中国のリアル

「高いのにレトルト?」 西貝(シーベイ)冷凍食品騒動にみる、中国の消費者が企業に求めているもの その1 2026.02.13 中国のリアル by ヨシミ

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2025年秋、中国の飲食業界を揺るがした「西貝(シーベイ)冷凍食品騒動」。

発端はインフルエンサー羅永浩氏の告発でした。「飲食店で高いお金を払って、なぜレトルト食品を食べなければならないのか?」という問いは、単なる企業の不祥事を超え、経済成長が鈍化する中国社会における「信頼」の危機を浮き彫りにしました。

新華社の論評、産業構造の変化、そしてかつての日本が歩んだ道との比較を通じて、中国の消費者が今、企業に何を求めているのかを徹底的に分析します。

【第1回】 西貝(シーベイ)冷凍食品騒動から考える、中国消費者の「信頼」問題

 中国の飲食市場は、実に興味深い転換点に立っています。

 表面だけを見れば、パンデミックの影はとうに消え去り、オフラインの消費シーンは全面的に回復し、飲食店には再び活気が戻っています。国家統計局のデータを見ても、社会消費財小売総額は緩やかな成長を維持しており、飲食収入も回復基調にあります。

 しかしデータの背後で、消費心理はひっそりと、しかし確実に変化しています。貯蓄率は高止まりを続け、若年層の雇用圧力は上昇。「リベンジ消費」という情緒は徐々に退場し、代わって現れたのは、より慎重で、コストパフォーマンスと真の価値を強調する消費態度です。消費者はもはや単純にブランドの光輪(ハロー効果)を追いかけることはなく、「私が支払う価格は、私が得る価値に見合っているか」をより気にするようになっています。

 こうしたマクロな背景の下、西貝莜面村(西貝(シーベイ)莜麺店 以下「西貝」)の「調理済み食品(預制菜)」を巡る論争が急速に広がり、2025年秋を代表する飲食業界の事件の一つとなりました。 表面上、この騒動は「調理済み食品を使用しているか否か」を巡るものですが、より深いレベルでは、情報の透明性、価格のプレミアム(上乗せ)、そして工業化生産が伝統的な飲食のイメージに与える衝撃に触れています。

 この論争が広範な共感を呼んだ理由は、今の中国消費社会における最も敏感な神経――「信頼」を直撃したからです。 この議論の起点は、ある一つのWeibo(微博-中国のSNS)への投稿でした。

羅永浩氏の発言と世論の爆発

 2025年9月10日、羅永浩(ルオ・ヨンハオ)氏はWeiboに、「久しぶりに西貝を訪れたが、ほとんどが調理済み食品(預制菜)であり、それなのにあんなに高価だった」と投稿しました。そして、国家に対して早急に立法を行い、レストランが調理済み食品を使用しているかどうかの表示を義務付けるよう呼びかけました。

 羅永浩氏は以前から直言で知られており、中国のインターネットにおいて高い知名度と影響力を持っています。彼は起業家であると同時に、公的なオピニオンリーダーでもあり、膨大なファン基盤と拡散力を持っています。わずか数時間で、この投稿は大量に転載・コメントされ、急速にトレンド入りしました。

 世論の焦点はすぐに、「西貝が調理済み食品を使用しているか」から、「消費者は十分に知らされていたか」へと拡大しました。多くのネットユーザーは調理済み食品そのものに反対しているのではなく、「価格と調理方法が釣り合っているか」を疑問視したのです。多くの「いいね」を集めたあるコメントには、こう書かれていました。 「調理済み食品であることは気にしない。気にするのは、それを『店内で炒めた料理』として売っていることだ」

 圧力に直面し、西貝は迅速に反応しました。 9月11日、創業者の賈国龍(ジア・グオロン)氏は記者会見を開き、「調理済み食品の使用」という説を否定し、法的手段を通じて企業の名誉を守ると表明しました。

 翌9月12日、西貝は「顧客への手紙」を発表し、羅永浩氏が当日注文した13品の調理プロセスを公開しました。店舗での現場加工のプロセスを強調し、さらに一般向けに厨房の見学を開放することや、回答としていわゆる「羅永浩メニュー」をオンラインで公開することまで宣言しました。

 しかし、世論はこれによって沈静化しませんでした。 一部のメディアや個人メディアのブロガーが実地調査を行ったところ、西貝がセントラルキッチンで使用している冷凍食材の賞味期限が、18ヶ月から24ヶ月にも及ぶことが判明したのです。

 冷凍すること自体がそのまま安全性の問題に直結するわけではありませんが、「18ヶ月」という数字はソーシャルメディアの文脈において極めて強い衝撃力を持ちました。西貝は近年、子ども向けメニューを主力とし、家庭に優しいイメージを強調してきたため、一部のネットユーザーからは「子どもの年齢よりも食材の賞味期限の方が長いかもしれない」と揶揄されました。さらに、「料理人が調理師免許を持っているか」といった議論も拡大し、感情的な反発が積み重なっていきました。

 その後、告発者の羅永浩氏は「決定的な証拠」を募集するために10万元の懸賞金を出すと発表。自分が反対しているのは調理済み食品そのものではなく、事業者が曖昧な表現をし、消費者の知る権利を侵害していることだと強調しました。 一方、西貝側は「前加工」と「調理済み食品」を区別することに固執し、セントラルキッチンでのカットや下味付けは完成品の調理済み食品には属さず、店舗で最終的な調理を完了しているため、調理済み食品と定義されるべきではないと主張しました。

 論争は概念レベルの綱引きに入りました。 9月15日、持続的な世論の圧力を受け、西貝は謝罪文を発表。「生産プロセスと顧客の期待に差異が存在した」ことを認め、一部の前加工プロセスを店舗現場へ移すこと、一部食材の賞味期限を短縮すること、情報コミュニケーションを強化することなどの改善措置を発表しました。これに対し同日、羅永浩氏は関連責任をこれ以上追及しないと表明しました。

 事件は形式上、一段落しました。しかし、議論は終わっていません。 なぜなら、この騒動は既に個人と企業の争いを超え、現代の消費社会における「信頼構造」に関する公共的な議論となっていたからです。


次回は、「新華社の問いかけと、騒動の背後にある経済・文化構造」についてお話しします。

国営メディアが介入し、議論はどう変わったのか? そして効率を求める企業と「鍋気(中華鍋の香り)」を求める消費者の深い溝について掘り下げます。乞うご期待。

by ヨシミ

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