前回は上海の浦東と浦西が人々にどのようなイメージを持たれているかについて簡単にお話ししましたが、今回は上海という土地柄と深く結び付いたもう一つのテーマ―住宅価格―について触れてみたいと思います。住宅価格は、いつの時代も食後の談笑で取り上げられる定番の話題であり、人々の神経を刺激し、日々の暮らしにも大きな影響を及ぼします。まさに、誰もが愛しながらも憎まずにはいられない存在です。
上海人の家屋は木造長屋から始まり
上海の人々が最初に暮らしていたのは、テラス状に連なる木造家屋でした。その後、レンガや石で造られた石庫門へと徐々に移り変わります。現在、石庫門は海派文化の精髄として観光客が行き交うおしゃれなエリアになっていますが、当時は一つの門洞に3世帯が身を寄せ合い、1世帯あたり十数平方メートルしかない狭い空間に暮らしていました。台所は共同、トイレも公衆トイレしかないという窮屈な環境でした。
1950年代に入ると、上海では6階建ての集合住宅が多数建設され、「新村」と呼ばれる団地が誕生しました。新村の住宅にはそれぞれ専用の台所と浴室が備えられ、敷地内には朝食の屋台や果物店、理髪店などの生活施設も設けられました。
とはいえ、当時は計画経済(※1计划经济)下で住宅はすべて国有でした。売買という概念はなく、新築住宅は家族人数や婚姻状況、職場での評価などを基準に勤務先が分配していました。需要が供給を大きく上回り、3世代が同じ屋根の下で暮らすのは当たり前で、上海市民1人当たりの居住面積はわずか4.5平方メートルでした。多くの人がより良い住まいを求めて何年も順番を待ちながら、それでも恩恵にあずかれない状況が続いていました。(※2僧多粥少)
1980年代には、住宅需要のさらなる高まりを受け、上海では「換房」と呼ばれる住み替えが盛んになります。住民は階層や設備、面積、水洗トイレの有無(トイレ付きは面積4平方メートル分に相当する)、通勤距離などを基準に自発的に家を交換しました。貨幣のやり取りはありませんでしたが、暗黙の相場が成立していたのです。
1990年代に入ると、上海ではいよいよ住宅の商品化が始まり、それまで配分されるだけだった公営住宅を個人で購入できるようになりました。当時の住宅価格は1平方メートル当たり1,000元に届かないくらいでした。(一般職員の平均月給はおよそ300元)
2000年のミレニアムを迎える頃には、住宅価格は1平方メートル当たり3,000元に上昇しましたが、平均月給も約1,200元へ伸びたため、住宅価格と給与の比率自体には大きな変動がありませんでした。都心から少し離れたエリアであれば、一般的な家庭が選ぶ2LDKを30万元ほどで購入でき、経済的な負担はそれほど大きくなかったのです。当時、人々が住み替えを行う主な理由は、より快適な生活空間を求めることであり、住宅そのものを資産と見なす意識はほとんどありませんでした。
「住むための家」から「投資としての家」へ

2002年から2007年にかけて、上海の住宅価格は徐々に上昇し、市中心部の平均価格は1平方メートル当たりほぼ1万元に達しました。浦東の陸家嘴金融エリアでは2万元に迫り、金茂大厦を背景に黄浦江を望む高級マンションでは、1平方メートル当たり12万元という成約例も見られました。
2008年の金融危機を乗り越え、さらに2010年の上海万博開催を経た後、上海の住宅価格はまさにロケットのような勢いで上昇します。2009年から2019年までの10年間で、平均単価は1平方メートル当たり2万元から5万元へと跳ね上がり、上昇率は150%に達しました。2019年の年間成約件数は約6万5千戸に上りました。
不動産取引市場は成熟の度合いを増し、住宅購入やローンに関する政策も着実に整備されました。それに伴い、人々の住宅観は「生活必需品」から「資産を増やす手段」へと大きく変化してきました。適切なタイミングで購入できた人々にとって、不動産はまさに富の分水嶺となったと言えるでしょう。
住宅価格評価を大きく左右する「立地」

その後、住宅価格はさらに上昇を続けました。価格差を生む要因には物件の新旧や間取りなどもありますが、何より大きな評価基準はやはり立地です。
上海市内には「内環」「中環」「外環」と呼ばれる三つの高架環状道路があります。
内環は静安寺・新天地・外灘・陸家嘴といった上海随一の繁華エリアを取り囲み、名実ともに市の中心部です。豊かな歴史と文化に加え、伝統ある医療・教育資源も集積しています。そのため地価はまさに“寸土寸金”で、上海でも最高水準の値段になっています。新築物件の平均価格は1平方メートル当たり17万元に達し、超高級物件では1平方メートル当たり30万元を超えた成約例もあります。
中環は内環の外側を走る環状高架道路で、内環との間隔はおおむね7~10キロメートルです。内環ほどの華やかさはありませんが、市の副都心が形成されており、計画的に開発された住宅や商業施設が多数あります。新築物件の平均価格もすでに1平方メートル当たり10万元を突破しています。
外環は中環のさらに外側を一周する全長約98キロメートルの環状道路で、中環からの距離はおよそ10キロメートルです。エリアが広大である一方、交通網や生活インフラの整備はまだ十分とはいえず、それが住宅価格にも反映されており、平均価格は1平方メートル当たり5万元に満たない状況です。
上海随一の高級住宅街「上只角(シャンジージャオ)」
環状道路による区分とは別に、上海人がよく口にする「上只角(シャンジージャオ)」と「下只角(シャージージャオ)」という呼び方にも、独特の意味合いがあります。
「上只角」という言葉は旧上海の租界時代に由来し、フランス租界と公共租界、つまり現在の南京西路、淮海路、巨富長エリアを指していました。当時は外国人や社会的名士が集まり、優れた生活環境と文化的な雰囲気が育まれました。「上只角」と聞くと、人々はプラタナスに包まれた洋館、静かな弄堂(路地)、洗練された社交などのライフスタイルを思い浮かべます。この地域の高級住宅市場はいまも活況で、価格は上昇を続けています。1平方メートルあたり17万元を超える平均単価、総額4,000万元前後の大型物件でも、販売初日に完売することが珍しくありません。
これに対して「下只角」は、現在の閘北(ザーベイ)、虹口(ホンコウ)、楊浦(ヤンポー)などにあたり、住宅環境はあまり良くなく、労働者階級が多く住むため混雑と騒音が目立ちます。今では高層ビルが立ち並び、上海でも屈指の高値が付く浦東・陸家嘴でさえ、古い上海人から見れば「下只角」。買えないからではなく、買いたいとも思わない─そんなスタンスすら感じられるのです。
年々ハードルが高くなる「上海で家を買う」

国内のほかの一線都市と比べて、上海の住宅平均価格は最も高く、取引量も常に上位にあります。価格が上がるにつれ、家を買うハードルは年々高くなっています。
2024年の上海市の平均月収は12,307元で、1平方メートルの住宅を購入するのでも少なくとも4か月分の給与を貯める必要があります。たとえば3人家族が中環内にある80平方メートルの2LDKを買う場合、総額は約800万元になり、まとまった貯蓄や親からの援助がなければ、3割の頭金を用意するだけでも大きな負担になります。頭金を支払った後には、長いローン返済が待っています。多くの地元家庭は住み替えや親子2代の協力、ローンを駆使して次世代の新居を確保していますが、支援のない外来の若者にとってはマイホーム取得は遠い夢となり(※3遥遥无期)、プレッシャーは一層大きくなります。
それほど厳しい状況でも、人々は上海に自分の家を持つために相応の負債を背負う道を選び続けています。豊富なリソース、広い情報網とチャンス、この街の発展ポテンシャルがもたらす安心感と将来の可能性を信じているからです。
上海の住宅価格は今後も経済成長や世界市場の影響を受けて上下し続けるでしょう。より多くの人が適正な価格と政策のもとで、自分に合った安らぎの住まいを見つけられることを願っています。
〈気になる中国語〉
1.计划经济 拼音: jì huà jīng jì
意味: 政府が生産・資源配分・消費をあらかじめ計画して決定する経済体制
日本語訳: 計画経済
2.僧多粥少 拼音: sēng duō zhōu shǎo
意味: 人が多く物が少ないため行き渡らないことをたとえる成句
日本語訳: 「僧多くして粥少なし」
3.遥遥无期 拼音: yáo yáo wú qī
意味: 実現までの時期がはるかに遠く、いつ叶うか分からないさま
日本語訳: 遥か先で期しがたい/実現は当分先
これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!
