黒田法律事務所鈴木龍司弁護士にお話をうかがう第3回。
今回は、鈴木弁護士と中国との関わり、そして最後に日本企業の皆様へのメッセージをうかがいます。
【特別企画】社長対談 ゲスト 弁護士 鈴木龍司(すずき りゅうじ)
弁護士法人黒田法律事務所パートナー、上海代表処首席代表
高校時より中国に興味を持ち、大学、大学院で法律を学ぶ傍ら、中国に携わる仕事を志す。
これまでに、中国法務(日本企業の中国進出案件、日本企業と中国企業との間の各種契約案件、中国子会社の労働紛争案件、中国子会社の知的財産管理案件等)、国内訴訟案件(売買代金請求事件、不公正取引方法差止請求事件等)、及び個人顧客の紛争案件等において、アドバイザー・代理人として関与した。中国法務全般、特に中国における人事や労働管理の分野に深い関心を持つ。
2013年より2017年まで北京に駐在。2023年より上海に駐在。
デジタル化が加速する中国生活
ー 須毛原
さて、ここからは、鈴木先生と中国との関わりを少しプライベートの側面からざっくばらんにうかがっていきたいと思います。
ー 鈴木
まず、今年の4月から上海に赴任しての感想ですが、一つは、中国はすごく便利だなということを感じました。例えば日本だったら、銀行で言えば休みの日はどこの支店も一律で休みなのではないかと思うのですが、今回上海に行ったときにどうしても労働節中に銀行の支店でやりたいことがあって、やっている所があるか探したところ、労働節中でも1店舗か2店舗ぐらいはやっていたりする。そういうフレキシブルなところが日本とは違うと感じました。それから、何かをお願いしたいときにそのサービスが簡単に見つかるということがありました。先日パソコンが壊れたときに「大衆点評」というプラットフォームサイトでお店を探したところ、多くの候補から自分がいる場所からアクセスもよい実店舗で、パソコンを直してくれるところがすぐ見つかるとか、カバンのファスナーを直したいと思って同じく探したところ、これも実店舗がすぐ見つかりました。しかもそれらのお店も結構夜遅くまでやっているとか、そういったところが中国の良さなのかなというのは感じましたね。
ー 須毛原
相変わらずWeChatで何でも支払うという状況ですか?
ー 鈴木
そうですね、基本的にはキャッシュレスになっていて、それは私が前回北京に駐在した13年から17年のときよりもさらに進んでいて、全部キャッシュレスですね。
ー 須毛原
現金は持たれていませんか。
ー 鈴木
現金は全く持っていません。私も最初は一応お財布を持っていましたけれどもうやめました。携帯だけしかいらなくなったので。
ー 須毛原
携帯の電池が切れたら大変なことになりますね。
ー 鈴木
そうですね。ただそれも今は充電器をどこでも借りることができます。完全にゼロだったら駄目ですが、ゼロになる前にコンビニ行けば充電器がどこにでもあるので、それを借りて充電できます。それもQRコードでスキャンしてという感じで。だから以前はモバイルバッテリーは必須でしたが、今はそれも不要です。
ー 須毛原
タクシーは、アプリですか?
ー 鈴木
そうですね、以前と比べて配車アプリも増えました。流しのタクシーがいませんのでホテルで待っていても来ませんし、路上で止めようとしている人も見かけません。
ー 須毛原
自動運転のタクシーも出現していますよね。
ー 鈴木
そうですね。上海でも既に一部のエリアで自動運転のタクシーが始まっています。
あともう一つ、今回上海に行って、前と違うなと感じたのは、上海は特に物価が高いということです。実店舗で買うと何でも日本より高いということをすごく感じました。他方で、ネットだと何でも安く買える。ですから情報がものを言うというか、情報に疎いと暮らしづらいと思いました。
ー 須毛原
では買い物はネットですか?
ー 鈴木
ほぼ100%ネットで、置き配を利用しています。
ー 須毛原
私がいた頃はシェアリングバイクが全盛期でしたが、今はどうですか?
ー 鈴木
上海だと、Alipay(アリババ)のアプリから使用できる自転車とか、WeChatのアプリから使用できる自転車とかが結構ありまして、普段から使っています。やはり街には自転車があふれていて、もちろん止められないエリアもありますが、基本的にはどこでも止められるので通勤時間の駅前は自転車があふれています。
ー 須毛原
中国はデジタル社会化がますます加速されているという感じなのですね。
ー 鈴木
そうですね。
それから、街を歩いている人も、風景も上海は洗練されていると感じます。以前暮らした北京では、オフィスが北京駅の隣にあったということもあるかもしれないですが、この人どこから来たのかなと思うような人もいましたが、上海ではそのようなことはなく、日本とあまり変わらない感じです。いつもいるエリアがオフィス街だからかもしれませんが。
中国の人が日本を見る目、その変化
ー 須毛原
少し話題を変えます。日中関係、米中関係、どちらも難しい問題を抱えていますが、私の肌感覚では、日本より米国の方が政府要人が中国を訪問したり、一生懸命中国と対話している感じがしています。そのあたりはどのように感じられていますか。
ー 鈴木
そうですね。やはり中国市場は非常に魅力的なのかと思います。だからアメリカも表面上は中国と喧嘩しているように見えますけれども、その市場の重要性は理解していて、水面下では仲良くやっていかなくてはいけないということがあるのかなと思っています。
ー 須毛原
鈴木先生は日系の弁護士事務所で日系企業と付き合われる機会もお持ちですし、そこで働いている中国の人たちとも接される機会があると思いますが、中国の人たちの日本に対する考え方に何か変化を感じたりしますか。
ー 鈴木
一言で捉えるにはなかなか難しいですが、一部には、もう日本は超えたというように思っている人もいると思います。だから視点が日本にはあまり向いてない。欧米特にアメリカにはいい意味でも悪い意味でも視点がいっているのではないかと感じます。日本はもうそこまで意識する存在ではなくなっているような雰囲気を一部では感じます。
ー 須毛原
それは私も感じます。実際GDP 1位がアメリカで2位が中国、中国は日本の4倍くらいになっていて、私がビジネスで関わる中国の人たちも非常に自信をつけている感じがします。片や日本はまだそれを認めたくない。今はそういう過渡期なのかなと思っています。
そういった何かお互いの認識にギャップがある中、折り合いをつけて行動することが求められている状況で、アメリカの方が非常にドライで、言いたいことは言うが市場は市場という、その辺がアメリカは本当にうまいなと感じます。
ー 鈴木
そうですね。もちろん中国ビジネスをされていらっしゃる皆様は理解されていると思いますが、もう中国の方が進んでいる部分が少なからずあることは間違いないと思いますので、日本も中国から学ばなくてはいけないことも出てきているということを認識しないといけないと思います。
ー 須毛原
その辺の難しさは非常に感じています。私が「中国から学ぶべきことは学んで、上手につきあう」というような話を日本企業の方にすると、なんで中国に肩入れしているんですか、という話になってしまったりすることもあります。その辺はどうしたら日本企業の皆さんに伝わるでしょうか。
ー 鈴木
確かにそうですね。そもそも報道の偏りとかもあり、バイアスがかかってしまっている部分があると思います。ですので、やはり実際に中国に来てみて客観的な事実を見てもらうしかないと思います。
ー 須毛原
さて、ここまでさまざまなお話をうかがってきましたが、鈴木先生にとって中国は思い入れのある国、ということですね。
ー 鈴木
そうですね。学生時代は中国のことが好きだという感じで接していましたが、今は好きとか嫌いとかではなく、理解が深まるにつれて、興味が尽きないというのが大きいですね。
人も多いし、国も大きいし、いろいろな人がいていろいろな場所があり、ビジネスについてもいろいろな幅があり、そのような意味で非常に興味深い対象だと思っていて、興味は尽きないですね。
ー 須毛原
知的好奇心ですね。
ー 鈴木
正直、法的なところで言っても、明らかに理不尽なことが起きたりもしますが、それを乗り越えてうまく紛争解決に繋がったときは、やりがいを感じたりもしますし、その辺りが今も興味が尽きないところなのかなと思います。
ー 須毛原
今後、もっともっと中国に関わり続け、日本企業を支援して行かれたいというお気持ちが強くなっているとお見受けいたします。
ー 鈴木
そうですね。中国は非常に変化の激しい国で、法律もよくわからないままにどんどん出てくるというようなところもあります。実際に現場で対応されていらっしゃる企業の皆様はご苦労されていると思いますが、我々もそのサポートをすべく、キャッチアップをし、クライアントと一緒に中国ビジネスをやっていければという思いを持っております。
日本企業の皆様へむけて
ー 須毛原
それでは、最後に鈴木先生から、日本企業の皆様に伝えたいことなどございましたら、おうかがいしたいと思います。
ー 鈴木
中国では、これまで同様、債権回収や労使紛争などの法的問題にまつわることから、最近では、知財関連でむしろ日本企業が訴えられるといったような状況、米中の貿易摩擦の板挟みになって対応が非常に難しいというような状況まで生じており、中国ビジネスをされている企業の皆様は非常にご苦労されていると思います。ただ、中国でも遵法意識は高まってきているということは言えると思っています。今まで日系企業は、自分たちは青信号で進みスピードを守ってビジネスしているのに、中国の企業はスピード違反もするし赤信号を無視するし、という印象も持たれていたのではないかとも思いますが、最近は中国の企業もその辺りはきちんとやらないと処罰を大きく受けるようなことになってきています。このような外部環境は、今後日系企業にとってはビジネスがやりやすくなるのではないかと期待しています。そういう意味では、今までももちろんそうだったと思いますが、これからも法律を守りながらビジネスをしていけば、外部環境がそれについてきて、競争という意味ではやりやすくなる可能性もあるのではないかと思っています。我々もその一助になれれば幸いです。
ー 須毛原
本日は、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。僭越ですが、これから中国に進出する日本企業の皆様は、黒田法律弁護士事務所にご連絡してご助力いただくといかがかと思っております。
ー 鈴木
ぜひよろしくお願いします。こちらこそ、本日はどうもありがとうございました。
対談を終えて
私が起業して1年経ったころから現在に至るまでの約2年間、鈴木先生からは数多くの有益な助言を頂戴しています。先生の大きな特徴の一つは、その迅速なレスポンス力です。メールを送ると、ほぼ瞬時にメールが返ってくる。その内容は単なる受領確認であっても、先生がしっかりと案件を手がけてくださるであろう安心感を与えてくれるものです。
鈴木先生からのアドバイスは、非常に丁寧で客観的です。契約に関して詳細を検討する際、先生からの提案をうかがうと、それが当社にとってどのような意味を持ち、有利か不利か、そして法的背景は何か、といったことを明確に理解することができます。
確かに、私自身もビジネスマンとして少なからず経験を積んできましたし、法的な知識もある程度は持っています。しかし、鈴木先生とのやりとりを通じて、自分の視点の偏りや考え違いに気づくことがしばしばあります。ビジネス判断と法的判断の境界、あるいはその中間といった微妙な部分についても、先生とのコミュニケーションを重ねることで、より深く考察する機会を得ています。
今後も先生のお力をお借りしながら、事業を正しく進めていきたいと思っています。
対談:2023年8月31日