リアル中国生活!ミキの上海通信

vol.31 専業ママの困難と幸せ        2025.07.04 リアル中国生活!ミキの上海通信 by Miki

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 家庭に新しい命が誕生すると、家中が喜びに満ちあふれ、和やかな空気に包まれます。現在は一人っ子世代が家庭を築くことが多く、祖父母4人と両親、計6人が1人の赤ちゃんを囲む光景も珍しくありません。大変なこともありますが、誰もが喜んで手を差し伸べ、その苦労すら大きな原動力になります。

 2人目解禁や政府の多様な出産奨励策を追い風に、兄弟姉妹のにぎやかな暮らしを親世代やテレビドラマでしか知らず、その強く親密な絆に憧れてきた70~80年代生まれの人たちは、兄弟姉妹の深い絆(※1 手足情深)という夢の実現に向けて動き始めました。実際、2016年には第2子の出生率がピークを迎えています。

 子どもが1人でも2人でも、その成長をそばで見守る時間は、私たちの心を温めてくれます。子供達が親を膝元で歓ばせる(※2 子女承欢膝下)という光景が、願いから日常へと変わりつつあるのです。


乳児期の育児は祖父母頼み

 もっとも、子どもを産むのは易しいが、育てるのは難しい(※3 生儿容易养儿难)ということわざが示すとおり、にぎやかな毎日の裏側にはてんやわんやの大騒ぎ(※4 鸡飞狗跳)と形容されるようなドタバタがつきものです。

 まず、中国では2歳未満の幼児を受け入れる公的保育機関がきわめて少なく、多くの私立園も入園は2歳からしか認めていません。そのため共働き世帯では、幼い子どもの世話を祖父母に頼らざる(※5 仰仗)を得ないのが現状です。

 さらに第2子が生まれると、祖父母も高齢となり体力が1人目のときほどは続きません。そこで掃除や食事づくりを手伝う「お手伝いさん」を雇うか、24時間住み込みで赤ちゃんを世話する「育児ヘルパー」をお願いする家庭が増えています。育児ヘルパーの月額費用は1万元(20万円)近くに達し、栄養士資格を持ち、離乳食づくりや英語でのコミュニケーション、知育遊びまでこなせる人材となると、さらに希少で高額です。

 とはいえ、育児ヘルパーがいても、赤ちゃんを完全に他人に任せるのは不安が残ります。結局のところ、家族の誰かが家にいることが、いちばんの安心材料なのです。

 


2人目の誕生をきっかけに生まれる「専業ママ」

 第1子のときに経験した数々の苦労も、第2子が生まれると「小雨程度」だったと思えるほど、2人育児は格段にハードルが上がります。兄弟姉妹が寄り添いながら成長する温かな光景の裏側では、感情や時間を均等に配分しなければならず、家計の支出もすべて倍増し、経済的な負担が重くのしかかります。しかも下の子がまだ授乳期にあるころ、上の子はちょうど初等教育へ踏み出す大切な時期を迎えるため、保護者の自由時間は大幅に圧縮され、まさに多忙で手が足りない(※6 分身乏術)の状態に陥りがちです。

 こうした困難のほとんどを、子どもと深い絆で結ばれた母親がより多く引き受ける傾向があります。幼児期は特に手厚いケアと時間を要するため、仕事と家庭の両立は一層難しくなり、最終的に「専業ママ」(※7 全职妈妈)という選択を迫られるケースも少なくありません。


子育て後の社会復帰はなかなか難しい

 かつて「専業ママ」と呼ばれる人たちは、多くの場合、仕事をあきらめて家庭に入り、1年365日、朝から晩まで休む間もなく家事と育児に追われていました。家にいるということは、収入も社交も楽しみも得にくいことを意味します。心身をすり減らしていても、社会からの評価は乏しく、家族でさえその労力を十分に理解してくれない場面が少なくありません。収入のない立場ゆえに、家庭内の意思決定でも発言力が弱くなりがちです。

 近年の多くの専業ママは「子どもの未就学期を乗り切ったら、いずれ職場に復帰したい」と考えています。しかし現実には、企業の採用現場では家庭の負担が少なく、仕事に全力投球できる若手が優先される傾向が強く、専業ママが再びキャリアの舞台に戻るハードルは非常に高いのが実情です。

 統計によると、母親の 61% が一度は専業ママを経験しており、95後と呼ばれる1995年以降生まれの女性(※8 95后)でも 5人に1人 が専業ママを選択しています。さらに、2人目の子どもがいる家庭では 16% の母親が専業に徹しているのが現状です。


新しい生き方としての「専業ママ」

 専業ママの数は年々増加しているものの、かつて「見えない存在」とされがちだった立場には、少しずつ光が当たり始めています。家庭にすべてを捧げ、自分を後回しにする「良い母・良い妻」という旧来の価値観は、社会からも当事者からも、もはや当たり前とは見なされなくなりました。

 それでも専業ママの日常には、多くの現実的な悩みと自己疑念がつきまといます。子どもの学習や成長が期待どおりに進まないときや、「専業は特別なスキルを要しない気楽な仕事なのでは」と感じてしまう瞬間には、自己肯定感が揺らぎがちです。「全力で向き合っているはずなのに、なぜうまく育てられないのだろう」と自問しながら、焦りや葛藤に陥る姿も少なくありません。

 しかし最近では、前向きで健康的、そして自分らしさを失わない専業ママになることを目標に選択する人が増えています。子どもと四六時中過ごせる喜びは格別で、「初めて歩き、走る瞬間を見届けるのは、お金では買えない財産です」と語る方もいます。

 専業に転じたことで時間にゆとりが生まれ、科学的な育児法を学び、祖父母がつい甘やかしてしまう古い習慣を避けられるのも利点です。また、彼女たちはスキマ時間を有効活用する(※9 见缝插针)という精神で、空いた時間を活かしながら自分の世界を広げています。すべてを家庭と子どもに注ぐのではなく、適度に“手放し” (※10 放手)、ときには“サボる”(※11 偷懒)ことも覚えました。

 社交面でも心配はありません。スポーツやアウトドア、各種サロンや習いごとの場で活躍する姿が目立ちます。インターネットやSNSを駆使すれば、興味のある情報をいつでも得られ、世界は決して閉ざされていません。なかにはオンラインや短時間の仕事で収入を得て、心身を回復させる(※12 回血)工夫をする専業ママもいます。

 彼女たちは、自分の献身が家庭の安定と子どもの健やかな成長に欠かせないと信じています。それは「犠牲」ではなく「選択」です。疲れたときは思い切って子どもを預けて外出したり、旅行に出かけたりしてリフレッシュすることも可能です。この余裕は、本人の意識と行動の変化に加え、家族の理解や社会的承認が後押ししています。

 すべての専業ママが、仕事の選択肢を広げ、家庭でもゆとりを持てる社会になりますように。企業がより多くのパートタイムやフレックスタイムを提供し、社会が育児の公共的価値を認め、政策が母親の汗を分かち合う――そんな環境の中で、誰もが日々の“かけら”から自分の価値を見いだせることを願っています。

<気になる中国語>

1.手足情深(shǒu zú qíng shēn)

意味: 兄弟や極めて親しい人どうしの感情が深いさまを表す。

日本語訳:兄弟同然の深い絆

2.承欢膝下(chéng huān xī xià)

意味: 子どもが親のそばにいて喜びをもたらし、心から仕えることを指す。

日本語訳:親の膝元で歓ばせる

3.生儿容易养儿(shēng ér róng yì yǎng ér nán)

意味:子どもを産むことは比較的たやすいが、育て上げることは大変だというたとえ。

日本語訳:子どもを産むのは易しいが、育てるのは難しい。

4.鸡飞狗跳(jī fēi gǒu tiào)

意味: 鶏が飛び、犬が跳ね回るような大騒ぎを指し、物事が多くて忙しく混乱している状態。

日本語訳:てんやわんやの大騒ぎ

5.仰仗(yǎng zhàng)

意味: 頼りにする、依存する。

日本語訳:頼る/依存する

6.分身乏术(fēn shēn fá shù)

意味: 身体を分けて同時に複数のことをする術がない、つまり手が回らず両立できない状況。

日本語訳:多忙で手が足りない

7.全职妈妈(quán zhí mā ma)

意味:  収入を伴う仕事を辞め、家庭と育児にフルタイムで専念する母親

日本語訳: 専業主婦、専業ママ

8.95后(jiǔ wǔ hòu)

意味: 1995年以降(通常は1995〜1999年ごろ)に生まれた中国の若い世代を指す呼称。

9.(jiàn fèng chā zhēn)

意味: 隙間を見つけたら針を差し込むように、わずかな時間や空間を最大限に活用すること。

日本語訳:隙間時間を有効活用する

10.放手(fàng shǒu)

意味:  手を離し、相手や状況に任せること。

日本語訳: 手放す/任せる

11.(tōu lǎn)

意味: やるべきことを故意に怠って楽をすること。

日本語訳:  サボる/怠ける

12. 回血(huí xuè)

意味: 失った体力・気力・資金などを回復して元気を取り戻すというネットスラング。

日本語訳:リフレッシュして“HP回復”する。

これらの中国語を覚えることで、最新の話題や中国文化について理解が深まるでしょう。ぜひ日常会話の中で活用してみてください!

by Miki

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