リアル中国生活!ミキの上海通信

vol.29  保険ー恐ろしい存在から人気者へ(※1 洪水猛兽 ※2 香饽饽)        2025.06.20 リアル中国生活!ミキの上海通信 by Miki

 保険について話すと、多くの人の反応はたいてい「保険なんて当てにならない」というものです。また、保険の代理人と聞くと、人々は距離を置こうとします。(※3避而远之)

 しかし、ここ数年で保険を購入する人は増加しており、保険代理人の採用基準もますます厳しくなり、より専門的になっています。

 人々は保険に対して、より多くの理解を持つようになってきました。


中国での一般的な保険

 一般の人々にとって最も身近なものは、年金保険と医療保険です。

 上海に住む人であれば、退職後に政府から支給される年金を受け取ることができます。これは、退職後の生活費をある程度保障するための経済的支援となります。年金は、在職中に個人の拠出、勤務先の拠出、そして政府の補助によって構成されています。

 一般的に、保険料の納付期間が長く、納付額が多いほど、退職後に受け取れる年金の金額も多くなります。現在、上海の住民が毎月受け取れる最低年金額は1,490元(約3万円)です。

 また、医療保険も政府の補助によって運営されており、年齢に応じて異なる保険料を毎年支払うことで、診察や入院の際に一定割合の医療費が補償されます。


保険に対する人々の感情の変化

 20年前、人々はお金が手に入るとまず銀行に預けるのが一般的で、保険を勧められても強い抵抗感を抱くことが多くありました。

 まず、保険を勧める際に「万が一の不幸が起きたら」といった言葉を使われることで、無意識に拒絶反応を起こす人が多くいました。さらに、実際に保険を使うことなく無事に過ごせた場合、「保険料がもったいなかった」と感じる人も少なくありませんでした。最も問題なのは、保険に加入していたのに医療費の補償が受けられなかったという話がよく聞かれたり、あるいは保険を活用した資産運用で利回りは悪くないものの、90歳にならないと給付が始まらないというような例も多くあったりしたことです。

 こうした事例の背景には、保険商品や契約内容が非常に多岐にわたる中で、それらを十分に理解しないまま保険に加入してしまい、期待していた効果が得られなかったという現実があります。そして、それを引き起こしたのは、専門性や責任感に欠ける保険担当者が、商品内容や契約条件をきちんと説明しなかったことにあります。その結果、保険は恐ろしい存在のように忌み嫌われ、保険担当者は一時期「人を騙す職業」(※4坑蒙拐骗)とまで見なされることもありました。

 次第に、物価の上昇と将来の生活保障に対する人々の関心が高まる中で、政府から支給される基本的な年金保険や医療保険だけでは、必要な保障としては不十分であるという認識が広がり、人々は民間の商業保険に目を向け始めました。

 商業保険の商品はますます多様化しており、医療保障を目的としたものだけでなく、資産運用としての投資型保険も登場しています。業界全体も次第に整備され、保険業界で働く人の採用基準もより高く、より専門的になってきました。さらに、インターネットの急速な発展により、人々は自らさまざまな保険商品を調べ、比較検討できるようになっています。その結果、保険の選択を誤って後悔するケースや「騙された」と感じるような事例は大幅に減少しました。

 今では、人々は受け身で保険を勧められるのではなく、自分から積極的に最適な保険を探すようになっています。自身や家族のために保険に加入することは、家庭の資産運用・資産配分の重要な一部となりつつあります。

 従来の習慣として、高齢者には年金保険を用意するのが一般的でした。しかし現在では、中年層も自分自身のために保険を検討するようになっています。上に親を支え、下に子どもを育てる家庭の柱として、医療保険、傷害保険、資産運用型の保険など、さまざまな選択肢が視野に入れられています。また、子ども向けの傷害保険や教育資金保険なども豊富にあり、目的に応じた商品が選べるようになっています。保険はもはや高齢者のためだけの保障ではなく、家族全体の安定を支える手段として、重要な役割を果たす存在となっているのです。


「ハイエンド保険」広がり

 身近で実際に起きている、実感を伴う例をいくつかご紹介します。

 かつてはごく一部の人しか利用しなかった「ハイエンド医療保険」が、いまや「中産階級の標準装備」と呼ばれるまでに広がり、年間約30%という成長を見せています。

 公立病院では人があふれ、専門医の予約を取るのも困難ですが、高額医療保険に加入すれば、多くの私立病院や一部の公立病院の特別診療枠もカバーされ、医療保険証がなくてもいつでも受診可能です。プライバシーの守られた空間とスムーズな支払いシステムにより、より快適な医療体験が得られます。

 また、少し前には「香港で保険に加入する」ことも流行しました。香港は今もなお、国際的かつ標準化された金融都市というイメージがあり、保険市場もより成熟していて商品も多様です。中長期のリターンが比較的高く、複数通貨に対応していることから、市場変動への対応力が高い点も魅力です。こうした特徴から、多くの中国本土の人々が香港の保険に加入し、「一つ保険があれば、将来も安心」と感じていました。

 さらに、子どもへの投資も惜しまないのが親心です。子ども向け保険の需要は、医療保険や老後の保険に次いで高く、52%の新米の親が子どものために商業保険に加入する意向を持っています。健康・安全面の保障はもちろん、将来の教育資金の準備といった長期的な目的でも活用されています。


保険業界の人材もアップグレード

 保険業界の成長を実感できるもう一つの大きな兆しは、身の回りにこの業界に入る人が増えていることです。

 例えば、かつての985(※中国の名門大学群)出身の同級生や、以前一緒に働いていた同僚、さらには多くの専業主婦など、多様な背景を持つ人たちが保険業界に進出しています。いずれの方も、例外なく高い教育レベルを備えています。保険代理人や保険ブローカーになるには、豊富な保険知識と関連する法律・制度の理解が求められるだけでなく、業界の変化に柔軟に対応し、常に学び続ける力も必要とされます。

 2023年の中国保険業界人材報告によると、学士以上の学歴を持つ人の割合は約72%に達し、5年前と比べて平均学歴が17%も上昇しています。「清華大学卒の人が保険を売っている」と聞いても、もはや驚かれない時代になりました。こうした専門人材の流入によって、この業界は再び人々の信頼を取り戻しつつあります。

 保険は単なる「最後の防波堤」ではなく、人生のリスクを計画的に管理するための選択肢の一つとなりつつあります。この業界が健全に発展し、一人ひとりが自分に最も適した保険を選べるようになることを願っています。

<気になる中国語>

1.洪水猛(hóng shuǐ měng shòu)

意味:字義は「洪水と猛獣」。転じて、非常に大きな災いや危険な存在のたとえ。

日本語訳:恐ろしい災厄、忌み嫌われる存在。

2.香饽饽(xiāng bō bo)

意味:もとは香ばしい蒸しパンを指す言葉。現在は「非常に人気があり、みんなが欲しがる人や物事」の意味で使われる。

日本語訳:引く手あまたの人気者、注目の的。

3.避而(bì ér yuǎn zhī)

意味:嫌悪や恐れから、自分から離れて近づかないようにすること。

日本語訳:敬遠する、あえて距離を取る。

4.坑蒙拐(kēng mēng guǎi piàn)

意味:騙し、だまし取るなど、不正な手段で他人を陥れたり金品を得たりすることの総称。

日本語訳:詐欺まがいの手口で人を騙すこと、悪質な詐欺行為。

■ 985とは?

「985工程(985プロジェクト)」とは、中国政府が世界レベルの一流大学の育成を目的として、1998年5月に発表した高等教育強化プロジェクト。
「985大学」はエリート校の代名詞であり、中国国内では「985出身」と言えば極めて優秀な学歴を意味する。企業の採用や研究職でも高く評価される。

対象大学

最初に北京大学・清華大学が選ばれ、その後39校が指定されている。代表的な大学は以下の通り:

北京大学

清華大学

復旦大学

上海交通大学

浙江大学

中国科学技術大学など

これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!

by Miki

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