社長エッセイ

社長の日曜日 vol.72 栃の実 2024.10.08 社長エッセイ by 須毛原勲

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 朝、公園の奥に続く林の中の道には、たくさんの栃の実が落ちていた。栃の実は大きくて硬く、気づかずに踏みつけたら足を捻挫しそうになった。踏んだ栃の外殻からは、栗に似た実が顔を出した。「とちもち」という和菓子があると聞いたことはあるが、食べたことはない。拾い上げてじっくりと眺めてみると、確かに栗に似ているが、栃の実には独特の渋みや苦みがあるという。その渋みや苦みは時間をかけて取り除かなければ、食べることはできないらしい。まだ時折暑い日もあるが、山道は既に落ち葉で覆われつつある。

 ドジャースの大谷翔平選手は、159試合に出場し、打率.310、197安打、54本塁打、130打点、59盗塁、OPS1.036という驚異的な成績でレギュラーシーズンを終え、現在プレーオフが進行中である。ワールドチャンピオンをかけてプレーする大谷選手の活躍が楽しみである。一方、我が巨人軍は4年ぶりのセ・リーグ優勝を果たした。 MLBではレギュラーシーズン終了直後にプレーオフが始まるが、日本のプロ野球はクライマックスシリーズまで少し間が空く。巨人軍はCSの決勝が始まる10月16日まで試合がない。9月に勢いづいた打線の勢いが、この間に衰えないか心配である。

 先週このブログで触れた、広東省深圳市において日本人学校に通う10歳の男児が登校中に男性に刺され、その後死亡したという痛ましい事件については、その後メディアでの報道が途絶えている。この事件と同じ頃、「日中、水産物禁輸緩和で合意」との報道がメディアを賑わせた。東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を発端とした中国による日本産水産物の全面禁輸措置を緩和する、とのことで一致したとの内容であったが、記事を詳細に読むと、輸入再開の具体的な時期は明言されていない。

 日本政府と国際原子力機関(IAEA)は、中国も交えた処理水のモニタリングを追加実施することを条件に中国側が日本産水産物の全面禁輸措置を段階的に緩和することで合意したとされているが、その実施には慎重な姿勢が見られる。サンプリングを実施した結果に基づき、科学的な根拠を確認しながら「一歩一歩進める」との発言があったに過ぎない。

 一部メディアで報じられた「日中、水産物禁輸緩和で合意」「中国が段階的輸入再開へ」という見出しと実態はかけ離れている。日中関係のさらなる悪化を避けるために、誰かが意図的に忖度しているかのようなタイミングと報道の仕方には、不自然な意図を感じざるを得ない。

 9人が立候補した自民党総裁選は、決選投票の結果、石破茂氏が総裁に選ばれた。高市早苗氏への期待で大幅に上昇していた株式市場が、石破茂氏が総裁に選出された翌週、大暴落した。選挙戦の最中、裏金問題に関与していたとされる自民党の国会議員を、石破氏が次の選挙で公認すると発言したかのように報じられた。これに対し、野党やメディアは一斉に石破新総裁を激しく批判した。まさに自民党の変革が期待されるこの時に、石破茂氏自身が逆向きに変わってしまったかのように映ったのである。新聞等の世論調査結果も、新総裁への「ご祝儀相場」には程遠い状況であった。

 そうした状況の中、日曜日に「裏金議員非公認」というニュースが全国を駆け巡った。

 石破茂首相が「ブレている」といった報道が相次いだが、そもそも石破氏は総裁選後に裏金議員を全員公認するとは一言も述べていないように思う。それにもかかわらず、メディアや野党は石破氏を一方的に否定し続けているのが現状だ。自民党総裁の任期は3年である。今月予定されている衆議院総選挙の結果次第ではあるものの、自民党総裁に選ばれたばかりの石破氏が、その後も日本の総理大臣として続投する可能性は極めて高いと言える。その石破氏を批判ばかりしていても仕方ないように思う。

 10月4日の所信表明演説を翌日の新聞で改めて読んでみた。

 中国に対しては、「戦略的互恵関係」の包括的推進を掲げ、あらゆるレベルでの意思疎通を強化する方針が示されている。その中で深圳での事件に対し、「断じて看過しがたい」と明確に表明し、我が国として主張すべき点はしっかりと主張する姿勢を打ち出しつつ、責任ある行動を中国側に強く求めた。また、諸懸案についても対話を通じて解決を図り、共通の課題においては協力する「建設的かつ安定的な関係」を日中双方が努力して構築していくとした。時間が限られた所信表明の中で、首相が敢えて深圳の事件に言及したことについて、私は高く評価したい。

 石破茂氏が田中角栄元首相を師と仰いでいるのはよく知られている。

 その田中氏が切り開いた中国との関係を、石破氏が今後どのように進展させていくのか、注目して見守りたい。

10月6日

by 須毛原勲

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