社長の日曜日

社長の日曜日 vol.106   酷暑の狭間    2025.08.04 社長の日曜日 by 須毛原勲

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猛暑に炙られた街で、熱は気温だけに留まらない。

国会も世界も、季節の只中で沸点を迎えている。

酷暑の余熱と台風の涼

 猛暑は衰える気配を見せない。30日、気象庁は兵庫県丹波市で観測史上最高の41.2℃を記録したと発表した。30℃を真夏日、35℃を猛暑日、40℃を酷暑日と定義するが、もはや猛暑日は日常で、30度を少し超えたくらいで「今日は幾分涼しい」と錯覚するほどだ。

 ジョギングコースの濃い木陰で掌ほどの大きな葉に気づき、庭のいちじくを頬張った幼い日の記憶がよみがえる。枝を覗けば淡緑の実が鈴なりに膨らみ、赤紫色に熟するのを待っているかのようだ。

 台風9号(クローサ)通過後、気温はわずかに下がった。夜半の豪雨が残る土曜早朝、小雨の中を「行けるところまで」と走り出す。ジョギング姿はまばらで、ラジオ体操の輪も数えるほど。ひんやりした風に包まれた街は一瞬静寂を取り戻した。とはいえ湿度は高く、走り終える頃にはシャツが汗で肌に張り付いていた。

退陣圧力に揺れる少数与党

 街の熱気が冷めぬまま、永田町もまた沸騰点に達している。参議院選挙から2週間が過ぎた。

 石破首相はなお精力的に官邸と国会を往復し、メディアのカメラの前でも「辞任の考えはない」と断言している。国民の声に耳を傾けつつ、野党とも真摯に協議を重ねる姿勢を崩していないが、衆参ともに単独過半数を欠く自公連立には、今後も綱渡りの国会運営が待ち受ける。

 党内でも火種がくすぶる。旧安倍派を中心に、麻生派・茂木派、さらに若手議員までもが「選挙敗北の責任を取るべきだ」と首相退陣を公然と求め始めた。世論調査の支持率低下を理由に、早期の総裁選や解散総選挙をちらつかせる向きもある。しかし、石破首相が辞めたところで、連立与党が参院で少数という構図は変わらず、法案成立のたびに野党との個別協議が不可欠である現実は残る。

 補正予算、防衛費増額関連法案、社会保障制度改革――国会には難題が山積みだ。石破首相には、党内の不協和音を抑えつつ、超党派の合意形成を図る巧みな舵取りが求められる。退陣論の嵐を耐え抜き、政治の空白をつくらないことこそが、今まさに国民が期待するリーダーシップではないか。

15%の幕間、ビッグディールへの布石

 トランプ大統領は7月31日、「相互関税」を改定する大統領令に署名し、8月7日に発動する。日本・EU・韓国はいずれも税率を15%で統一、日本車関税も25%→15%へ圧縮された。正式合意書を交わさずまとめた赤澤経済再生相の賭けはひとまず成功し、各国は巨額の投資・エネルギー購入を差し出して幕を引いた。

 同時に米中は29日のストックホルム協議で追加関税停止を〈90日延長〉、米側145%→30%、中国側125%→10%と大幅圧縮。北京を最優先するワシントンは台湾総統のニューヨーク寄港を土壇場で取り消し、配慮ぶりを露わにした。延長期限の10月末までにトランプ大統領の訪中が実現すれば、15%合意など前座にすぎない “ビッグディール” が世界を揺らすかもしれない。

トルネードからイチローへ

 MLBの殿堂入りスピーチでのイチローの英語によるスピーチが素晴らしかった。

 数え切れないほどの記録を打ち立てるために――いや、その先にある「自分との約束」を果たすために――決して日々のルーティンを崩さず、黙々と努力を積み重ねてきた。“継続こそ達成の土台になる”。

 壇上で終始英語を貫いたイチローが、ただ一度だけ日本語を交えた瞬間がある。

 「野茂さん、ありがとうございました」

 背番号16―ドジャースのユニフォームに袖を通した野茂英雄が、メジャーのマウンドに立った1995年5月2日。大型連休の谷間、私は同僚たちと一緒に仕事そっちのけでオフィスビルの1階にある家電店の店頭モニターに釘付けになり、サンフランシスコ・ジャイアンツ戦の中継にかじりついていた。独特のトルネード投法が風を切るたび、誰もが画面に吸い込まれた―あの昂揚感は、いまも鮮明だ。

 イチロー、松井秀喜、ダルビッシュ有、そして大谷翔平。世界を沸かす日本人選手は続々と現れたが、扉をこじ開けた最初の一投は、間違いなく野茂英雄が放った。

 すべては、あの日のトルネードから始まったのである。

8月3日


〈お知らせ〉

当社ホームページにて全14回にわたり連載してきた「初めての海外進出 ― 成功への鍵」は、全ての掲載を完了した。おかげさまで、多くの方々にご覧いただくことができた。

少子高齢化が進行する日本において、中小企業の海外展開は、日本のGDPを押し上げるための極めて重要な手段の一つである。多くの中小企業の経営者と対話する中で、海外展開に対する強い意欲を感じる一方で、「何を、どのように進めればよいのか分からない」との声も少なくない。実際、「海外展開」という言葉には、あまりにも多くの未知と不安が含まれている。

本連載「初めての海外進出 ― 成功への鍵」は、そうした方々に向けて、海外展開をどのように捉え、どのように準備・実行していくべきかを体系的に整理したものである。

筆者自身が、海外事業に34年従事し、直近の5年間で中小企業の海外進出支援に携わってきた経験と知見をもとに構成した全14回のシリーズである。

海外市場を志す企業の方々にとって、本連載が一つの道標となれば幸いである。

詳細は下記URLから

https://sugena.co.jp/go_overseas

by 須毛原勲

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