【特別企画】社長対談

「この3年間の政治経済環境の変化と日中協力」
政策研究大学院大学 篠田邦彦教授 Vol.1(全3回) 2023.08.01

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株式会社SUGENA代表須毛原 勲が多彩なゲストと様々なテーマで語りあう、特別企画がスタートしました。
記念すべき初回のゲストには、政策研究大学院大学 篠田邦彦教授をお招きしてお話をうかがいます。

【特別企画】社長対談 ゲスト 政策研究大学院大学 篠田邦彦教授

役職:教授、参与(政策研究院)

学位:米国カーネギーメロン大学産業経営大学院(GSIA)で修士号を取得

専門分野:通商政策、国際経済政策

現在の研究対象:アジア経済、アジア地域経済統合、インド太平洋協力

1988年に通商産業省(現在の経済産業省)に入省後、APEC室長、資金協力課長、アジア大洋州課長、通商交渉官等を歴任し、主としてRCEP等の経済連携協定交渉やASEAN・中国・インド等との経済・産業協力の業務を担当。また、在フィリピン日本国大使館、海外貿易開発協会バンコク事務所、石油天然ガス・金属鉱物資源機構北京事務所、日中経済協会北京事務所などアジアでの勤務経験が長い。2019年より政策研究大学院大学に出向し、2022年に政策研究大学院大学教授に就任。アジア経済、インド太平洋協力等の研究・教育に従事。

篠田邦彦教授
  1. Vol.1「この3年間の政治経済環境の変化と日中協力」政策研究大学院大学 篠田邦彦教授 Vol.1(全3回)
  2. Vol.2「経済安全保障面から見た日本企業とアジアについて」政策研究大学院大学 篠田邦彦教授Vol.2
  3. Vol.3「アジア太平洋地域、アフリカまで視点を広げて」政策研究大学院大学 篠田邦彦教授 Vol.3

ー 須毛原
今回はこのような機会をいただきありがとうございます。2017年、私が東芝の中国総代表として中国に赴任した際、篠田先生が当時日中経済協会の北京事務所長でいらっしゃって、毎月1回北京で実施している日本商会の理事会で初めてご挨拶させていただきました。その後先生はすぐ帰国されましたが。

ー 篠田
自分も2017年の7月まで中国の北京に駐在していました。

ー 須毛原
そうですね。その後私が帰国して会社を設立した後にご連絡させていただいて、先生からいろいろな方々をご紹介していただきました。その後当社のネットワークも徐々に広がり、この8月で設立3年を迎えます。これまでは日本企業の中国進出もしくは中国企業の日本での事業展開を主に支援して来ましたが、昨今の米中関係をきっかけとして日中関係も必ずしも良好な関係とは言えない中で、今後は日本企業の東南アジア進出に関しても積極的に支援していきたいと考えております。実際に、インドネシア、タイ、マレーシアなどへの進出に関する案件も増えてまいりました。

篠田先生は経済産業省ご在籍中、まさにRCEPの締結にご尽力され、フィリピンやタイに駐在され、その上で日中経済協会の北京事務所長として北京にもいらっしゃいました。
現在は政策研究大学院大学でアジア経済やインド太平洋協力に関する研究をされ、2020年にはインド太平洋協力に関する日本政府への政策提言をまとめられました。

当社は8月から社名を変更し、対象地域を中国だけに限らず東南アジアに拡げ、日本企業の東南アジア進出、そして東南アジアの企業の日本進出を支援していきたいと考えております。そういった中で、中国だけではなくインドを含めたインド太平洋地域を研究され、様々な政策提言をまとめていらっしゃる篠田先生に、昨今の政治経済環境の中で、日本企業が今後、中国や東南アジアとどのように付き合い、事業発展していけばよいのかということに関していろいろとお話を伺えればと思います。

ー 篠田
はい、よろしくお願いします。

この3年の政治経済環境の変化と今後の課題

ー 須毛原
篠田先生がインド太平洋協力に関する政府への政策提言をまとめられたのが、2020年10月ということで、それからほぼ3年近くが経とうとしています。当時はCOVID-19が世界中で蔓延しつつあり、コロナパンデミックが大きな社会的な危機になっていました。それから3年経って完全にコロナが収束したとは言えませんが、あの頃とは状況がずいぶん変わってきています。一方で、その間の一番大きな出来事は、やはり2022年2月のロシアのウクライナ侵攻ということだと思います。
昨今の国際的な状況も、俗に言う台湾有事などのリスクが指摘されています。一方で経済としては、新聞などを読んでいても、CPTPPもあるしAPECもRCEPもある。最近はIPEFとかQUADとか、いろいろな枠組み、経済的な枠組みと安全保障的な枠組みが出てきています。その辺も含め、2020年と今ではどのように政治経済環境、安全保障上の観点も含めて変わってきたのか、というところをお伺いしたいと思います。

ー 篠田
今、須毛原さんからお話をいただいた2020年10月というのはちょうどパンデミックが始まってから半年ぐらいたった頃ということで、当時政策提言を書いた時には、地政学的な変動の要因として米中対立、パンデミック、その二つを大きく取り上げていました。その後2022年の2月にロシアのウクライナ侵攻が始まり、そういう意味では地政学的に見ると、より変動が大きくなっていったということですね。それからそういった安全保障上の問題以外にも、今後アジアの20年ぐらいに大きな影響を与える変動要因としては、例えば気候変動。それから今回パンデミックを経て明らかになったのですが、各国での経済面、あるいは社会的な格差が拡大しているということ。それから中長期的に言えば人口動態が変化をして、中国などは今後人口が減少していきますが、インドやインドネシア、そういった国々は人口が増えてさらに市場が拡大していくと。様々な要因が変化する中で、この地域の国際秩序の安定化や国際協力の推進をいかに進めていくかというのは、今後も課題になるかと思います。

安全保障面でいうと、ロシアのウクライナ侵攻によって欧州の安全保障危機というものが起きたわけですが、東アジアにおいても将来、安全保障上の危機が起きないようにきちんとこの地域の国際秩序を安定化していくということが大事だと思います。経済面でいうと、先ほど申し上げた経済、社会面の格差以外に、パンデミックやあるいはロシアのウクライナ侵攻によって食料品やエネルギーの供給の不安定化による価格の高騰、それに伴うインフレのような問題が起きました。また、従来から顕在化している環境・エネルギー、都市化、少子高齢化など様々な構造的な変化に伴う社会課題があってそれをいかに解決していくかが大事です。いわゆる国連のSDGsに対応したような、解決のためのソリューションを提供していくということは、大きな課題になっているのではないかと思います。

ー 須毛原
そうですね。非常にいろいろな課題がこの3年間で出てきていると思います。まず気候変動については、まさに2019年、国連の総会で中国の習近平主席が、俗に言う「3060ダブルカーボン」ということで2030年までにカーボンピークアウト、2060年までにカーボンニュートラルを達成すると発表しました。一方で日本は2050年にカーボンニュートラルを実現すると。日本は既にカーボンピークアウトしているが中国はまだカーボンピークアウトまでいっていないということです。2015年にパリ協定があり気候変動に関しての議論が非常に盛り上がったと記憶していますが、コロナのパンデミックとロシアのウクライナ侵攻もあって、何となく気候変動問題は最近少し影が薄くなっているような気がしています。
例えば中国のCO2排出量は2018年の時点で世界の30%ぐらいに達しています。一方日本は3%です。そういったところで、日本と中国、また日本と東南アジアというのが、これは競争関係なのか協力関係なのか。その辺は日本企業として、これをビジネスチャンスと捉えられるのか、若しくは守りとしていろいろなことを考えていかなくてはいけないのか、その辺はいかがでしょうか。

ー 篠田
気候変動問題の解決については大きく分けて二つの取り組みの柱があって、一つは緩和もう一つは適応ということです。緩和というのはCO2の排出削減をいかに進めていくかということ。適応というのは、CO2の排出による気候温暖化によって、台風の発生が増え、集中豪雨が起きていますが、そのような自然災害によって都市あるいは地方の農村などが受ける被害をいかに未然に防いでいくかということです。そういう二つの取り組みがありますが、両方ともビジネスの可能性はあるとは思います。

特に前者の緩和については、ヨーロッパ諸国では再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいます。アジアの国を見てみた場合に、石油や石炭といった化石エネルギーへの依存度がまだ高い。そういった事実を前提としつつ徐々にエネルギー・トランジションを進めていくということが必要になるかと思います。

そういう意味では日本政府もアジアゼロエミッション共同体という構想を掲げて、短期的にはよりCO2排出の少ない液化天然ガスの導入を進め、再生可能エネルギーの導入だとか省エネルギーも進める。中長期的には、より技術的にレベルの高い、例えば水素だとか燃料アンモニウムの導入、それから二酸化炭素を地中に貯留してそれを再利用するようなCCUSなど、技術水準の高い取り組みを進めていこうとしています。

適応の方について言うと、気候変動の悪影響を緩和するために、災害に強い都市作り、村作りをするということで、災害救援や人道支援にも絡めたインフラ整備のようなことも併せて進めていくことが必要だと思います

社会変化に対応するために日中が協力できることとは

ー 須毛原
水素については、まだまだコスト面で普及に時間かかるという問題がありますが、中国も実は水素には注目していて、そういったエリア、日本企業が中国で水素技術を活用していくようなところで協力を進めていくというのは、日中関係において難しいことではないのでしょうか。ビジネス的に成立するのであれば、どんどん進めていった方がよいのでしょうか。

ー 篠田
そうですね、水素については今、例えばオーストラリア、東南アジアなどで製造した水素を日本に輸入するための水素のサプライチェーンを構築するということと、それから水素を活用した、例えば公共のバスだとか輸送機関を今後広げていくというような話は出ていると思います。中国との関係では『日中省エネ環境総合フォーラム』という、日本の省エネルギーや再生可能エネルギーの技術を中国に伝え、交流するような取り組みを日本はやってきました。今後、『日中省エネ環境総合フォーラム』をよりカーボンニュートラル、気候変動問題の解決に繋がるようなフォーラムにしていこうということで、協力の内容などもうまくアップグレードしていくことができるかと思います

ー 須毛原
気候変動については私もすごく興味をもっています。米中関係が緊張している中で、経済安保とか、その中で例えば半導体分野などでは日中関係の協力は難しいのかなというのが正直申し上げて実感なのですが、どういったエリアで協力ができるかといったとき、一番先に思い浮かぶもののひとつはカーボンニュートラル分野です。例えば水素とか燃料アンモニアとか地熱とか、そういった日本が持っている技術を中国のカーボンニュートラル、CO2削減に貢献できないかなと思いますが、その辺は経済安保的には問題ないでしょうか。

ー 篠田
元々日中が協力できる分野というのはいくつかあると思いますが、中国の社会経済課題の解決に貢献するような分野というのは比較的有力なのではないかと思います。今お話があった気候変動問題の解決、あるいは少子高齢化への対応、そういった分野が有力ですね。

日中が協力できる分野は様々ありますが、不安材料も無いわけではありません。
次回は、経済安全保障面から見た日本企業とアジア、その中での日本企業の道筋について、お話を進めます。

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