【第3回】 日本の過去、中国の現在:透明性が信頼を創る
前回までのあらすじ:
企業の効率化の論理と、消費者の「手作りの物語」への渇望が衝突。経済環境の変化とSNSがそれを増幅させました。では、企業はこの先どう信頼を築けばよいのでしょうか?
■食品関連企業はいかにして工業化時代に信頼を再建するか
西貝の事件後、企業はプロセスの説明と現場での調理比率を強化しましたが、真の課題は長期的な信頼メカニズムの構築にあります。工業化は原罪ではありません。重要なのは、生産方式を誠実に提示するかどうかにあります。
もし視線を日本に向ければ、非常に興味深い対照が見つかります。
今日の日本社会において、調理済み食品、冷凍食品、セントラルキッチンはとっくに日常生活の一部となっています。コンビニの弁当であれ、スーパーの惣菜であれ、あるいは家庭の冷蔵庫の中の冷凍餃子、揚げ物、ラーメンであれ、工業化生産はすでに食の構造の中に深く入り込んでいます。日本の消費者のこのモデルに対する受容度は概して高く、一部のカテゴリーにおいては、冷凍食品が現地での調理よりも安定的で安全だとさえ考えられています。
このプロセスは、実は一朝一夕に成し遂げられたものではありません。
日本の冷凍食品産業が本格的に離陸したのは、1970年代以降です。女性の就業率の上昇、家族構造の小型化に伴い、社会の「時短・省力」食品への需要が急速に拡大しました。日本冷凍食品協会のデータによると、日本の冷凍食品市場規模は長期にわたり7000億円以上を維持しており、一人当たりの消費量はアジアでトップレベルにあります。2020年前後には、パンデミックの影響を受け、家庭内消費が増加し、冷凍食品の需要はさらに高まりました。
しかし産業発展の初期において、日本社会も同様に「工業化食品」に対する疑念を経験しています。特に1980年代以降、食品添加物やラベルの不明瞭さなどの問題について、何度も世論の論争が引き起こされました。消費者は「加工食品は健康なのか」「企業は情報を隠していないか」という不信感を抱いていました。
消費者の態度を変えたのは、透明化制度の確立です。日本は食品表示制度、原産地表示、アレルゲン提示などの面で、緻密で厳格なルールを確立しました。企業がもし虚偽の表記を行えば、社会的な世論と監督官庁の処罰は非常に厳しいものとなります。長い時間をかけ、日本の消費者は「工業化」そのものに抗うのではなく、信頼を制度とブランドの信用の上に築くようになりました。
例えば、味の素、日清食品、伊藤ハムといった企業は、長期的な経営の中で安定した品質イメージを形成しました。セブン-イレブンのようなコンビニでは、そのセントラルキッチンモデルは高度に成熟していますが、消費者はそれによって「騙された」とは考えません。その理由は、製造プロセスが公開・透明であり、製品のポジショニングが明確で、価格と品質の期待がマッチしているからです。
言い換えれば、日本では「工業化を疑う」ことから「工業化を受け入れる」ことへの心理的な転換を完了したということです。
中国は今、類似した段階を経験しています。もし西貝の騒動をこの歴史的な視点の下に置けば、中国はおそらく日本がかつて通った十字路に立っていることが分かります。
中国の調理済み食品市場の規模は近年急速に拡大し、依然として成長を維持しています。しかし消費者の心理はまだこの転換に完全には適応していません。多くの人にとって、レストランは「現場製造」の価値観を象徴しており、ひとたび背後に標準化プロセスが存在することを発見すれば、心理的な落差が急速に現れます。
日本と異なるのは、中国ではこのプロセスがより速く起きていることです。ソーシャルメディアが世論を増幅させ、公衆の議論はより集中します。一つのWeiboのトピックが、24時間以内に数億回の閲覧数を獲得することもあります。この伝播速度もまた、信頼の問題を拡大させます。
しかし、より長期的な視点で見れば、中国の消費者は効率を拒絶しているのではなく、効率と誠実さの間でバランスを見つけることを望んでいるのです。ラベルがより明確になり、価格のロジックがより合理的になり、情報がより公開されれば、工業化された飲食は必ずしも市場を失うわけではありません。逆に、それは生活リズムが加速する社会における必然的な選択となる可能性があります。
■ 結語
西貝の冷凍食品騒動はおそらく徐々にニュースの紙面から消えていくでしょう。しかし、それが提示した問題は消えません。中国の消費社会は高速拡張から構造調整の段階へと向かっており、数量の成長から品質と透明度の競争へと向かっています。消費者が問い始めているのは、単に「美味しいかどうか」だけでなく、「私は尊重されているか」ということです。
信頼は、企業にとって最も数値化しにくいものの、最も重要な資産です。それは一度の記者会見で完全に修復できるものではなく、広告を積み重ねることでも得られません。それは持続的な情報の公開、合理的な価格設定、そして消費者の知性に対する尊重の上に築かれます。
中国社会が「満腹になる」ことから「納得して食べる(吃得明白)」ことへと向かう時、企業と消費者の間の関係は再定義されつつあります。西貝事件が引き起こしたのは、単なる冷凍食材に関する論争ではなく、現代経済においていかに効率と真実(リアル)の間でバランスを見つけるかという問題なのです。
工業化の波が不可逆な今日において、真にブランドの未来を決定するのは、おそらく調理済み食品を使用するかどうかではなく、消費者に誠実に向き合う意思があるかどうかでしょう。なぜなら、この情報が高度に透明な時代において、信頼こそが最も貴重な資本であり、同時に最も流出しやすいリソースだからです。
<気になる中国語>
- 预制菜(Yù zhì cài / ユージーツァイ)
- 日本語訳: 調理済み食品(ミールキット、レトルト含む)
- 意味: 工場で事前に下処理や加熱調理が済まされ、店舗では温めるだけで提供できる食品のこと。効率化の切り札として急拡大したが、消費者の間では「手抜き」「鮮度が低い」というネガティブな印象も強く、今回の騒動の中心となった言葉。
- 锅气(Guō qì / グオチー)
- 日本語訳: 中華鍋の熱気
- 意味: 強火で一気に炒めることで生まれる、独特の香ばしさや食材の躍動感のこと。中国の食文化において「料理の魂」とされる。工場で作られたレトルト(預制菜)には決定的に欠けている要素であり、消費者が最も喪失感を抱いているポイント。
- 烟火气(Yān huǒ qì / イェンフオチー)
- 日本語訳: 竈(かまど)の煙と火、生活の活気
- 意味: 直訳すると「調理の煙や火の気配」だが、転じて「人間味のある生活の賑わい」「庶民的な温かさ」を指す。街の活気を表す際によく使われる。西貝のようなレストランに人々が求めていたのは、まさにこの「烟火气」だった。
- 现炒(Xiàn chǎo / シエンチャオ)
- 日本語訳: 注文を受けてから炒めること
- 意味: 文字通り「現場で炒める」こと。作り置きやレトルト加熱の対義語として使われる。「現炒」であることは、中華料理店における品質と誠実さの証と見なされており、今回の騒動では「現炒だと思って注文したのに……」という文脈で頻出した。
- 报复性消费(Bào fù xìng xiāo fèi / バオフーシンシャオフェイ)
- 日本語訳: リベンジ消費
- 意味: 何らかの抑制(コロナ禍のロックダウンなど)から解放された反動で、爆発的に消費を行うこと。記事中では、この熱狂的な時期が過ぎ去り、人々がより冷静で理性的な消費態度(コスパ重視)に戻ったという文脈で登場する。
【SUGENA CEO 雑感】
著者から、今回のテーマを提案された際、正直に言うと私はこの「西貝事件」を知りませんでした。事実、日本ではほとんど報道されていないかと思います。しかし少し調べてみると非常に示唆に富む事象だと感じ、執筆をお願いしました。実際に届いた原稿を読むと、この騒動が単なる食品炎上ではなく、現在の中国社会の本質を表した事件だったことが分かります。
例の高市首相発言以降、一衣帯水であるはずの日中関係は冷え切っていますが、政治的な冬の時代だからこそ、私たちは互いを「知る」ことを止めてはいけないと思います。
理解の断絶こそが最大のリスクです。隣国のリアルな体温を感じ、冷静に見つめ続けること。この記事が、その小さな架け橋になればと願っています。
