実装された【注5】。世界知的所有権機関(WIPO)の『2024年グローバル・イノベーション・インデックス(GII)』でも、中国のイノベーション力は前年から1つ順位を上げて世界11位となった【注6】。

 2025年の中国の若年層は、もはや日系車を“第一選択”とは見なしていない。彼らはテスラ、NIO(蔚来)、XPeng(小鵬)といった新興ブランドをより好み、「よりスマート」で「よりハイテク」だと受け止めている。

 技術革新と歩調を合わせて、マーケティングの革新も中国ローカル勢の大きな見どころとなった。かつて自動車市場は「プロダクトが王」「技術が王」とされたが、今は「流量(トラフィック)が王」の時代へ移行しつつある。シャオミ創業者の雷軍やNIOの李斌をはじめ、経営者が前面に出て発表会の壇上に立ち、ライブ配信で自ら売り、オーナーのドアを開けてその場で機能を実演する—そんな振る舞いが強烈な話題性と感情的共鳴を生む。

 「CEO=ブランドの顔」という様式は、ブランドと消費者の距離を縮めただけでなく、スマートカーそのものを、革新精神・ソーシャル性・時代の文脈を担う“スーパー・プラットフォーム”へと押し上げた。技術理解やトレンド判断とコンテンツ発信を深く融合させる中国ローカル勢は、依然として伝統的な4S店モデル(販売・サービス・スペアパーツ・情報フィードバック)と低頻度の広告投下に固執する日系メーカーより、ユーザー獲得で大きく先行している。

ミニ用語集(自動車/マーケティング)

Ⅳ.「私域×物語」で中国ブランドが伸びる理由

 自動車だけでなく、化粧品でも日系は中国・韓国ブランドとの競争圧力が高まっている。日系コスメはかつて「成分の安全性」「敏感肌に優しい」点で名を馳せたが、中国ブランドの台頭とともに、その優位は上書きされつつある。フローラシス(花西子/Florasis)は処方と物語設計を東方美学に密着させ、パーフェクトダイアリー(完美日記/Perfect Diary)は“手頃なのにラグジュアリー”という立て付けを的確に打ち出す。フラワーノーズ(花知晓/Flower Knows)の華麗なパッケージは海外でも火がついた。実用性や成分だけではなく、見た目とブランドストーリーが、いまの消費者の目をさらうのだ。さらに、ドラマや映画、二次元IPとの積極的なコラボが、ブランドの生命力を一段と引き上げている。

 同時に、韓国のラネージュ(Laneige)、イニスフリー(Innisfree)、雪花秀(Sulwhasoo)などは再定位(リポジショニング)と新アンバサダー起用で主流に復帰。ソーシャルメディア上の露出も、しだいに日系を凌ぐ。

 加えて、日系ブランドの多くは大手プラットフォーム中心にECを築くにとどまる一方、中国ローカル勢は淘宝/京東/抖音のフルセットに加え、濃いファンコミュニティや会員ポイント、いわゆる「私域(プライベートドメイン)」ネットワークまで張りめぐらせる。この高効率のコンバージョン導線は、日系が短期間で模倣するのは難しい。

 そのうえ、一部の日本ブランドはプロモーションで日中の文化差を繊細に扱えず、世論の火種を生み離反を招く例もある。対照的に中国ブランドは、「国風審美の復興」や「文化的自信」といった社会的テーマを巧みに言語化し、情緒的な結び目として活用する。こうして彼らは、審美と物語の両輪で共感を編み、売り場を押し広げている。

ミニ用語集(コスメ/D2C)

次回は、日系企業に共通する課題と反転の条件についてレポートします。

※出典は最終回に一括掲載。

by ヨシミ

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