【特別企画】社長対談

「大きく変化する中国の知的財産環境」
弁護士法人黒田法律事務所 鈴木龍司弁護士Vol.2(全3回) 2023.10.10

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黒田法律事務所鈴木龍司弁護士にお話をうかがう第2回。
今回は、中国における知的財産をめぐる環境の変化についてお話を進めていきます。

【特別企画】社長対談 ゲスト 弁護士 鈴木龍司(すずき りゅうじ)

弁護士法人黒田法律事務所パートナー、上海代表処首席代表

高校時より中国に興味を持ち、大学、大学院で法律を学ぶ傍ら、中国に携わる仕事を志す。
これまでに、中国法務(日本企業の中国進出案件、日本企業と中国企業との間の各種契約案件、中国子会社の労働紛争案件、中国子会社の知的財産管理案件等)、国内訴訟案件(売買代金請求事件、不公正取引方法差止請求事件等)、及び個人顧客の紛争案件等において、アドバイザー・代理人として関与した。中国法務全般、特に中国における人事や労働管理の分野に深い関心を持つ。
2013年より2017年まで北京に駐在。2023年より上海に駐在。

篠田邦彦教授
  1. Vol.1「三つの法的チャイナリスク」弁護士法人黒田法律事務所 鈴木龍司弁護士Vol.1
  2. Vol.2「大きく変化する中国の知的財産環境」弁護士法人黒田法律事務所 鈴木龍司弁護士Vol.2
  3. Vol.3「中国 デジタル化の加速と人の変化」弁護士法人黒田法律事務所 鈴木龍司弁護士Vol.3

大きく変化する中国の知財環境

ー 須毛原
ではここからは、知的財産にお話を移したいと思います。

ー 鈴木
知財に関しては、ここ数年で大きく変わってきていると思っています。いろいろな面から変化が起きていると言えると思いますが、まずその一つは、中国でもたくさんの発明が生まれてくるようになってきて、知財を適当に使っている立場から、中国企業においても自社の知財を守り、活用しようとの考えが生まれてきていることです。日系企業においても、中国にR&Dセンターを作っている企業が少なくありませんが、中国国内でもどんどん発明が生まれてきていますので、それをどのように取り扱うかという問題も生じています。例えば、一旦全部日本の本社に知財を集約して、それをグローバルに管理、活用していこうとのクライアントもいますし、国ごとや子会社ごとに管理させるというところもあります。このように、中国で生まれてきた知財をどのように管理していくかということも、中国で近時に生まれてきているトピックかと思います。

ー 須毛原
なるほど。私が北京駐在時代に、ある企業から東芝に眠っている知財を売ってくれないかという話がありましたが、そういう動きは中国では普通にあるのでしょうか。

ー 鈴木
結構ありますね。中国の企業が技術を積極的に取り入れていこうという姿勢もありますし、「ハイテク認定」といって一定の知財を持っていると地元の政府から優遇を受けられることがありますが、その条件となる知財について、自分たちで発明したものではなく、他者から譲り受けたものでもよいとされている場合には、他者から買ってくる場合もあります。そういった意味でも、特許をどんどん取り入れていこうという動きは中国企業でもあります。

ー 須毛原
企業にとって知財戦略はすごく大事だと思います。どのように価値を守り、さらなる価値に変えていくかということ、中国においてはまさにそういうことも考えなくてはいけないと思います。

ー 鈴木
そうですね。ですから、どこの企業も同じようなことを考えていらっしゃるかと思いますが、コアな技術は日本で守るけれども、それ以外の周辺のところは各国で管理すればいいよ、というところもありますし、積極的にライセンスしていこうという企業もあります。
知財の管理という意味で言うと将来発明が生まれたときに、誰が発明者に対して発明の対価を支払うかということも一つポイントになるかなと思っています。
例えば、中国の特許法では、特許権を付与された組織は、職務発明創造の発明者に権利付与時の奨励金を、また実施後には報酬を与えなければならない旨が規定されています。他方で、この点に関して、上海市の高級人民法院が公布したガイドラインを見ると、職務発明を行った発明者が職務発明の報奨金及び報酬の支払を請求する前提条件として、当該発明者が、特許権が付与された組織の従業員であることとの記載があります。そうすると、中国の子会社が、中国において生まれた発明について中国では特許出願をせずに、日本の親会社にその特許を受ける権利を譲渡してしまい、日本の親会社の方で中国で特許出願をした場合、特許権を付与された組織は日本の親会社ですが、職務発明を行った発明者は、日本の親会社の従業員ではなく、中国の子会社の従業員だとすれば、結局、当該発明者に対して誰も発明の対価を支払わなくてよいのかという事態が生じてしまうとも思えます。ただ、この点については、2019年に出された最高人民法院の判決で、職務発明の特許を受ける権利の譲渡処分は、職務発明をした元の組織の発明者に対する報奨金、報酬の支払義務に影響はないとされていますので、当該判決に従えば、職務発明をした元の組織がやはり報奨金及び報酬の支払いをしなければいけないということになると思います。しかしながら、それでは、日本の親会社が、中国の子会社に開発委託をし、生まれた成果が原始的に親会社に帰属するように約定した場合、特許を受ける権利の譲渡行為も発生しないとも解釈できるので、この場合には、誰が職務発明の対価を支払うのかとの問題がまた生じえます。


このように、中国で発明が生まれたときにそれをそのまま日本の親会社に持っていくのか、それとも中国で特許出願して、中国の子会社がまず特許権を得た上で日本に持っていくのかなどによって、法令に基づく対応も変わってきますので、その辺りを中国の法律に基づいてどうやるか、ということに関してご相談を受けたりしています。

ー 須毛原
特許侵害に対する考え方は変化してきていますでしょうか。

ー 鈴木
知的財産権、一般に関して言いますと、まずは著作権の侵害が中国ではしばしば問題になってきました。海賊版のドラマとか映画とか漫画とか、中国では野放しになっていて、その印象が非常に強いですよね。
以前は中国ではみんなただで見られるのが当たり前みたいな感じだったと思いますが、その辺りの意識も変わってきていて、最近だと月々一定のお金を払って、そういうサービスを利用する人も増えてきています。そういった、知的財産の意識というものが少しずつ上がってきているかと思います。

ー 須毛原
さらに自分たちが守らなくてはいけない知的財産もどんどん増えているから、自分たちのためにも法律を整備して守るという方向に今動いているということですね。

ー 鈴木
おっしゃるとおりかなと思います。リーディングカンパニーにそうやって意識を植え付ける、自分たちにとっても困るというようにすることで、それが浸透するような、そういった方向性に持っていこうとしていると感じます。

ー 須毛原
私は、日本企業が中国の知財環境を闇雲に恐れるというのは少し違うかなと思っています。かといって何もきちんとせずに知的財産を取られてから騒いでもしょうがありません。きちんと知的財産を守るという姿勢はやはり大切だと思います。

ー 鈴木
そうですね。知財に関する紛争についても少しだけお話したいと思います。今まで中国といえば模倣品、偽物が出回っているというイメージがあったかと思います。日本や海外の有名ブランドのロゴを勝手に使った商品を販売したり、有名ブランドの製品にデザインがよく似た商品を販売したりということです。ただ、今は模倣品を作るということにとどまらず、それと同時に、海外の有名企業の商標などを中国で勝手に登録してしまうということも行われています。
その結果何が起こるかと言うと、正規品の権利者が、中国において、冒認登録をした企業から逆に訴えられるというようなことも起きてしまっています。このあたりは気をつけないといけないのかなと思っています。ただ、商標法が最近改正されて、こういった使用を目的としない悪意のある商標出願は拒絶するとの文言が追加されるなど、悪意による出願に対しては、最近では今まで以上に厳しくなってはきています。

ー 須毛原
世界的にそういう動きなのでしょうか。

ー 鈴木
そうですね。仮にその国ではまだ商標登録されていなかったとしても、世界的に有名な商標などを無断で商標登録することは認めないとの制度が日本をはじめ各国で設けられており、中国でも同様の制度があります。それでも日本では有名であっても、中国ではまだマイナーなキャラクターなどは簡単に商標登録されてしまっています。このため、中国で何か商品化する場合には、まず自分たちの商標をいち早く登録していかないといけないというところがありますね。
次に、知財の侵害として、特許紛争の点についても若干話をさせて下さい。先ほど、対民間リスクとの話をしましたが、対民間リスクの中でも、最近特に気をつけなければならないものの1つが特許紛争リスクだと感じています。この点については、まず、著作権侵害や模倣品による商標権侵害の場合、権利侵害があることが比較的容易にわかるのですが、特許権侵害の場合、往々にして、侵害品が完成品の一部の部品に使用されていたりしますので、なかなか認知することができず、知らず知らずのうちに長期間に亘って侵害されていたというようなことが起きます。このような場合には、証拠を収集するのも一苦労です。侵害品が含まれている完成品を購入して、その分析をすることになりますが、侵害品の購入段階から、その侵害品が納入されるまでの一連の過程について、公証人によって公証してもらうということも必要となります。
それから、近時では中国企業が積極的に知財を取得しているとの話にも関連しますが、これに伴って、日系企業が中国企業から特許侵害で訴えられるとのケースも珍しくなくなってきています。被告となった場合にも慌てることがないよう、被告となった場合を想定したシミュレーションをしておくのが大事かと思います。また、冒認出願というのは、何も商標だけにとどまりません。特許権について冒認出願されたと疑われるものもありまして、しかもその疑われる特許権によって、日系企業が訴えられてしまったというケースまであります。当該ケースでは、相手方の中国企業と日系企業は、最初提携関係を結んでいたところ、気が付いたら自社の技術を冒認出願されてしまっていたというものでした。
このため、これまでは、中国企業と取引や提携する場合には、相手方の信用情報の確認をするように伝えていましたが、今はこれに加えて、相手方の知財情報も十分に確認するようにした方いいとのアドバイスをしております。仮に相手方の知財情報の中に、不相応な特許権や、明らかに他社のものと思われるロゴ、マークの商標権などがある場合には、警戒をする必要があると思います。

中国における知的財産の環境は、良い方向に変化してきていますが新たな問題も生まれているようです。
さて、次回は少しざっくばらんに、鈴木弁護士と中国との関わりについてお話をうかがいます。

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